第12話穢れ人討伐戦


「紫苑さん、桜華さん、おはようございます」



「おはよう」



「おはようございます」



育成機関、清導廻に行くと以前よりも会話を交わす人が増えたのもあり、二人は朝の挨拶を交わしていく。


そしてAクラスへ行くと既に他の導士達が集まり、それぞれグループを作ってワイワイしていた。



「紫苑、桜華、おはよう」



「あっ、真那ちゃん! おはようございます」



「おはよう。 それで、課題は大丈夫だったの?」



「バッチリ!」



真那は紫苑と桜華からのアドバイスもあり、しっかりと課題をクリアしたらしい。


誇らしげにサムズアップしてそれを二人に示していく。



周囲では冬期休暇中何をしていたのか、課題どうだった?などの話しで盛り上がっていて、皆が同じテーマで会話をしていた。


するとチャイムが鳴り、担当導師の水鏡が入ってきた。



「皆、おはよう。 ちゃんと課題はやってきたわよね?」



「「「は~い」」」



「今日は午前で終わるから、課題の確認よ。

着替えたら地下へ移動しなさい」



水鏡がテキパキと指示をして導士達が一斉に地下へと向かう。


地下では水鏡の指示で浄勁力を測る装置が既に準備されていた。



「先ずは浄勁力の数値ね。 課題としては最初に測った数値から+10が理想よ」



そう告げ、一人ずつ円形状の装置に浄勁力を流していく。


全く数値が上がってない人、しっかりと+10を超えた者など、様々な結果となっていた。


そんな中で一番の上昇を見せたのは猫磨湯楽ねこまゆら


真那とは幼馴染で茶色と黒が混じった髪を猫耳の様な形で結っている小柄な少女だ。


浄勁力は機関へ入った当初は315だったのだが、今回の計測では356となっていた。



紫苑、桜華はどちらも+13


真那も+11


天草のライバル関係だと言われた御華は+16だ。




「では次に各自エレメントを活かした技をそこの的に放ちなさい」



水鏡からの指示で各自順に勁現具を使って技を繰り出していく。


中でも目を見張るのが鍛錬を重ねて完成させた真那の技だった。



シュ!シュっと幾つもの浄勁力で形成された手裏剣が一斉に飛び交い、的へ当たると同時に爆発する。



「おお! すげぇ! あれくらったらヤバくないか!?」



「こえぇ~、凩こえぇ~」



周囲はその爆音に驚き、ぶるぶる震える者まで出て来た。


しかし、当の本人は再び誇らしげに、今度はVサインをする。



「わぁ~、真那ちゃん完璧ですね!」



「紫苑のアドバイスのお陰」



「よぉし! 私も頑張りますよ~!」



紫苑が前に出て浄勁力で弓を形成すると、しっかり構える。


そして――



バシュン!



勁矢を引き、放つと同時に一本が数十本に分かれ、四方八方から一点の的を射抜いた。


更に――



「タケヒコ」



「キュル!」



疾矢しっし!」



紫苑が一本の長細い勁矢を形成し、力強く引く。


そして、タケヒコが「キュ!」と鳴くと弓弦を引きながら勁矢を掴んでいる右手に丸い疾風の球が生まれた。



「はっ!」



紫苑がそれを力強く離すと、その瞬間に勁矢が的を射抜いていた。


そして、遅れた頃にブオッっと風が吹き、タンっという音が鳴り響いた。



「よし、成功だよタケヒコ!」



「キュル!」



タケヒコも「当然」と言いそうな表情で鳴く。



「おいおい……今の見えたか? と言うか的に当たってから音が聞こえなかったか?」



「ああ、俺も同じだ! あれ、敵だったら避けれなくね?」



周囲の導士達が再びざわつき始める。



「ほう、紫苑は超高速の矢ね。 あれは躱すの大変そうね」



「はい、頑張りました!」



そして次は桜華、氷の蝶々を何匹も展開させた。


だが、桜華は動かない。


そのまま数分が経つと、桜華が氷の蝶を消して戻って行った。



「桜華、棄権でいいのかしら?」



水鏡はその場を立ち去る桜華を引き留めた。



「棄権? 何を馬鹿な事を。 もう終わってますわよ?

