第9話
俺と師匠は、ダンジョン探索を無事に終えて探索者ギルドへと来ていた。
ダンジョン探索を終えた探索者は、生きて帰ったことを伝えるために必ずその日に、報告をしなければならない。
「お疲れ様です、清水さんと透くん」
探索者ギルドに戻ると、出迎えてくれたのは前回と同じ職員だった。
「おい、あいつは見ない顔だが誰だ?」
「あれは登録しに来た新人さんですよ」
今日の探索者ギルドには、探索者の格好をしていない女の人がいた。
普段ならば知名度の低いこの場所にいるのは、探索者かその関係者くらいしかいないのだ。
そのことに気付いた師匠は、受け付けの女性に質問する。
「ほーう、面白いな。透、お前はこのまま依頼ダンジョンの後始末しておけ」
「師匠はどうするんですか?」
「なぁに、野暮用だ。すぐ戻るさ」
そう言うと師匠は、受け付けを俺に任せて何処かへ行ってしまった。
仕方がないので、ダンジョン攻略の後始末をする。
「とりあえず、このまま進めちゃいますね」
「あ、お願いします」
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私は、川上瑞奈って言います。これからもよろしくね、透くん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
職員の名前は、川上瑞奈と言うらしい。
茶髪で可愛らしい彼女は、俺と年齢はそう離れていないように見える。
これから長い付き合いになると思い、挨拶を返す。
探索者として活動をして行く以上は、探索者ギルドの職員と仲良くなっておいた方が良いだろう。
「それでは、今回のダンジョン攻略お疲れ様です。こちらの書類に必要事項を書いて下さいね」
渡された書類に、今回知り得た情報を記入して行く。
Eランクダンジョンであること、スケルトンしか出なかったこと、罠のこと。
全ての情報の記入を終えて、書類を川上さんへと渡す。
「川上さん、書き終わりました」
「瑞奈でいいよ透くん。これからも付き合い長くなるんだしね」
「瑞奈さん、よろしくお願いします!」
「まぁ、良いでしょう。どれどれ」
そう言うと瑞奈さんは、受け取った書類に目を通して行く。
書き忘れや気になる点などがないか、確認しているのだろう。
「Eランクのそれも最低ランクのダンジョンだったのね。透くん、運が良かったわね」
瑞奈さんが言うには、初めての探索で最低ランクダンジョンは運が良いらしい。
なぜなら、現地の安全な環境下で、罠やモンスターについて実践しながら学べるからだ。
これがCランク以上のダンジョンになると、大変なことになっていたらしい。
指導者も指導に専念することも難しくなり、探索者としての実力を身に付けることが出来ないみたいだ。
それだけではなく、初回ダンジョン攻略で死んでた可能性すらあったらしい。
「そうだったんですね。俺は師匠から教えて貰えたので、運が良かったです」
「あー忘れてた。透くん、魔力測定計出して貰ってもいい?」
俺は言われた通りに、ウエストポーチから魔力測定計を取り出した。
そして、それを瑞奈さんへと渡す。
「どうするんですか?」
「一応、確認のために記録しないとね。それと記録されている魔力の初期化もするわ」
なんでも、魔力測定計に表示されているダンジョンランクの記録をするらしい。
また、魔力測定計の管理はダンジョンで行っているらしく、魔力の初期化もここでしか出来ないみたいだ。
魔力測定計の初期化をしなければ、次回ダンジョンに潜る際にダンジョンランクを測定することが出来ない。
「はーい、終わったわよ。ダンジョンランクも間違いないみたいね」
俺は、返された魔力測定計をウエストポーチへと仕舞う。
壊したり無くしたりしたら弁償になるので、大切に管理しなければならない。
「そういえば、地図も書いてきた?」
「あ、これですか、」
今回のダンジョン探索では、地図の作成も行っていた。
地図作成は探索者の仕事の一つであり、冒険者が攻略する際に役立つものでもある。
そのため、ダンジョンに潜る際には途中まででも良いから、絶対に作成しなければならない。
「そうそう、これこれ。ふーん、これって透くんが描いたの?」
「師匠からこれも経験だって言われてたので、俺が書きましたよ」
「透くんって地図描くの上手いのね」
どうやら、俺は地図を作成するのが上手かったらしい。
地図なんて学校で描き方を少し習ったくらいで、後はダンジョンで自分なりに描いただけだ。
それでも、自分で作ったものを褒めて貰えるのは嬉しい。
「さてと、これで必要なものは提出して貰ったから、後は報酬についてね」
「あまり期待は出来ませんね」
今回探索したダンジョンは、最低ランクである。
そのため、報酬は期待出来ないだろう。
「まぁ、Eランクダンジョンですからね。透くんもランクが上がれば稼げるようになりますよ。はい、これが今回の報酬です」
「ありがとうございます」
「これとは別に地図が売れれば売れるだけ印税収入も入るわ。けど、Eランクダンジョンだと一回勝ったら攻略されちゃうわね」
「印税なんてあるんですね」
「中々攻略出来ないようなランクの高いダンジョンの地図を作れば、多くの人がダンジョンに挑むから、その分稼げるようになるわよ」
ダンジョン探索で作成した地図は、探索者ギルドに提出した後で冒険者ギルドへと渡されるらしい。
そこで販売されて、冒険者が買った分だけの印税収入が手に入る。
しかし、今回のダンジョンだと一回しか購入は期待出来ないとのことだった。
「後は、指名依頼を貰えるようになると報酬も高くなるわね。透くんも実力を付けていけば、指名貰えるようになるわよ。頑張りなさいよ」
「そんなのもあるんですね」
未踏破ダンジョンに潜るだけが探索者の仕事だと思っていたが、いろいろと奥が深そうだ。
「清水さん、透くんの師匠さんレベルになるとコレはいいわよ」
瑞奈さんは手でお金のマークを作り、笑いながらそう言った。
師匠の実力がどの程度かは分からないけど、それなりに稼いではいるようだった。
冒険者でなくても、実力を付けて行けばお金持ちにもなれるかもしれない。
「あと、これは探索者ギルドからのプレゼントよ。初心者探索者さんが生きて帰って来たら、渡すことになってるの」
「ありがとうございます」
瑞奈さんから渡されたものを受け取って、中を確認する。
中に入っているのは、師匠が使っていた鈴の魔道具だった。
これがあるだけでも、次回以降の探索に役立つだろう。
「その魔道具の使い方は分かる?」
「はい、今回のダンジョンで師匠が使っていたので大丈夫です。確か、調べる君でしたよね?」
「そうそう、そんな名前だったわね。ネーミングセンスはないけど、良い魔道具なのよ」
やっぱりネーミングセンスは良くないらしい。
俺だけが感じているわけじゃないことが分かって、少し安心する。
八百屋さんが作る魔道具は凄いけれど、名前で損している気がしてならない。
「とりあえず透くん、無事にダンジョン探索終えて良かったわね。これで必要な手続きは終わりよ」
「探索終えた後もいろいろと大変ですね」
「そこは未踏破ダンジョンだから仕方ないわね〜」
これでダンジョン探索後に行う手続きを、無事に終えたらしい。
疲れている状態で毎回これは辛いかもしれないな。
なんだが、師匠はこれが嫌で逃げ出したんじゃないかと思うようになって来た。
「おーい、透。こっち来いよ〜」
受付での手続きを終えると、師匠から声がかけられた。
どうやら師匠の方の用事も、終わったようだ。
これ以上やることもないので、呼ばれた方に向かって歩き出す。
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