【第12話:かばでぃとふりっく】

 貴宝院さんの家を出た三〇分後、僕は自分の家に問題なく辿り着いた。


 一本だけ道を間違えたのは問題とは言わない……。


「はぁ~、なんか今日は凄い体験をしてしまったな」


 自分の部屋に戻り、ベッドにごろんと横になった僕は、この一日の出来事を振り返っていた。


 偶然、貴宝院さんとスーパーで出会い、何故か送って行く事になった。


 何事も無く家まで送り届けてホッとしていると、その帰り道、スマホの電池が切れて僕は道に迷ってしまう。

 自分の運の無さと方向音痴にげんなりしていると、今度は泣いている子を見つけて一緒に人形を探す事になった。

 ただ、公園を出てすぐのところで無事に変形ロボシャーシャ人形を見つけられたので、その点については運が良かったようだ。


 その後、その子を送って行こうとすると、突然セミの鳴き声を真似て「みーんみーん」と繰り返すさやかちゃん女の子に、強烈なデジャヴーを感じる。


 結局その子はやはり貴宝院さんの妹で、最後には貴宝院さんの家にお邪魔し、一緒にお鍋までご馳走になってしまった。


「そうだ。僕、貴宝院さんとフレンド登録したんだよな。家に帰り着いたってメッセージぐらいは送るべきだろうか……」


 スマホを取り出し、どうしようかと迷っていると、タイミングを見計らったかのように、スマホがぶるっと震え、何かのメッセージが届いた。


『貴宝院さん さんからメッセージが届きました』


 それは、貴宝院さんからのメッセージだった。


「まぁフレンド登録してるのって、両親と正と小岩井の四人だけだもんね……」


 メッセージアプリを立ちあげて見ると、その画面には、可愛いらしい女の子が頭の上にハテナマークを浮かべているスタンプと一緒に、


『迷わず無事に家にたどりついたかな?』


 という言葉が添えられていた。


「うわ~……」


 嬉しいけど……このメッセージ、保護しておきたい気分だけど……。


「これ誰かに見られたら、僕の平凡で平穏で平和な高校生活が崩壊するよね~」


 なぜ、このメッセージアプリには非表示指定がないのか、などと意味のないことを考えつつ、とりあえず返事を送る事にした。


「えっと……ちゃんと無事に着いたよ、今日はお鍋ご馳走様でした……送信、と」


『貴宝院さん さんからメッセージが届きました』


「はやっ!? 返信はやっ!?」


 僕がメッセージを送って五秒とかからずに通知が……。


『無事に着いたのなら良かったよ。ところで、今日はさやかがいてあまり話せなかったのだけど、どうして私たちの能力が神成くんに通じないのか、少し考察するのを手伝って貰えないかな?』


「ながっ!? 一瞬で返信きたのに文章ながっ!?」


 さっき五秒かからないぐらいでメッセージ来た気がするんだけど!?