的を見て下さい」



「何?」



水鏡が的に視線を向けると、既に的が氷漬けになっていた。



「い、いつの間に」



「ふふ、水鏡導師でも気付きませんでした? なら成功ね」



「わぁ~い! 桜華ちゃんやりましたね!」



「桜華、何したの?」



真那もその様子に疑問を浮かべ、桜華へ訪ねた。



「蝶の羽から目で見えない氷の粒子を飛ばしてたのよ。

だからそれが続けば次第に的は氷って行くの」



「なるほど……桜華、恐るべし」



その後、御華楓は武器である鞭を地面へ打ち込み、その衝撃がソニックブームを作り出して的を真っ二つにした。



また、烏丸迅もクナイを避雷針代わりにして雷を呼び起こすなど、様々な技が繰り広げられて本日の講義が終了した。



その帰り道。



「真那、一緒に帰ろ」



紫苑、桜華、真那はいつもの様に一緒に帰るべく靴を履き替えていると、後ろから真那の幼馴染である猫磨が声を掛けた。



「湯楽も一緒に帰る?」



「うん。 あっ、初めまして。 猫磨湯楽、です」



桜華は何度か話した事があるらしく、見守っていたのだが、紫苑は初めてだった為に猫磨から挨拶をして来た。



「あっ、天草紫苑です! 真那ちゃんにはお世話になってます」



紫苑はペコペコとお辞儀をすると、猫磨は嬉しそうな表情を浮かべた。



「紫苑ちゃん、宜しくです」



「はい、あっ……じゃあ猫磨ちゃんで良いですか?」



「何でもいいですよ」



「じゃあ帰りましょう。 どこか寄りたい所はあるのかしら?」



桜華は意外と帰りにどこかへ寄るのが好きみたいだ。


これまでそんな事は一度も無かったからこそ、それを知っている真那や猫磨は不思議そうな表情を浮かべる。



「な、何かしら?」



「桜華、ちょっと変わったね。 良い意味で」



「うん。 前はどこかに寄るとかしなかったです」



「い、いいじゃない別に! も、もう行くわよ、ほら!」



桜華が恥ずかしそうにしながらも颯爽と飛び出し、三人がそれについていった。










四人が向かったのはこの日もジャンクフードてん店だった。


実は真那が大好物で、休みの日は基本的に一人で訪れているらしい。



「真那、太るわよ?」



「桜華、私は太らない体質」



「でも栄養は考えないとダメです!」



流石にと猫磨も真那を説得する。



「じゃあ……週に一回にする」



「宜しい!」



意外と聞き分けの良い真那に三人は楽しそうに笑った。


機関、各自の家柄などの話しをして充実した時間を過ごしていく。


しかし、それも突然の出来事によって打ち砕かれてしまった。



「あれは……」



四人が居るジャンクフード店は三階建てで、その三階でおしゃべりとしていた。


すると、猫磨が窓の外に見える同じ高さの建物へ視線を向けていた。



「ダメっ!!」



「「「えっ!?」」」



猫磨は大きな声を上げて、そのまま店を後にした。



「急にどうしたの!?」



「分からないけど……ずっと窓を見てましたね」



「とりあえず追いかけよう!」



急いで三人が猫磨を追いかける。


その猫磨はジャンクフード店の向かいにある建物へと入って行き、階段を上がって三階部分で止まった。



三人もそれに追いつくと、既に時は遅かったようだ。



「何、これ……」



辺りはボロボロに破壊され、中央には女性の死体が転がっている。



「さっき見えたのです。 穢れ人が……間に合わなかったです……」



猫磨はぐっと拳を握り、悔しさを全面に押しだす。



「湯楽……」



真那が猫磨の肩をポンっと叩く。


すると――



ギギ



ギギ



どこからともなく異音が鳴り響いた。



「これは……まだ穢れ人が近くにいるかもしれないわね」



「桜華ちゃん、この場合ってどうするのですか?」



「天導士を呼ぶのがベストだけれど……呼んでる間に被害が広がるかもしれない」



「私が呼んできます! お願いしても良いですか!?」



猫磨は強い意志でそう告げると、ダっと階段を降りていった。



街の各所には天導士が所属する〝清導天廻〟へ繋がる部署がある。


そこへ穢れ人の目撃情報を伝える事で連絡が入り、天導士達が出動するのだ。



ギギ



ギギギ



「さっきより近くなったわね」



「でもこの場所で三人は……」



現在、三人がいるのはマンションの三階廊下部分。


女性が倒れている場所は玄関が破壊されていて中も丸見えだが、戦うにしては狭いのだ。



「桜華ちゃん! ここ、屋上行けます!」



「屋上? それしかなさそうね……」



「でも先ずは穢れ人を見付けない――っ!?」



ガンっと壁が崩れると同時に丸見えになっている部屋から穢れ人が姿を現した。



「グギャグギャ」



「出たわね。 皆、走るわよ!」



三人は一斉に走り出し、階段を上がって屋上の扉を蹴り破った。


すると、穢れ人もそれを追う様に屋上へと到達した。



「二人とも、私達は天導士ではないから、危ないと思ったら逃げるのよ!」



「「うん」」



それぞれ勁現具を手にして浄勁力を流す。



「私が前衛、真那は真ん中、紫苑は後方から行くわよ!」



桜華が勁力を流した突剣で穢れ人へと踏み出した。



「はぁ!」



グサっと剣が穢れ人の胸部分を貫く。



「グォォ!」



しかし、既に痛覚が麻痺しているのか、穢れ人が桜華に向けて爪を振るう。



「くっ!」



瞬時に剣を抜き、それを防ぐが重たい一撃だったようで桜華が吹き飛ばされる。



「桜華ちゃん!!」



「大丈夫よ」



「はっ!」



即座に真那が手裏剣を飛ばし、後方へと移動して忍者刀で背中を刺す。



「グゥゥ!」



しかし、穢れ人は上半身だけをクルっと半回させてその遠心力で真那を後方へと追いやる。



バシュン!



