第10話
師匠の方へと行くと、先ほど探索者ギルドにいた女の人も一緒にいた。
女の人は、探索者ギルドでは珍しい私服を着ていて目立っていたので、すぐに誰だか分かった。
「師匠、どうしたんですか?」
「あぁ、次の指導方針が決まったんだ」
師匠はそう言った。
どうやら俺がダンジョン探索完了の受付をしている間に、何かが決まったみたいだ。
「指導方針ですか? 後、彼女はどうしたんです?」
「あぁ、わりぃわりぃ。自己紹介でもしてやりな。」
俺は、師匠の隣に立っている女の人が気になったので聞いてみた。
指導方針を決めるのに、この女の人が何か関係しているのかもしれない。
「私は日野舞花よ。よろしくね」
「よ、よろしく。萩野透です」
彼女はそれだけ言った。
どうやら、自己紹介は名前だけ言って終わったらしい。
日野舞花と名乗った彼女は、ピンク色で肩にかかる程度の髪の長さの可愛らしい女性だった。
師匠の赤髪もそうだが、昔は珍しい髪色だったけど今はそうではない。
剣と魔法のファンタジーな世界になってから、髪色が変わったりするのが普通になったのだ。
彼女の顔を見ていると、なんだかどこかで見たことがような気がしてくる。
知り合いでも無いし、話したのもこれが初めてだとは思う。
だけど、それでもやっぱり見たことがある気がする。
うーん、と考えているとどこで見たのかを思い出した。
「あっ! 初心者ダンジョンのスライム!」
「ん?」
「もしかして、あの時に大声でスライム倒してた人?」
「何よ、あんたもあの場にいたの?」
彼女のことを、見たことがある気がしたのも当然だった。
目の前にいる彼女は、俺が初めてダンジョンに潜った時に、大声でスライムを倒していた人に間違いない。
大声でスライムを倒したことを叫んでいたので、印象に残っていたのだろう。
それで彼女、日野舞花と名乗った女性のことを覚えていたのだ。
道理で顔をよく見た時に、違和感を感じたわけだ。
「なんだ、透は知ってるのか。それなら話は早いな。舞花も私が指導することにした」
「どう言うことですか?」
師匠は、俺が日野さんのことを知っていると分かるとそう言った。
指導するとは、どう言うことなのだろう。
俺の指導は、今回のダンジョン探索で終わりということなのか。
「なーに、次からのダンジョン探索は、三人で行くってことだ」
「そう言うことよ、透。よろしくね」
「よろしく日野さん」
俺の指導も継続してくれると聞いて、安心した。
あのダンジョン探索だけでは、探索者としての技術が身に付いたとは言えないだろう。
年齢もほとんど変わらないように見えるのに、いきなりタメ口で話しかけて来た。
距離感が近くて、誰とでも仲良く出来そうなこう言うタイプは少し苦手だ。
「師匠、いきなりどうしたんですか」
「それだけ探索者は人手不足ってことだ。透と舞花の指導を一緒にやるんだよ」
どうやら、初心者を同時に指導しなければいけないほど探索者は人手不足らしい。
日野さんをこのまま放置するわけにもいかないし、仕方ないだろう。
「これからは同じ仲間ってことになるわね。それと透、私のことは舞花でいいわよ」
「う、うん」
やっぱり舞花と言う人は、苦手なタイプだ。
これから同じく指導を受けるけど、仲良くやっていけるか心配になって来た。
「とりあえず飯でも食いに行くか。無事に生還出来た記念に、あたしが奢ってやんよ。舞花も来ていいぞ」
「やったあ、清水さんありがとう!」
俺のと師匠と舞花は、探索者ギルドから出て飯屋へと向かうことにした。
どこのお店に行くかは分からないけど、奢って貰えるならありがたい。
今回の報酬も少なかったから、飯代が浮くのは助かる。
ダンジョンの中でも最低ランクのEランクでこの程度の報酬なら、生活することが出来ない。
早く探索者としての腕を磨いて、稼げるようにならないといけない。
「どうしたんだ透、そんなに難しい顔をして」
「今回の報酬を見て、今後が不安になりました......」
「あー、Eランクの中でも最低クラスのダンジョンだったしなぁ。今回の分は透に全部やるよ。それに、あたしが指導してやんだから稼げるようになるさ」
どうやら、今回の分の報酬は全部貰えるらしい。
だが、それでも十分な報酬とは言えないだろう。
師匠の言う通り、指導をして貰って早く実力を付けないとな。
舞花は、どれどれ〜と言いながら今回の報酬を確認した。
「うげ、こんだけしか貰えないの」
舞花は、報酬を見て顔を青くしながらそう言った。
同じ探索者の初心者として、生活していくだけ稼ぐには足りないと思ったのだろう。
「そんな暗い顔をするなよ二人とも、店に着いたぞ。いっぱい食って元気になれ」
俺たち三人は、師匠が案内してくれた店へと入った。
その店は、個室に分かれているような今風な居酒屋だった。
こう言った居酒屋は、他人から見られることも無いので、落ち着いて食事を楽しめる。
「おー、お前らバンバン食え食え」
俺と舞花は、師匠に言われるがままたくさん食べることにした。
居酒屋なので、おつまみ系のものから本格的な料理まであってどれも美味しい。
師匠はコース料理ではなく、個別に注文して良いと言った。
暫く食事を続けて、師匠の酔いが回って来た辺りで俺は相談することにした。
「師匠、この辺で大金が稼げるダンジョンってないんですか?」
「なんだー透ー、そんな都合の良いものがあるわ......。いや、あるにはあるな」
師匠は酔っ払いながら、ニヤリと笑ってそう言った。
その隣では、お酒を飲んで潰れている舞花がいる。
「そのダンジョンを紹介して下さい!」
「まぁ、見るだけなら良いかもな。次はそこに行くぞー」
どうやら、次に行くダンジョンが決まったみたいだ。
けど、見るだけとはどう言う意味だろうか。
そのことを聞こうと師匠の方をみると、机に頭を付けて寝ていた。
最後に話した状態で力尽きたらしく、腕を上げたようにして寝ている。
これ以上は、師匠や舞花と会話を続けるのは無理だな。
二人ともお酒に弱かったみたいだ。
俺の面倒を見ながらダンジョン探索をするのは、大変だったのかもしれない。
死亡率の高い初心者探索者である俺が生きてダンジョンから出られたのも、師匠のおかけだ。
口が悪く、酒にも弱い師匠ではあるけど、感謝しなければいけないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます