第8話
ダンジョンを奥へと進んでいると、また【危機察知】が反応した。
その反応は、罠があった時とはまた違うような違和感を感じだ。
今までで一番強く、スキルが反応しているようだった。
「師匠、止まって下さい」
「どうした、またスキルが反応したのか?」
そのことを師匠へと伝える。
師匠も、流石にスキルが反応したことは分かるようだ。
「どうやらそうらしいです。罠ですかね」
「罠の反応もないし、他の要因かもな」
先ほどもそうだったけれど、師匠は罠の存在を知るすべを持っているみたいだった。
それはスキルによるものか、経験なのかは俺には分からない。
そこへ、目の前からモンスターが現れた。
ダンジョンで初めて遭遇するモンスターであり、警戒をする。
「あれは!」
「スケルトンか。このダンジョンのランクはやはり高く無いみたいだな」
スケルトンは、ダンジョンに出てくるモンスターの中でも弱い部類に入る。
これが出てくるダンジョンと言うことは、ランクもそれ相応と言うことだ。
「飛び道具も持ってねぇみたいだし、丁度いいかもな」
「倒すんですか?」
スケルトンが持っているのは、ボロボロの剣だけだ。
最弱級のモンスターならば、今の俺だけでも倒せるかもしれない。
「アホか透、いくらスケルトンでも攻撃を受けたら無事じゃすまねぇ。あたしたちが戦闘用の装備を着ていないことを忘れるな」
「すみません......」
俺と師匠の装備は、動きやすさ重視の軽装だ。
相手の攻撃を一回でも受ければ、致命的な怪我に繋がる可能性だってある。
俺は、その可能性を見落としていた。
相手がいくらダンジョンで最弱級のモンスターだと言っても、モンスターはモンスターだ。
舐めてかかって、良いことはないだろう。
「探索者はモンスターと戦う必要はないんだ。出来るだけ避けて、それでもダメなら戦うことを考えれば良い」
「それならあのスケルトンはどうしますか?」
俺は探索者であって冒険者ではない。
探索者には探索者のダンジョンでの動き方があるが、まだそれを知らないから聞くしかなかった。
「透、こんな時に魔道具の出番だろ。店で試作品貰ってだろ? それ、使ってみろよ」
「これですか......。確か、広がる君って名前だったような」
そう言われて、ウエストポーチの中から魔道具を取り出す。
それは、広がる君と言って魔道具屋で貰った試作品である。
無料で貰う代わりに、使った感想を聞きたいと言われていたので、丁度良いかもしれない。
「えいっ!」
俺は、スケルトンに向かって広がる君を投げた。
もちろんロックを解除して、左右に捻ってから投げる。
そうしなければ、ただ投げただけになってしまう。
投げた広がる君は、床にぶつかるとスケルトンを巻き込んで一瞬で膨張した。
膨張して、スケルトンの骨を貫通するほどのトゲトゲが壁へと突き刺さる。
「こりゃあ、使い方間違えたら危険だな」
「でも、これならモンスターともやり合えますね」
スケルトンはトゲトゲで体を固定されていて、動けないみたいだ。
腕をジタバタとさせてはいるが、その攻撃が俺に届くことはない。
「あたしたち探索者には強力なスキルこそないが、魔道具がある。それをうまく使いこなせれば、冒険者にだって負けないぞ。まぁ、その分出費は痛いけどな」
「それは言えてますね」
師匠の言う通り、強力なスキルこそないけど、魔道具がある。
この広がる君だけでも、スケルトンを無力化出来るだけの力があるのだ。
魔道具を状況によって使い分けることで、ダンジョン攻略は楽になるだろう。
だけど、魔道具のお金は高い。
この広がる君は再利用出来るらしいが、使い捨ての魔道具なら無闇に使えない。
俺も無料でなければ、ここで使う方はなかったと思う。
「お、死んだみたいだな。ドロップ品はなしか」
「ドロップ品なんてあるんですね」
スケルトンは身動きが取れずに暴れていたけど、力尽きて死んだようだ。
人工ダンジョンではドロップ品は無かったけど、本来ならばモンスターを倒せばアイテムをドロップすることがあるらしい。
それも、運によって変わってくるので、今回は運が悪かったみたいだ。
「広がる君回収出来るのはありがたいですね」
「そうだな。ちゃんとロックはしておけよ」
時間が経過したので、広がる君は元の状態に戻っていた。
それを拾ってロックをかけ直した上で、ウエストポーチに仕舞い直す。
これだって貴重な魔道具だから、置いていくわけにはいかない。
仕舞うついでに、魔力測定計を確認した。
先ほど見た時は、測定中と表示されていた場所にEと表示されている。
俺は、それを師匠に見せた。
「師匠! 魔力測定終わりました」
「おーどれどれ、なんだEか。どうりで楽勝なわけだな」
ここまでの道中で確認出来た罠も少ないし、モンスターもスケルトンにしか遭遇していない。
このダンジョンは、魔力測定計が表示しているEランクで間違いないだろう。
たまに誤作動やズレなどはあるらしいが、今回はそのままだと感じた。
「ボス部屋の確認も済んだな」
「ここがボス部屋なんですね。ただの扉で思ってたのと違いました」
ボス部屋は、ただの大きい扉があるだけだ。
開けるとボスがいるが、探索者が中に入ることはないだろう。
入った所で勝てる可能性はほぼなく、出られなくなる危険もある。
「これ以上進む所もないし、帰るとするか」
「今回は楽に終わりましたね」
「Eランクでも外れのダンジョンだったな」
師匠が言うには、同じランクでも強さには幅があるらしい。
今回はEランクだったけど、その中でも最低レベルのダンジョンだった。
「この後はどうするですか?」
「探索者ギルドに帰ってから報告だな。このダンジョンは初心者の冒険者に回されるだろうな」
「初心者の冒険者可哀想ですね」
こんな旨味のないダンジョンを攻略しても、大したお金にはならない。
それをやらされる冒険者のことを思うと、可哀想になる。
「仕方ないだろうな。何事も経験って奴だ。それに、透も他人事じゃないぞ。」
「えっ、どう言うことです?」
「探索者にも損な役回りくらいあるってことさ。ランクの高い探索者がランクの低いダンジョンを見つけた場合、下の探索者にやらせることがあるのさ」
ダンジョン探索を行う中で、魔力測定計や経験からランクが低いと判断した場合には、途中で探索を辞めることがあるらしい。
初心者の探索者は、その途中まで埋めてある地図やモンスター情報などの収集を行うみたいだ。
「それは面倒ですね......」
「なぁに、悪いことばかりじゃないさ。安全なダンジョンで経験を積めると思えば良いんだ」
初心者の探索者が、ダンジョンで命を落とすことは珍しくない。
そのため、損な役回りでも安全なダンジョンを探索出来るのは良いことでもあるらしい。
最初からランクの分かっているダンジョンで、無理なく探索を行えるのだ。
旨味はないけど、探索者としての実力は手に入るらしい。
「さてと、地図も埋め終わったし帰るか」
「分かれ道すらないダンジョンでしたね」
俺と師匠は、ダンジョンの地図埋めを終えた。
これ以上やることもないので、探索者ギルドへと戻ることにする。
今回のダンジョンは、一本道でスケルトンしか出ないというEランクダンジョンの中でも、最低レベルのものだった。
「これだと報酬も期待出来ないな」
「そんなぁ、魔道具買えないじゃないですか」
俺が自分で魔道具を買うのは、まだまだ先になりそうだ。
そんな話をしながら、ダンジョンの出方へと向かった。
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