いつもの喫茶店でプリンを買おうとしたのに売り切れてた

石水 灰

おにいさん

 僕はどこにでもいそうな男だ。そして僕は、不幸だ。街を歩けばカラスの糞が落ちてくる。帽子をかぶっていても、3回、4回と落とされる。誰かが蹴った石ころに躓くし……

 でも、僕にはささやかな楽しみがある。帽子と頭についた糞を洗ってから、お気に入りの喫茶店に行くんだ。そこでコーヒーとプリンを頼むんだけど、美味しいんだよ。一口食べると頬がとろけて、二口食べると語彙力がなくなる……そんなプリンなんだ。コーヒーも、お店の人の入れ方がよくて、とても美味しいんだ。

 今日もそんな喫茶店にやってきたんだけど、とても人が並んでいた。見間違いかと思ったが違うようだ……どうする?今日はコーヒーとプリンは頂かずに帰るか?

 そう考えた僕だったが、時間はあるから並んで待つことにした。幸いかどうかはわからないが、後ろに人は並ばなかった。

 1時間くらい待っただろうか。そんな時に急に人がいなくなっていった。どうしたのだろう、と思ったが、中に入れる。

 中に入ると、人がいなくなっていた。まあ、関係ないだろう、そうおもっていたが、関係あった。

「すいません、コーヒーとプリンください」

 近くにいたアルバイトであろう青い髪をした小さめの青年に注文した。

「あっ、申し訳ございません……えっと、本日はプリンが売り切れてしまいまして……」

「そうか……なら、ホットのコーヒーをひとつくれるか?」

「は、はい!」

 そうか、プリンはないのか……残念だ。あの子は入ったばかりのアルバイトかな。たどたどしかったし、そうなのだろう。

「はあ、プリン、ないのか……」

 気付いたらそう漏らしていた。

 5分程待つと、コーヒーが来た。

「お待たせいたしました。いつものコーヒーです。」

 運んでくれたのはいつもの黒髪ロングに眼鏡の女性の店員だった。

「ありがとうございm」

「それと、プリンです」

「なんだって!」

 売り切れたと聞いていたんだが……つい驚いてしまった。

「お兄さん、いつもコーヒーとプリン頼んでますよね。でも、今日は人がたくさん来ちゃって、プリンが売り切れちゃったんですよ。でも、私の分を残していただいていたので、お兄さんにあげたくて、私が食べる分を残しておいたんです」

「えっと、貰ってもいいんですか?」

「どうぞ、いつも来てもらっているお礼ですから」

 凄く嬉しいな。まさか残しておいてくれるとは……そうか……いつも見ててくれてたのか……

「プリン……食べるか……」

 ……美味い、ここのプリンは美味いな……

「……あのー、店員さん、そんなに見つめられると食べづらいんですけど……」

「いえ、私のプリンだったので、見るくらいならいいでしょう」

 僕は食べるところを見られるのが好きじゃない……

「不幸だ…………まあ、プリンは美味しいけどな……」

「………そうですか///」


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 今日も不幸なことだらけだったが、今日もプリンを食べられたちょっとした幸せから、よしとしようか。

「さて、この後はどうしようかな?」

 空を見上げれば、桜の花がひらひらと落ちてきたところだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いつもの喫茶店でプリンを買おうとしたのに売り切れてた 石水 灰 @ca_oh21

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