後衛の紫苑は真那に当たらない様に的確に穢れ人の頭部、胸部を射抜いていく。


すると、次第に痛みを感じ始めたのか、穢れ人が暴れ始めた。



「グァァアア!!」



「きゃっ!?」



真那が飛ばされ、桜華へ襲い掛かった穢れ人の爪が肩を切り裂いた。



「ぐっ、乙女の肩に傷を付けるなんて信じられない!」



桜華は「はぁ~」っと鋭い突きを何度も繰り出し、応戦する。


すると、突剣で突かれた箇所が徐々に氷り始めた。



「真那、爆発の!」



「チロ、行くよ!」



ポンと肩にチロが現れ、真那が手裏剣を飛ばした。



「ギャギャギャ」



穢れ人が跳んでくる手裏剣を爪で叩き落すのだが、「チロ」と真那が呼びかけると一斉に爆発していった。



「グガァァアア!」



幾つもの爆発によって穢れ人の腕や足が吹き飛ばされ、「ギャ……ギャ……」と悶え苦しんでいるのが分かる。



「紫苑、トドメ!」



「妬み、恨み、全ての罪を清めて純魂へと還りたまえ。

我が浄勁を以て汝の命、天へと導かん」



紫苑は祓詞を読み、ギリギリと力を込めて浄勁の弓弦を引く。



「安らかに眠れ……」



紫苑が先程よりも多くの浄勁力を注ぎ、大きな勁矢が勢いよく放たれた。


それは一直線に穢れ人の頭部を貫き、次第に光の粒子となって消えていく。



「「「はぁ~」」」



初めて穢れ人との戦闘を終えた三人は脱力してペタっとその場に座り込む。



「あっ、桜華ちゃん! 怪我!」



「あぁ、大丈夫よ」



「穢れ人、強い……」



「そうね。 私達もまだまだ足りないわね」



数分後に猫磨が天導士達と共に屋上へと到着したのだが、既に穢れ人は祓われて居た為、三人は事情聴取を受けてそれぞれ岐路に立った。









『皆、揃いましたね。 では各大天導師達、報告を』



ここは天導士達が所属する〝清導天廻〟の一室。


各支部の長である≪大天導師≫達がモニター越しで集まり、それぞれが天導の長である【天導元帥】へと報告する。



「ここ数日、都内では穢れ人の出現が多発しております。

一昨年と比べても去年は数百、恐らく今年も同じかそれ以上になると予想されます」



一人の大天導師が報告を終える。



「確かに東も西も穢れ人の出現が多発しております。

また、報告によれば天導に関わる者まで穢れ落ちするようです。


そうなった場合、自我を失いつつも勁現具を扱うとの情報まで入っております」



もう一人の大天導師が捕捉する。



「そうですか……天草の一件から10年。

再び天草でも穢れ落ちした導士がいたと聞いてます」



「はっ、天草は当時当主であった影時の娘を保護し、現在天導士に向けて清導廻に通わせているようです」



「なるほど。 恐らく常闇の動きが活発化しているのも原因でしょう。

調査隊を編成し、各自動いて下さい。

主等が出てくると厄介です」



「「「はっ」」」



天導元帥の指示に従い、会議を終えると同時にそれぞれが調査隊を編成した。



その頃、紫苑・桜華・真那・猫磨の四人はようやく事情聴取を終え、清導天廻の建物から外に出られた。



「ふぇ~疲れましたね……」



「本当に長いのよ……」



「ずっと同じ事ばっかり言わされたし聞かされた」



