第4話 栄光のゴール

 そこから少し行くと、分岐があった。

 標識が出ているので間違う事はまず無いだろうが、パッと見はどう見ても「こっちが脇道やろー」と言いたくなる様な細い道(写真では広く見えるが)が酷道308号線だ。

 道幅は狭いが、感覚が麻痺してしまっているのか斜度はどうと言う事は無い。この感覚のまま十三峠を上れたらさぞ良いタイムが出るだろうな……なんてのは今だから言える事。ただひたすらに足を回してのろのろと進むのが精一杯だった。そして遂にコンクリートの舗装が石畳に変わった。


――もうすぐゴールだ――


 石畳の道もミストラルなら楽勝だ。ヒルクライムに備えて空気圧は7キロに上げたものの、28Cタイヤは伊達じゃ無い! ボコボコと言うよりボヨボヨという感覚で走るとすぐに『奈良県』『生駒市』の標識が見えた。


「ゴオオオォォォーーール!!!!!!」


無謀な挑戦は終わった。


 たかが2.4キロを走るのに死ぬ思いをしたが、課題である『何度足を着いても押して歩かない』事だけはなんとか守った。峠のお茶屋さんの敷地にミストラルを乗り入れた俺はヘルメットを脱ぎ、グローブを外して店に入って開口一番に言った。


「冷たい飲み物、何がありますか?」


 テラス席(って言うのか?)でサイダーを飲みながら喫うタバコ(ココでは灰皿が用意されているのだ。素晴らしい!!)は格別に美味かった……? いや、疲れ過ぎてあんまり美味しく無かったです。サイダーは最高に美味しかったけど。

 周囲を見ると、自転車で来ているのは俺だけだった。まあ、あんなトロトロ走ってても他の自転車に抜かれる事が無かったから、今日は俺だけしか上って無かったんだろうな。歩きの人達(要するに俺以外の人達だな)はカレーうどんとかカレーライス(カツ丼とかきつねうどんとかもやってるのに妙にカレー率が高かった)を食べていたのだが、俺は食欲など全く無い。それどころか今何か食べたら吐いてしまうかもしれないぐらいだ。サイダーを飲み終えた俺はお茶屋さんの人に一言残して去る事にした。

「食欲無くてジュースだけですみません。あっ、空き缶、ココで良いですか?」


 お茶屋さんを出た俺は『奈良県』『生駒市』の標識の下でミストラルをスマホのカメラで撮り、大阪側へと下った。


 ネットでは暗峠のダウンヒルは怖いと言われているが、別段そんな事は無かった。まあロードバイクで来てたら怖いんだろうが、クロスバイクならブレーキが良く効くから安心だし、路面を横切る悪名高い排水溝も28Cタイヤで楽勝だ。上るのにあれだけ苦労した暗峠が下りならほんの数分で終わってしまった。


          *


 走行時間なんて計る気は最初から無かった。ただ、歩いた方が多分速いと思う。

 十三峠を初めて上った時は第一ヘアピンで足着いて(そりゃ、ロードバイク買って二回目に連れて行かれたから仕方無いよね)以来、悔しくて何度も上り、今では遅いながらもなんとか足着き無しで上れる様になったのですが……


 はっきり言って、今の『すて』では十三峠を上るのも結構(もの凄く)しんどいです。『休むダンシング』が出来たら少しは楽になるのでしょうが、出来無いものは出来無いのでオールシッティングで上ってます。でも、しんどくてもまだ「何やってんだろうな……俺は……でもな、ペダルを踏まなきゃ前に進めねぇ。自分にも向き合えねぇ。だからさぁ……止まらねぇぜ!」とガンダムダブルオーのロックオン・ストラトスごっこをするぐらいの事は出来ます。さすがにゴールの展望台目前で「トランザム!」とか叫んでスパートは出来ませんけど。それに比べて暗峠ではそんな余裕など全くありませんでした。まあ、初めて十三峠を上った時も全く余裕が無かったのですが。ただ、一つだけ言える事があります。


『暗峠は二度と自転車で上る事は無いだろう』


 心からそう思います。ついでに言うと、暗峠のダウンヒルをしてからミストラルのブレーキが前後共キーキー鳴く様になってしまいました。


――了――



 こんなクソつまらん話にお付き合いいただきましてありがとうございました。本編の「ヒルクライムラバーズ」もよろしくお願いします。


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ヒルクライム・ラバーズ外伝 ~すての無謀な挑戦~ すて @steppenwolf

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