第14話警戒態勢
ゴゴゴゴゴゴ!
「なんじゃ……地震か?」
「そういやぁ、最近地震多いってニュースでやってたっけな?」
「畑が地割れでも起こしたら食っていけんって」
「確かにそうだな! はっはっはっは」
農家の男達がここ数日起こっている出来事の話題で盛り上がりながらも雪を掻き分け、冬季の食材を収穫していた。
ゴゴゴゴゴゴゴ!
「ん~? 地震と言うか、何か足音とか聞こえねぇか?」
「あ~、確かにそう言われればそう聞こえなくもないねぇ」
次第に轟音が迫って来る様にも聞こえ、周辺の森からは沢山の鳥達が一斉に羽ばたき、それはまるで何かから必死に逃げている様にも見えた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
「おいおい……こりゃあただごとじゃ済まなそうだぞ!?」
先程まで、他愛も無い会話をしていた農家の者達も次第に森の方へ視線を向け、表情が強張っていく。
すると――
ドドドドドド!
『ウボォォォォオ!』
『ギヒィィン!!』
森から轟音の正体が突如姿を現し、農家へと迫って来たのだ。
「おい、あれは牛か? 馬みてぇなのもいるぞ!?」
「まずい! 逃げろ!!」
農家も含め、ここら一帯は小さな農村。
住民は200人程だが、その住民を上回る数の家畜が森から一斉に姿を見せ、雪崩れ込んで来た。
「逃げろ! うがぁ!?」
「ぎゃぁあ!!」
畑で作業をしていた農民達は暴走する家畜に撥ね飛ばされ、農民が住む住居も大型の車が突進した様に穴が空き、建物によってはそのまま崩壊していった。
それは一瞬の出来事でもあり、森から現れた家畜達はそのまま北の都を目指して走り去っていったのだった。
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北の都、首都である〝
都自体、東の都よりも土地が広く、首都の氷美を始め、第十区まで存在する。
また、都自体その周辺は栄えているのだが、街から出れば自然豊かな場所。
今は冬季という事もあり、人の背を簡単に超える雪が積もってる場所もあるのだ。
「今朝、都の東側に位置する農村が壊滅致しました。
また、ここ数日に観測された地震らしき揺れも震源地が不特定である事や、複数の足跡から、動物の大群が一斉に走りだした事で揺れが生じたと判明しております」
一人の天導師が報告をする。
「先日、東南の小さな牛舎に穢れ人が出現し、一帯が壊滅となっております。
しかし、状況を見るに穢れ人が壊滅させたというよりは、先程仰っていた様に牛が突進した様な痕跡も見られてます」
もう一人の天導師も報告を続けていく。
更に、別の天導師が手を上げて報告の許可を求め、立ち上がった。
「今朝の農村で生き残った者も数人ですがおりました。
話しを聞く所、灰色の牛や馬が突進して来たとの事です」
その報告に天導師達も驚き、騒めき始めた。
本来、灰色の衣を纏うのは人型であり、これまで灰色の動物と言うものは確認が出来ていない。
実際に動物と言うのは常に本能で生きている為、人の様に欲に支配されるといった原理がないのだ。
だからこそ、その事実を受け入れたくは無かった。
そして、清導天廻氷美支部を任されている大天導師が立ち上がり、指示を出す。
「東の都、西の都からもここ数日に穢れ人の出現が多発していると報告を受けている。
恐らく、何らかの切っ掛けで家畜が穢れ化し、暴走しているのだろう。
しかし、動物が自然に落ちるとは思えん。
人為的な可能性がある。
各部隊は調査を進めるのだ」
「「「はっ」」」
すると、バン!と勢いよく扉が開かれ、一人の天導士が息を切らせ、慌てた様子で突入して来た。
「し、失礼致します! 北の都第四区、
「「「なっ!?」」」
その報告にまたも天導師達が驚きの声を上げる。
「また、第五区の
報告を聞くと、大天導師がすぐさま全員に号令を掛ける。
「総員、直ちに部隊を招集して討伐に当たるのだ!
都への侵入は死守しろ!」
「「「はっ」」」
ザっと各天導師達がその場を後にして招集を掛け、第四区・第五区へと駆けた。
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「なんだこりゃ……悪い夢でも見てるようだ……」
「そう言わないのよ。 皆そう思ってるんだから」
北の都は外部からの侵入を防ぐ為に城壁が建てられている。
そして、周囲には小さな川が流れていて、橋を渡って街へ入る形になるのだ。
しかし、灰色の衣を纏った動物達は関係なく橋や川の上を物凄い勢いで駆け抜けていた。
そんな状況を城壁の上から二人の天導師が見下ろしていた。
一人は30代前半、北の都には少々そぐわない褐色の肌にドレッドヘアーのワイルドな男だ。
体格も良く、背も190はあるだろう。
もう一人は同じく30代前半の女性。雪の様に真っ白な肌と黒い髪。
しかし、その毛先は赤い。
また、耳・鼻・口にピアスをした気の強そうな印象を持つ。
「あっ、また雪村家に越されてるじゃん」
「ふん、まあいいじゃないか。 俺達も行くか? あの群の中に」
「臭そう……まあ仕事だししゃーないよね。 じゃあアンタ前衛ね。
私は後ろでおこぼれを頂くから」
「おいおい、結局俺に働かせるつもりだろ……後で報酬は貰うからな」
「私の身体?」
「当然だ」
男はそう言って城壁から一気に跳躍すると、勁現具に浄勁力を流して突進してくる群と対峙した。
その手に持つのは大きな斧の武器だ。
刃部分は黄色く光、雷のエレメントだという事が分かる。
後方には女性が既に降り立ち、手には浄勁力を流した釵を持っていた。
「悪いが、ここは動物禁止なんだ。 大人しく天に還れ!」
男は迫り来る牛や馬の大群を目の前にしても怯む事なく、寧ろ「邪魔だ」と言わんばかりに大斧を構えると、「
バリバリ!
