第2話:三人でお茶を②
そんなこんなでお菓子とおしゃべりを満喫したものだから、カフェを出た頃にはすっかり夕焼け空だった。ご店主の笑顔に見送られつつ、暗くなる前にと急いで家路につく。
「おいしかった~」
「うんうん、そこらへんは大賛成。
けど結菜、本当にオカルト系だけはうかつに実験しちゃダメだからね? あんたもあたしもそういうの全然縁がないんだから、万が一があったら大事よ」
「はーい、身に沁みました――って、あれ?」
何だかんだで世話焼きな晴香にうなずいたときだ。どこかでごろごろ、と低い呻りがこだまし、後を追うように雨が降り始めた。まばらに落ちていた水滴が、あっという間にシャワーのような雨脚へ変わる。
「うわ、けっこうひどいわね。そこで止むの待ってよう」
「賛成!」
ちょうど近くにあった神社に向かって走り出す。鳥居をくぐってすぐのところに社務所があり、その軒下に駆け込んだとたん頭上が光った。あまり間をおかず、どどーんと盛大な雷鳴が響く。だというのに、見上げた空は鮮やかな夕焼けのままだ。
そんな景色を見て、自然に結菜の口が動いていた。こういうのを狐の嫁入り、というのだ。
「晴れてるのに雨が降るときは、山とか森とかで狐が嫁入り行列を出すんだって。おばあちゃんが言ってたなぁ」
「なに、また雑学? あんたホントに好きねぇ」
「い、いいじゃん、ときどきは役に立つし!」
あくまでときどき、と注釈がつくのが悲しいが。いいじゃないか、好きでやってることなんだし!
若干ムキになって言い返した結菜の目の端を、ふと白いものがかすめた。昨夜が昨夜だったので、一瞬ギクッとして振り返ると、
「あっ!」
「今度はなによー」
「見て見て、あそこ! 奥にある木の穴」
徐々に近づいてくる雷で、境内がぱっと照らされる。その光に、社務所の右手にある細い道と、その奥に植わった大きな木が浮かび上がった。ちょうど結菜たちの背丈ほどの高さに、丸いウロが空いている。雨を避けながら近寄って覗き込むと、
「……あら、小鳥だ」
ウロの奥に、手のひらに収まるほどの鳥がうずくまっていた。白い綿毛のような羽毛が、吹き込む風にそよそよと揺れている。結菜がそうっと抱き上げてみると、指先から少し高めの体温と元気な鼓動が伝わってきた。よかった、寝ているだけみたいだ。
「わー、ふわふわしてる。可愛い」
「うーん、確かにいいモフモフっぷり……ってそうじゃないでしょ! 野生の鳥がこんな無防備に寝てるわけないし」
「あ、そっか。ケガとか病気とかかも」
一瞬鳥インフルエンザ、という恐ろしい単語が脳裏をかすめたが、頭をぶんぶん振って追い払う。もしも町内で流行っているなら、そのへんの野鳥がとっくにばたばた落ちてるはずだ。だからこの子は関係ない、たぶん。
「店長さんならわかるかなぁ、動植物はみんな大好きだし」
「あのひとも何気に物知りだからねー。とりあえず雨が止んだら引き返して――」
晴香のことばをさえぎって、ひときわ大きな雷鳴が轟いた。一瞬遅れて、二人の頭上が激しく光る。
「え!? えっと、まさか」
「やばっ、真上に来た! 木から離れて!!」
――ドンッ!!!
晴香に続いて走り出そうとしたのと、轟音と共に真っ白な光が木を直撃したのが、ほとんど同時だった。
「わあっ!!」
「結菜!」
衝撃で吹っ飛ぶ結菜の耳に、いろんな音が聞こえた。落雷の地鳴り、晴香の悲鳴、どこかでガラスが砕ける甲高い音。その全てが、収まるどころかますます強くなる真っ白い光に飲み込まれていく。
目が眩んだ上、地面に叩きつけられたはずなのに何も感じない。痛さが限界を超えたからか、それとも打ち所が悪かったのか、どこか深いところに向かって真っ直ぐ落ちていくような感覚が身体を取り巻いている。眠る直前みたいに、頭がぼうっとしてきた。
ちらりと『このまま死ぬのかな』と思ったときだ。胸元に押し当てた両手に、ふわふわしたものを包んでいるのに気付いた。
人間よりもずっと早い鼓動と、ぽかぽかした高い体温。ほんの少し、身じろぎをしたような気がする。……ああ、そうか。
(小鳥、無事なんだ。よかった)
手のひらの温もりに、ほんの少しだけ安心して。結菜の意識は、そこでふっと途切れた。
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