4.機械の見る夢2

 何故自分は夢を見るのか、サタンクロスは考える。


 彼は機械である。しかも、敵を倒すという、ただそれだけを目的に作られた機械だ。

 当然、睡眠など取る必要も無く、従って人の見る夢とは厳密には異なるのかもしれない。


 しかし、事実彼は夢を見る。

 思考の外側で、自身では制御できない音や映像の海に沈む。


 過去の経験を見ることも、過去に見たことのないものを見せられることもあった。

 AIのバグを疑ったこともあるが、未だに、本当の理由は分かっていない。


 ただ、一つだけはっきりしていることがある。

 彼は夢が嫌いではなかった。


 

 何者かが膝を抱えて蹲っている。

 大きさからして子供だ。


 サタンクロスは声をかけるが、何を言ってもその子には届かない。

 近づこうとするが、距離は決して詰まらない。


 彼は今自分が夢の中にあることを自覚する。

 記録領域に、こうした光景は存在しない。

 また、自らの干渉出来ない何かが、子供と自分の間に確かに存在していたからである。


 同時に、機械故に感じたことのない寒さを、彼は感じる。

 というより、子供の感じている寒さを共有した気がしたのである。


 その子は泣いていた。

 小さな肩は時折震え、膝を抱く腕に力が篭もる。


 凍てつくような寒さの中で、彼は小さな命を見つめる。

 やがて、子供はほんの少し顔を上げると、サタンクロスの存在に気づいたようだった。


《……いで》


『……?』


《お……い。み…いで》


『……何?』


《お願い……》


『何だ? 何を言っている?』


《お願い。見ないで》

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