すると周囲には雷が生まれ、更には男の振り抜いた斧から黄色く鋭い円状の刃が飛び交った。
ズバ!
ズバ!
「ブォォ!!」
「ギヒッ!!」
大斧の刃と同じサイズの黄色い刃が次々に灰色の動物達を切断していく。
他の場所でも様々な技によって穢れた動物が祓われていった。
そして数時間後――
「これで終わりか?」
「ふぅ~、そうね。 あっ、ちなみに私もこれだけ祓ってるから報酬は残念ながら無しね?」
「ちっ、最初から本気でやりゃ良かったぜ」
「次、頑張りましょう」
天導士、天導師達の迅速な行動もあって北の都は無事に守られた。
しかし、周辺の農村などは家畜が全て穢れ落ちしてしまった事で生活苦となり、次は穢れ人が多発する様になってしまった。
その情報を受けると、大天導師は即座に周辺の農民などを都に避難させるよう呼び掛けた。
だが、都に移った後に生活環境の変化で穢れ人となってしまった者も多く、様々な対応に追われる事となってしまったのだ。
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・
『こちらでは家畜達が何者かの手によって穢れ化された。
実際にこの目で見たが、南・西・東もいずれ出現する可能性が高いだろう』
『動物が穢れ落ち……ですか。
やはり可能性として考えられるのは……』
『常闇の主が動き始めた、という事か』
『あ奴等はもう何十年も姿を見せておらん。
だが、人に紛れ込んでいるという事も考えられるな』
北の都で起きた奇怪な事件から数日、東方倭国の各都に身を置く四人の大天導師がモニター越しに会議を行なっていた。
北の大天導師:
東の大天導師:
西の大天導師:
南の大天導師:
それぞれ天導師として活躍し、高い浄勁力と武を誇る者達だ。
だからこそ支部を任され、各地で治安維持に努めている。
大天導師達が報告を終えると、それぞれが各業務へと戻って行く。
「天導元帥様」
『偃月、会議は終わりましたか?』
「はっ、北は家畜が穢れ化し、都を襲った様です」
『そうですか……基本、人以外の生き物が穢れる事はありません。
動物は欲ではなく生きる術として本能のままに行動しますからね。
それは知ってますね?』
「はい」
『ですが、以前に一度だけ他の生き物が穢れ化したという事例があるのです』
「事例、ですか?」
『はい。 ただ、公にはなってませんから知ってる人間はかなり限られるでしょう』
「ちなみに、それは……」
『数百年も前の事。 そしてそれは今でも生き永らえてる……』
「元帥様、それはまさか……」
『そう、常闇の主です』
「常闇の主……」
『主等は動物の化身、成れの果て、知能を持った存在、色々言われておりますね。
四人居る主は動物が穢れ化して成長を遂げた存在です。
だからこそ、仲間を作っているのでしょう。
とは言え、主級の存在が溢れれば危険です。
早急に周囲の警戒と引き続きの調査をお願いしますね』
「畏まりました」
そして、総葉は各天導師達にそれらを告げると、一斉に警戒態勢が引き上がった。
翌日――
「桜華ちゃん、おはようございます」
「紫苑、おはよう」
天草家ではいつも通り、早朝から紫苑と桜華が鍛錬を始める。
「そういえば、穢れ人ではなく北の都では動物が穢れ化したようよ?」
「ニュースでやってましたね! 動物って……可哀そう」
「東の都も警戒態勢に入ったってお母様が言ってたし、私達も気を付けないといけないわね」
「うん。 またいつ穢れ人が出て来るか分からないですし」
その後、清導廻でも同じような話題で持ち切りになり、講義は全てが実技演習へと変わった。
穢れ人と遭遇した場合の対処として、少しでも実戦に慣れてもらう為の処置でもあるのだ。
「今日からいつまでかは分からないけど、みっちり実技で武を高めてもらうから、あなた達も実戦のつもりで行なってちょうだい」
「「「はい」」」
導師水鏡がそう告げると、それぞれが武器を以て鍛錬を開始する。
すると、よく見れば他のクラスの導士達までもが同じ様に実技演習を行なっている。
「知らない人がたくさん来てますね?」
「それだけ警戒してるって事よ。 ほら、紫苑! 余所見すると怪我するわよ」
「あう!? 痛いですよ桜華ちゃん」
「今のは紫苑が悪い! はい、どんどん行くわよ!」
桜華と紫苑はペアとなり、近くでは真那と猫磨がペアとなっていた。
各自、しっかりと鍛錬を行なっていると、Bクラスの導士が話し掛けて来た。
「貴女が天草影時の娘?」
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