「まあまあ、皆さん無事に解決出来たんです!

帰りましょ!」



猫磨が三人を宥め、それぞれが帰路へと付いた。



天草ではその夜、紫苑と桜華が当主の桔叶に呼ばれた。



「二人とも、穢れ人を祓ったんですって?」



「はい、お母様」



「はい」



何故か桔叶は嬉しそうな表情を浮かべて二人をねぎらった。



「今回は見事な成果よ。 でもね、二人はまだ導士だという事を忘れないでちょうだい。

機関で強くても弱くても、最後に勝るのは実戦経験よ」



「「はい」」



「じゃあ、疲れたでしょうからゆっくり休みなさい」



「「失礼します」」



桔叶への報告を受けると、桜華は二階へ、紫苑は一階の自室へと向かった。



コンコン



「紫苑さん」



「はい、どうぞ」



数十分後、中には静世が入ってきた。



「大丈夫だったんですか? 桜華さんは怪我の治療を受けてましたけど」



「私は後衛だったので大丈夫です」



「無茶はしないで下さいね?」



「はい、すみません」



しばらく状況などを静世に話し、そのまま夕食を終えると紫苑は早めに布団へ入った。



「クク」



「今日は疲れたね、タケヒコ」



「クゥ」



「おやすみ」



紫苑は実際に戦った穢れ人の様子を思い出しながらも、気付けば意識を手放していった――











穢狐姫えこひめ、また好き勝手やってるようだな』



『あら、何の事かしら? 穢童子えどうじ?』



『ふん、まあ好き勝手やるのはいいが……計画は忘れるなよ』



『ご忠告痛み入りますわ。 ただ、好き勝手と言うのは心外ねぇ。

私は人間が大好きなのよ。 だから楽しんでるだけ。

穢童子の酒好きと変わらないのではなくて?』



『ケッ、俺の酒とお前の男遊びを一緒にするな』



闇の中で二人の男女が言い争っていると、上からバサッバサッと羽の音が響いた。



『どっちもどっちじゃ。 天導の連中も警戒し始めたぞい』



穢天狗えてんぐ、どこかに行ってたの?』



『ちと野暮用じゃ。 それと、穢蛇姫えじゃひめ、成果は出たのか?』



『大成功……』



すると、奥から灰色の衣を纏った牛や猪らしき物が姿を見せた。



『可愛い……』



『穢蛇姫……貴女のセンス、どうかしてるわよ?』



『穢狐姫、これの可愛さが分からないのはまだまだだね』



『別に可愛さなんて分からなくていいけれど……』



『それで、穢蛇姫。 それはいつ放つのだ?』



穢天狗が尋ねると、穢蛇姫は嬉しそうに答えた。



『これからだよ。 北の方からにしようかな。 それとも南かな?』


穢蛇姫はんん、っと人差し指を顎に当てながらどちらにしようかと迷っていた。



『なら北じゃろ。 今は冬じゃ。 北は特に吹雪いておるし調査が入り難いからのう』



『分かった。 行ってくる』



穢蛇姫がその場を後にして、三人がそれぞれ好きな事を始める。




この場所は人々から〝常闇〟と呼ばれ、現世とは別の世界。


とは言え、現世と常闇は表裏一体であり、言わば裏の世界なのだ。


そこに住まうこの四人の主が常闇を支配し、現世と常闇の統一を図っていた。

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