第4話:霧の都の路地裏にて②
ほっぺたが冷たい。というか、全身がまんべんなく冷たい。
『――さん、――じょうぶ?』
「んー……」
ぼんやりと考えていたら、どこかから声がした。高く澄んだ可愛い声が、しきりに話しかけてくる。
『おねえさん、だいじょうぶ? かぜひいちゃうよ』
「うう、ふぁーい……」
うん、確かに。上に布団がないのがなんとなくわかるし、実感として寒いから、このままだと絶対よろしくないというのはよくわかる。寝相で吹き飛ばしたんだろうか、ついてない。
そんなことを思いつつ、しぶしぶ目を開けてみる。そこには見慣れた枕とベッド、その向こうに並んだ机と本棚とクローゼットといういつもの光景が――なかった。
『あっ、おきた! よかったー』
まぶたを開いて真っ先に目に飛び込んできたもの。横になった目と鼻の先でぴょん、と飛び跳ねるのは、ふわふわの綿毛みたいな小鳥だ。全身がほとんど白一色で、翼の先と尾羽だけが黒い。……ええと、なんだか見覚えがあるような。いやそれより何より、今とんでもない展開がなかったか。
『えっと、けがしてない? ぼくはおねえさんにだっこされてたからいたくなかったけどってきゃー!!』
「やっぱりしゃべったー!! えっうそ、どーなってるの!?」
あどけない声がいきなり悲鳴に変わった。事態を把握するなり飛びついた結菜が、両手でがっちり小鳥を捕獲したからだ。元気よくじたばたするのを抑え込み、よっこらしょっと頭の上に持ち上げてためつすがめつする。
「うーん、電池はないなぁ。スピーカーがついてるわけでもないし、触った感じは確かに生き物だし。ぬいぐるみみたいに可愛いけど」
『わーん、ぼくおもちゃじゃないよー! あんまりいじわるすると泣いちゃうぞーっっ』
「……う、それはヤだな。ごめんなさい」
予告するまでもなく既に半泣きな小鳥さんに、ノリノリだった結菜がようやく我に返った。バツの悪い思いをしつつ地面に降ろしてやると、ぱっと距離を取った相手はつぶらな瞳でこっちを見上げてくる。何かものすごく非難がましいものを感じる、気がする。
『ううう、せっかくしんぱいしたのに~~……おんをあだでかえされた……』
「ご、ごめんね! どうやってしゃべってるのか知りたくて、つい!」
『ごめんですんだら兵隊さんはいらないもん!』
「だからごめんってば。ほーらよしよし、もうすぐご機嫌になるーご機嫌になる~~」
『う~~~』
こんなに小さいとはいえ、ばたつかれると持っているのは大変だ。今度は高い高いの要領で抱き上げてやると、突然のご無体にちょっとぶぜんとした様子だった小鳥は、持ち上げて下げるのを繰り返されるうちに膨らんでいた羽毛が落ち着いていった。ふう、やれやれ。
ひとしきりいろいろあって、何とか落ち着いてまわりを見渡してから、ようやく気付いた。――今自分がいるのは、どう考えてもさっきの神社の敷地ではない。
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