【第24話:かばでぃと帰国子女】
僕の家で『兎丸の成績向上委員会』もとい『皆でピザを味わって食す会』が行われてから数日。
今日は中間テストの最終日。
その、最後の科目の試験の終わりを告げるチャイムの音が、今、教室に鳴り響いていた。
「あぁ~、やっと終わったよ~……」
僕がそう言って伸びをすると、一瞬、キツイ視線が飛んでくるのを感じるが、これでもまだだいぶんマシになった方だろう。
貴宝院さんとの交流を隠さないようになってからというもの、かなりの陰口をたたかれていたし、僕一人でいるときなど、あからさまに聞こえるような声で、あること無いこと悪口を言われたりもしたしね。
それを考えると、今はきつい視線を向けられる程度なので、だいぶんマシになったと言ってもいいだろう。
ちなみに正は、単純に怖いから論外なのだけれど、それ以前に、あいつは女子はともかく、男子には意外と人気があって人望もある。
さらに小岩井などは、そもそも皆に好かれていて、貴宝院さんほどではないにしても、近い扱いを受けていたので、貴宝院さんと仲良くしていても最初から普通に受け入れられていた。
つまり、みんなの不満が僕に集中するのは必然なわけだ!
言ってて悲しくなるけど……。
おそらく、少し前の僕なら、とにかく平凡で平穏で平和な高校生活を優先させていただろう。
それを考えると、今のように注目を浴びる、しかも反感を買うような行動をしている事は、なんだか不思議に思えた。
だって、貴宝院さんのような、学校どころかネットを通じて日本中から注目を浴びているような美少女と友達になるなんて、そんなリスクのある行動は、絶対にとらなかっただろうから。
そんな事を考えていると、加賀谷先生が教壇から話しかけてきた。
「そうそう。今日から掃除が再開ですからね~。えっと、試験前最後の班は田中君のとこだったから……神成君、試験終わったばかりで悪いんだけど、あなたの班からだから、忘れずに掃除お願いね~」
「あ、はい。わかりました」
そしてホームルームが終わる。
高校二年になって初めての試験がようやく終わったからか、日直の終わりの号令を合図に、教室がいつも以上の喧噪に包まれる。
すると、皆、思い思いの友達の元へと集まっていき、教室の中に何か解放感のような空気が広がっていった。
そう言えば、この掃除当番の一件から、貴宝院さんとの関係が始まったのだったな。
「神成くん。掃除始めるよ~」
あのときは、近寄ることさえ憚られたのに、今はこうして貴宝院さんの方から、自然に話しかけてくることが、なんだか不思議な気分だ。
「あ、はい! じゃぁ、僕、拭き掃除受け持つよ」
僕がそう答えると、後ろで「ちっ」と、舌打ちが聞こえたが、その倍ぐらい大きい声で「あぁん!?」という声と、それに続いて「ひぃぃっ!?」という声が聞こえた。
虎の威を借る狐のようで少し申し訳ない気になるが、まぁ僕にあういう悪意をはねのける力はないので、今は素直に悪友に感謝しておこう。
その後、なにか問題が起こるようなこともなく、普通に掃除が終了すると、僕たちはいつものように四人で教室をあとにした。
「いやぁ~やっと試験が終わったぜ!」
「だね~。でも、正はどうせまた補習ひっかかる予定なんでしょ?」
正は馬鹿だけど、その見た目と違って成績は凄く優秀だ。
ただし……それは英語を除く。
「本郷さぁ? なんで英語だけそんな不得意なの?」
「横文字は嫌いだからな!」
うん。中々にふざけた理由だ。
でも、正の言うこの理由は本当だった。
きっと他の科目同様に、英語も勉強さえすれば優秀な成績をとれるはずなのに、正は中学の頃から、ずっとこの調子で英語の勉強を嫌い、いつも英語だけ毎回赤点をとっている。
「なに……その訳の分からない理由は……」
「ふふふ。でも、本郷くんらしいと言えばらしいよね」
