第11話
俺は、師匠と舞花と探索者ギルドの前で待ち合わせをしていた。
今日はダンジョンに潜ると約束をしていたので、それ用の準備は済ませてある。
時間になると全員が集まり、師匠が手を上げて言った。
「おーし、装備整えるぞー」
「おー!」
「おー! じゃないですよ。今日はダンジョン探索じゃないんですか?」
ダンジョンに行くはずだったのに、装備を整えるとはどう言うことだ。
舞花も元気良く手を上げて、師匠の発言に返事をしている。
「舞花の格好を見てみろ。このままダンジョンには潜れないだろ」
「そうだそうだー」
そう言われてよく見ると、舞花は探索者用の装備ではなかった。
一人で準備をするよりも、今日一緒に装備を整える約束をしたのかもしれない。
先ほどから師匠に合わせて言葉を発している舞花にムカついたので、注意する。
「さっきからうるさいぞ舞花」
「お、透の敬語が取れたわね。そっちの方が良いわよ」
舞花はそう言うと、笑顔になった。
どうやら先ほどまでの発言は、俺の敬語を取るために狙ってしていたみたいだ。
俺の苦手なタイプだったけど、案外可愛い所もあるのかもしれない。
「おーい、着いたから早く入れー」
俺と舞花が話してる間に、師匠は先に装備屋の入り口まで行っていたみたいだ。
「おう、いらっしゃい。また来たのかお前たち」
「今日は舞花の装備を整えにな」
出迎えてくれたのは、前と変わらない40代くらいのおじさんだった。
この人は、魔道具屋の弟で健二さんと言う名前らしい。
師匠と舞花は、装備を見に店の奥へと行った。
邪魔をするのも悪いので、俺は着いて行かなかった。
「健二さん、この装備とても良かったです。動きやすさは文句なしですよ」
「当たり前だ。俺が作ったもんは一流品だからな」
この前買った装備を今日も着ているので、感謝を伝える。
初めてのダンジョンでも、動きやすく違和感なく着こなすことが出来たのだ。
ここの装備は、値段が安くても質が高くてとても良いものだと実感する。
「透、だったか? 装備に傷もないみたいだし、無事にダンジョンから出られたみたいだな」
「それも装備のおかけですよ」
「言うじゃねーか」
俺がそう答えると、健二さんは嬉しそうに笑う。
自分が作った装備を褒められて、嬉しいみたいだ。
その後は、一人で店内を見て歩いた。
特にこの前と変わっている様子もなく、ダラダラと店内を見て行く。
「おい透、買い物終わったぞ」
「待たせちゃって悪いわね」
声をかけられたので見ると、師匠と舞花がいた。
舞花は私服姿に両手に袋を抱えていて、その中に装備が入っているのだろう。
「俺も店内を見ていたから、そんなに待ってないよ。それよりも、舞花は着替えなくていいの?」
「あー、それについては大丈夫だ。とにかくダンジョンに行くぞ」
着替えなくても良いとはどう言うことか分からないけど、師匠が言うのだから大丈夫だろう。
俺たち三人は、装備屋を出てダンジョンへと向かうことになった。
今回は装備屋だけで、魔道具屋には寄らないみたいだった。
◇
師匠の案内するままに、ダンジョンへと来た。
しかしそこは、立ち入り禁止と書かれた看板に警備員がいる場所だった。
これがダンジョンだとして、これでは入ることは出来ないだろう。
「で、なんですかここ?」
「透、言ってただろ? 大金稼ぎたいって。その大金稼げるダンジョンがここってわけよ」
そう言われて、ダンジョンの方をもう一度見ると【危機察知】が反応する。
今まで感じたことのない嫌悪感や悪寒を感じ、吐き気すらするほどのスキルからの警告を感じた。
ここは絶対に入ってはいけない、人が立ち入ってはならない場所だと【危機察知】が伝えてくる。
「なんですかここ......。絶対に入ったらいけませんよ」
「ははは、当たり前だ。国内で唯一見つかっているSランクダンジョンだからな。ここに入って戻って来たやつは誰一人としていないしな」
師匠が言うには、日本で唯一見つかっているSランクダンジョンらしい。
普通であれば、ランクの高いダンジョンは中々攻略されない場合には、名前が付けられることがある。
だけど、このダンジョンは発見から時間が経っているのに名前が付けられていないらしい。
それは、中の様子が一切分からずに名前の付けようが無いことを意味している。
それほどまでに、目の前にあるダンジョンは危険なのだ。
「そんな危険な場所に連れてこないで下さいよ」
「だから言っただろ、見るだけだってな。透のスキルなら、Sランクダンジョンを見ておいた方が良いしな」
どうやら師匠は、俺にSランクダンジョンがどれほどの脅威なのかを教えたかったみたいだ。
そして、その感覚を俺のスキルである【危機察知】に覚えさせたかったようだ。
経緯はどうであれ、これでダンジョンランクの目安は付けることが出来るようになっただろう。
「透のスキル?」
「まぁ、それについては後でだな。透はその感覚をよく覚えておけよ」
「は、はい」
横から話を聞いていた舞花が、俺のスキルについて聞いて来た。
Sランクダンジョンを見ることが、どうスキルと結び付くのか疑問に思ったのだろう。
「けど師匠、中の様子が一切分からないってどう言うことなんですか? 少し入って戻れば良いじゃないですか」
「もちろんそれを試した奴もいたさ。だが、結果は言うまでもない」
ダンジョンは、外部と内部が完全に隔離されている。
そのため、外から内部の様子を確認することは出来ず、中を知るには一度入る必要がある。
そして、少しだけ入るつもりだった人が戻らないと言うことは、即死級の罠がある可能性が高いと言うことだ。
その可能性がある以上、人を入れて内部を知ることを諦めて封鎖することにしたのだろう。
「まぁ、このダンジョンはSランクだが、危険度自体はそこまで高くない。内部からモンスターが出てくることもないし、入らなければ危険はないからな」
「そうなんですね」
「Sランクダンジョンってそんなに危ないのね」
人工ダンジョン以外に潜ったことのない舞花は、師匠からの説明をよく聞いていた。
俺もEランクダンジョンにしか潜ったことはないので、どれほどの脅威かは分からない。
ただ、誰も戻らないと言うことはとんでもない何かがダンジョンにいるのだろう。
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