11.決着、そして
肩に毛布を掛けられ、美咲は放心して座り込んでいた。
数日の間に、様々なことがあり過ぎたせいだろう。
大切な人と過ごし、大切な人にまた救われ、大切な人を失った。
頭の中が混乱している。
時折、制服を着た女性が何事かを尋ねてきた気がしたが、内容が頭に残っていない。
ポケットの中に手を入れると、何かが指先に当たる。
なんとなしに取り出してみて、掌の上のそれに美咲の視界が滲む。
骨付肉型の充電器。
USBメモリーとしての機能も備えた優れ物。
「……サー君」
握りしめ、額に当てる。
青白い光の中で、最後に向けられた笑顔が、瞼の裏にこびり付いて離れない。
「少し……いいかい?」
不意に声が掛けられる。
聞き覚えのある、男の声だった。美咲はのろのろと顔を上げる。
「……何ですか」
「いや……君に謝りたくて」
美形といって差し支えないだろう。しかし、美咲にとってはどうでも良いことだった。
表情が、悔恨に歪んでいる。
「……謝る?」
「ああ、すまなかった」
深く頭を下げる。その瞬間、美咲は彼の声が大好きな人の宿敵のものである事に気づく。
「……どうでもいいです」
「僕の責任だ。僕の慢心が、君のお父さんを殺した」
お父さん、とは誰のことだろう?
美咲の頭の中に浮かんでくる顔は、酷く歪んで思い出すことが出来ない。
「殺した?」
「ああ、そうだ……! サタンクロスが何かを企んでいるのは分かっていた! 彼を一人で行かせるべきではなかった」
この人は何を言っているのだろう?
美咲には、本当に分からなかった。この人が謝るべきは、私とあの人を引き離したことなのに。
軽い頭痛と吐き気が襲ってくる。
目の前の男への強烈な不快感である。しかし、男は全く気づかずに喋り続けている。
「君のお父さんは勇敢だった。娘のために命を賭ける、警察官の、いや父親の鏡だ。僕は彼を誇りに思う」
目眩がする。
美咲は男から離れようと、立ち上がる。
「彼は正義の体現者だ! 君もこれから、亡くなったお父さんのために、頑張って生きていって欲しい!」
瞬間、美咲の瞳に光が戻り、鋭い平手が、男の頬を叩いていた。
彼は一瞬、何が起こったのか分からないようだった。
「……正義の体現者、ね。自分の価値観でしか物事を計れない。
たっぷりと憎しみをぶつけてから、美咲は正義の味方に背を向ける。
彼は追いかけては来なかった。
少し歩いてから、再び手の中の骨付肉へと目をやる。
「……嘘つき」
少女は誰にも聞こえないように恨み言を漏らす。
そして、愛おしそうに握りしめると、涙を拭って前を向いた。
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