貴宝院さんも、正のことをだいぶんわかってきたようだ。
正は、好きなもの、気に入ったものは徹底的に「好き」になるが、嫌いなもの、気に入らないものは、徹底的に「嫌い」になる性格だ。
「まぁ、補習はちゃんと真面目に受けるって決めてるし、これでいいんだよ」
「でも正、いつも赤点なのに補習では毎回満点とるから、英語の田所先生が、自分が嫌われてるんじゃないだろうかって悩んでたよ……?」
「うっ、別にそういうわけじゃねぇんだけどよ……」
さっき掃除が終わったあとに、少し加賀谷先生に用事があって職員室に寄ったのだけど、その隣の席に座っている、一年の時から英語を受け持っている田所先生が言っていたのを聞いてしまったのだ
「もういい加減、横文字嫌いも直したら? 例の帰国子女の空手のライバルの話し方が、気に入らないって理由でしょ?」
正が横文字を嫌う理由は、子供の頃から出ている空手の大会で、いつも勝ったり負けたりを繰り返しているライバルが、話すときに横文字を混ぜながら変な話し方をするからだ。
ちなみに、帰国子女と言っても、ごつごつの巨漢の男だ。
歩く「漢」と言った感じの……。
当時、帰国子女が男にも使う言葉だと知らなかった僕は、正に話を聞いて勝手にかっこいい女性のイメージを膨らませており、応援に行った大会で紹介されたとき、その見上げるような姿を見て絶句したのは、今でもトラウマ級の思い出だ……。
「うっ……まぁ確かにその通りなんだけどよぉ。そ、それより、次の日曜日の計画詰めようぜ!」
まだ横文字嫌いは直りそうもないなと思いながらも、テスト明けに皆で遊びに行こうと言っていた話を思い出す。
「あぁ、あれ……本当に遊園地に行くの?」
「なんだよ? とまっちゃん、ノリ悪いぞ?」
「はっは~ん。さては兎丸、怖いんだね~?」
うっ……実は小岩井の言うとおりだったりする……。
僕は絶叫系の乗り物が本当に苦手なんだ。
先日、皆で屋上でお昼を食べていたとき、珍しいことに、貴宝院さんが今まで遊園地に行ったことがないとか言う話になって、それならば、妹のさやかちゃんも連れて、テスト明けの休日に五人で遊びに行こうという話になったのだ。
「あぁ~そう言えば、とまっちゃん、小学生の時、
「うっ……言わないで……」
あれから暫くの間、小学校でからかわれたのだから……。
まぁでも、貴宝院さんやさやかちゃんが楽しみにしているだろうことも想像がついたので、断るつもりまではなかった。
「い、行くのはいいんだけど、無理に絶叫系の乗り物とか乗せようとしないでよ?」
「な、なんか兎丸らしいと言えば兎丸らしいんだけど、ほんと仕方ないわね。絶叫系に関しては無理強いしないであげるわよ」
「神成くん、なんかごめんね。実はさやかにも言っちゃってたから、付き合ってくれると助かるわ」
貴宝院さんの所の姉妹は本当に仲が良いし、そりゃぁ、遊園地良くとかいう話が出たなら、もうさやかちゃんにも伝えているよね。
「良し! じゃぁ決まりだな!」
こうして遊園地に行くことに決まったのだが、僕はおもむろにスマホを取り出してメッセージを打ち、そのまま送信した。
「これで良しっと」
「ん? とまっちゃん、誰にメッセージ送ったんだ?」
「あぁ……ちゃんと美優ちゃんにも連絡しておいてあげたから」
美憂ちゃんとは、正が毎年本命のチョコを貰っている女の子だ。
「なっ!? と、とまっちゃん、なんてことを……」
そう言って、膝から崩れ落ちる正。
「神成くん、美優ちゃんって?」
「あぁ、正の幼なじみで……まぁ許嫁みたいなもの? 正が遊びに行くときは絶対に連絡してってお願いされてるから」
その子の名前は『
正が唯一苦手とする、空手道場に通う、正のこと大好きっ娘だった。
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