第9話 情報戦、アークスター家の采配
貴族決闘においては、事前の情報戦もチカラを入れるべき事柄のひとつだと俺は考える。
終始、ライトフック家の暗殺家業を手伝ってこなかった俺だが、親父は依頼を受けたら入念に情報の提出を、依頼主にもとめ、足りない分は自分たちの足で調べていたのを覚えている。
暗殺は情報戦だ。
ライトフック家が暗殺者をおくりこむ時は、すでに100%に近い確率の暗殺成功率が確約されている。
まあ、だからこそ、それから逃れるような奴には、二度と手は出さないのだが。
今回の貴族決闘においても同じことが言える。
正体不明の相手とまみえるより、事前にその正体をつかんでいた方が断然優位にことを運べる。
ゆえに、自分たちの家をのぞいた、ほかの五つの貴族家についても調べるべき……とおよそ、ここまでは全ての参加者が考えるであろう。
ただ、ここに考えの至っていない人物がひとりいる。
うちの
彼女は貴族決闘の準備のために、こともあろうに身体を鍛えているのだ。
馬鹿にするわけではない。
もちろん、本人の生存能力を高めておくのは、
最悪、
だが、おそらく逆はありえない。
手紙の記載を思い出す。
そう、たしか
指揮者を守れない英雄など、英雄にあらずということらしい。
黄金の錬金術師は、ルールを守らせる何かしらの仕組みを用意してバルロワで待ち受けているのだろうな。
頭の痛いことだ。
「クリフォード殿、お悩みのようですね」
「ありがとう、ハンス」
紅茶をうけとり、ひと口ふくむ。
奇跡をつくる戦いまで時間はあまり残されていない。
しかし、俺たちの陣営、アークスター家には十分な準備はなく、これから用意する目処もたっていない。
設備という意味でも、情報という意味でも。
すべては資金力、人脈、方法を知らない当主によるところがおおきい。
ただ、若干14歳にして純粋な彼女に業腹で欲深く、計算に富んだ一般的な貴族のマネをしろというは荷が重いはなしだ。
レイスはあのままでいい、あのままでいて欲しい。
かわりに俺たちが頑張るわけだがーー。
「ハンス、あんたはほかの出場者の情報なんかは、ある程度掴んでたりするのか?」
隣の席にちゃっかり腰をおろし、紅茶を楽しみはじめた執事へ、現状の責任をとう。
「ええ、確定的に出場するであろう、ひと組に関してはアークスター家の総力をあげてマークしております」
「ひと組? たったそれだけ?」
「お恥ずかしながら。貴族決闘に参加される貴族家の候補は膨大ゆえ、参加者の情報を事前につかむのには、おおきなコストがかかります。なにせ、我らのアークスター家でさえ、黄金の錬金術師から直々の招待状が届いているのですから」
アークスター家はお世辞にも有力貴族などとは言えない。
必然的に有象無象の貴族家にも、招待状がばら撒かれてると考えるのは、まあ、普通か。
しかし、そんな事をしたらこの戯言を本気にする貴族は、たった6人では済まないだろうに。
となると、参加者を選別するための仕掛けは、すでに作動済みという事なのだろうか。
「ゆえ、アークスター家には、情報戦をおこなえるだけの力がございません」
だよな。
改めて説明されて、レイスの藁にもすがる状況が身にしみて理解できた。
「それじゃ、予想がついてる、ひと組に関してはどこまで?」
「ラインハルト家のご令嬢、エリザベス・ラインハルトでございます。ゲオニエス帝国が公爵家で、おそらく彼女が
「うむ、頼んだ。すこし出てくるから部屋にでも置いておいてくれ」
よし、カードは一枚くらいは用意できた。
「どちらへ行かれるのですか?」
「貴族決闘の準備をしてるだろう場所に心当たりがある。アークスター家のため、そこから有意なネタを引き出してくる」
「なるほど、かしこまりました。では、行ってらっしゃいませ、クリフォード殿」
ハンスの静かな一礼を受けて、アークスター家をあとにする。
向かうのは、俺の実家ライトフックの隠れ里。
去って、まだ3ヶ月か。
存外にはやい帰郷となりそうだ。
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