「あぁ……でも、貴宝院さんの神がかったフリック入力は置いておくとしても、そうだよね。なんで僕には貴宝院さんの異能が通じないんだろう?」


 ただ、僕が今ここで少し考えた所で、貴宝院さんの異能が良くわからないのに、それがなぜ効かないのかなどわかるわけもない。


「……そうだね。僕も気になるし、話ぐらいならいつでも……送信、と」


『貴宝院さん さんからメッセージが届きました』


「だから、早いって!?」


『ありがとう。他にも通じない人がいるとしたら不安だし、安心して能力を使うためにも調べておきたいから、よろしくね』


「一瞬で返信してきたにしてはやっぱり文章長すぎるから!? なに? これも異能か何か!?」


 僕はそこまで一気に吐き出すと、ちょっと深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


 しかし、貴宝院さんの書いている事は理解できる。

 今までアノ能力のお陰で何とか日常生活を送れているようだし、原因を突き止めておきたいのは当然の気持ちだろう。


「……わかった。それじゃぁ、また明日学校で……ま、またすぐに来るんだろうな。そ、送信、と」


 一〇秒経過……。


「・・・・・・」


 三〇秒経過……。


「・・・・・・・・・」


 一分経過……。


「……って、こないのかよ!」


『貴宝院さん さんからメッセージが届きました』


 そして、一人で突っ込んだ瞬間に届くメッセージ。


「うわっ!? びっくりした……なに? 僕、監視されてる!?」


『じゃぁ明日学校でね』


「短い……でも、もう突っ込まないぞ……」


 なんだかメッセージのやりとりでどっと疲れた気がする……。


「あぁ~でも、何気に貴宝院さんと会う約束しちゃったな……」


 今まで高嶺の花どころか、僕からしたら芸能人やアイドルのような感覚だった貴宝院さんと、こうしてメッセージのやり取りをし、会う約束までしている今の状況がなんだか信じられなかった。

 もしかすると他のクラスメイト達と違い、別の次元の存在として一線を引いていたからこそ、こうして比較的普通に接する事ができているのかもしれないな。


 まぁ、出会いが出会いだったから、そっちの方が大きいかもしれないが。


 僕は、そんな取り留めのない事をぼんやり考えていると、その日はいつの間にか眠ってしまっていた。


 ~


 翌朝、いつのまにか早く寝てしまっていたせいか、僕はいつもより一時間も早く目を覚ました。


 買い置きしていたトーストと目玉焼きに、インスタントのコーヒーでさっと朝食を済ませると、僕はお気に入りのラノベを鞄につめて、そのまま家を出た。

 高一の頃からし始めたのだが、たまに早起きすると、近所の公園のベンチに座り、外の風に当たりながら本を読むのだ。


 もちろん真夏や真冬にはこんな事はしない。

 春と秋限定の楽しみだ。


 そして、いつもの公園に入り、ベンチに座って鞄からラノベを取り出した時だった。


「あれ? とまっちゃんじゃねぇか?」


 声につられて顔をあげると、そこには悪友で腐れ縁で幼馴染の『本郷 正ほんごう ただし』が突っ立っていた。


「あれ? 正こそ何して……って、犬の散歩か」


 そこまで言って、正が犬を連れているのに気づいた。


「あぁ、わが息子だ! かわいいだろ~?」


「犬は可愛いけど、正がきも……」


「な! 可愛いだろ! ジャスティスって言うんだ。ほら、ジャスティス、お座り!」


 自分の都合の良いとこしか話聞いてないな……。

 しかし、ちゃんと躾けは出来ているのか、ジャスティスは正の言葉に従っておすわりをしてみせてくれた。


 ちなみにジャスティスは、フレンチブルドッグとかいう犬種だろう。

 ちょっとぶさいくだけど、可愛いのは確かかな。


「ようし……さすがジャスティスだ! ……あ、ご褒美のおやつ持ってきてねぇや」


 ご褒美のおやつを持っていなかったようで、右手でよく出来たと頭を撫でていたのだが……。


「あ……噛まれた」


 頭を撫でていた正の右腕にジャスティスが噛みついてぶら下がっていた。

 離せ離すかと愛犬と小競り合いを繰り広げているが、ジャスティスも本気ではないようだし、まぁ放っておいても大丈夫だろう。


「しかし、なんか意外だな。正が、犬飼ってたなんて」


「あれ? 言ってなかったっけ? 他の奴らには内緒にしてるんだが、とまっちゃんにはもう話してると思ってたわ」


 そう言われて思い返してみるが……。


「ん~? やっぱり、聞いてないよ? しかし、なんで他の皆には内緒にしてるわけ?」


「そりゃぁ、こんな可愛いんだ。誘拐されたら困るだろ?」


 大真面目にそう言う正に、僕は「お、おう」とだけ返しておく。


「まぁ誰だって秘密の一つや二つや三つや五つはあるだろ?」


 若干例えの数が多いが、正のその言葉に、僕は貴宝院さんとの間で起こった出来事を思い返していた。


「そうだな。秘密の一つや二つはあるよな……」

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