第240話
十歳になりました。今日は私、エンデリシェ=メーン=ファストリアの誕生記念式典が催されます。思えば転生してからというものの、かなり悠々自適に暮らしてきたとおもいます。
普通は王族なのですから、年が若かろうがそれなりに忙しいはずなのですが……なぜかと言いますと、まず、今の私には複数の兄弟が存在します。地球にいた時は一人っ娘だったのですが、この我が母国ファストリア王国は王都オーネにあります王城には現在……
一番上のお兄様(序列一位)ーースタッティオ十八歳
二番目のお兄様(序列二位)ーーエイリ十六歳
三番目のお兄様(序列六位)ーーヴァン十六歳
一番上のお姉様(序列三位)ーーミドーラ十五歳
二番目のお姉様(序列四位)ーーラスパータ十二歳
そして私(序列五位)ーーエンデリシェ十歳
一番目の妹(序列七位)ーーベル八歳
の七人の王族嫡子庶子が存在しますーーーー因みにヴァンお兄様、そして唯一の妹にあたるベルの二人は
ともかく、そんな私は特に継承権を破棄した五歳以降、毒にも薬にもならない存在として兄弟から可愛がられてきました。中には己の派閥に取り込もうとした方もいましたが、物事を知らないフリをしているうちにその素振りもなくなっていきました。
更に側室のお子。ヴァンとベルも同様に最初から継承を諦めていたため、私たち三人は特に仲良くして来ました。
というわけで、『腹違いの兄妹と仲良くするようじゃあ』と言った感じに高位貴族に利用されることもなく、十歳を迎えたわけなのです。お父様もお母様も、つまり両陛下とも私のことは特に何事もなく暮らして欲しいと願われているようで、たまにおねだりをすると親バカ一歩寸前のようなテンションでなんでも買い与えてくださいました。そこに私の王位継承権放棄が合わさり、私の『脳天気なお姫様』というイメージが完全に固まっていったのです。
立場を与えられたら利用しないわけにはいきません。見ず知らずの世界でやり直すのです、でしたら地球では優等生を演じていた私も、周りに害を与えない範囲で自由に振る舞う権利はあると思います。まあ実のところ一度失った命、ということもありましたし……もし私の十年間が地球で絵本になったら『これが本当にお姫様? 信じられないっ』と小さな子供に幻滅されるでしょね。
「エンデリシェ様、本日のドレスはどちらにいたしましょう?」
「んーと、こっちで良いです」
「本当によろしいのですか? 本日の主役なのですよ?
「私はこれでいいのです。私のためのパーティなのですから」
「……かしこまりました」
というふうに、着るものにもそれほどこだわりがないくらいなのですから。選んだのも、己の髪と色合いが被ってしまう紫色のドレスです。黒髪に紫は他人が来ているのを見たら渋すぎると思うでしょうが、クローゼットを見て一番最初に目に入ったのがこれだったのでこれでいいのです。
そして、メイド達にめちゃくちゃに弄られてーーこればかりは遮ることができませんでした。まるでフランス人形になった気分ですーーいよいよ本日の主役の完成です。
「はい、これでいいでしょう、これでいいです、もう終わりにしてください」
「ううーん、ですが」
「あなた達の職業意識には感心しますし尊敬もしています。ですが当人が準備でクタクタになってしまっては何の意味もないのでは?」
「それもそうですね……失礼いたしました」
「いいえ、ありがとうございます皆さん」
と、これ以上めんどくさいことにならないうちにメイド達を追い払ってしまいます。ですがただ一人を除いて。
「殿下、もう十歳なのですよ? 王族の慣習といたしましては、あと五年以内に結婚相手を見つけなおかつ籍を入れなければなければなりません。今のままでは、寄る男もその態度を目にすると逃げてしまいますよ?」
と、小うるさいメイドが口を挟みます。
この方は生まれた時から私の
「な、何をするのですか! ミレーラっっ」
「殿下が良からぬことをお考えになっているのを察知いたしましたので」
「何を根拠に」
「顔に出ていましたよ」
「嘘っ。そんなはずは」
「はい、嘘です」
「えっ!? ……貴女、カマをかけたわね?」
「騙される方が悪いのです」
「むうっ」
私は、可愛らしいほっぺをぷくりと膨らませ抗議の意を示します。しかしすぐに指で左右から突き挟むようにして押しつぶされてしまいました。
「ほら、行きましょう。もうそろそろ時間です、陛下達もお待ちかねでしょう」
「はい……」
確かに、もうそろそろ開会の時間です。いきなり始まるわけではなく少し遅れて入場する予定にはなっておりますが、ここでゆっくりしているわけにも参りません。城は広いので移動するにも時間がかかるのです。
本日の会場は大広間、この手のパーティを開く場所としては一番大きなところです。私も正室、つまり王妃の娘でありますので十歳という節目にはそれなりの規模のモノを開かなければ王室のメンツにも関わって来ます。貴族達に付け入る隙を与えてはなりません。たとえ私に興味がなくとも、あることないことを利用して少しでも己の利益を得ようとする、人間とは別種の意地汚い生き物なのですから。
「殿下?」
「はい?」
「顔がむくんでおりますよ。笑顔笑顔」
「は、はい、すみません」
しまった、顔に出ていましたか……でも、この王国が一枚岩でないのは事実。最近は貴族派なる勢力が力を付けてきているとも聴きますし、国益ではなく己の利益だけを求める貴族達にはついつい憤りと同時に不安になってしまいます。
そんなことを考えているうちに、いよいよ会場へ。近づくにつれ様々な人の様々な話題の話し声が聴こえてきます。大広間はこの手の催し物の際には廊下へ続く扉も開けっぱなしにするのが通例。ですので行ったり来たりする人の姿も目に入り、時々こちらに気が向いた人々から恭しく礼をされます。
そして、ミレーラとはここで別れ、私の周りを囲うのは近衛兵だけに。会場からは、これから入場する本日の主役の紹介ーーおそらく宰相でしょうーーがなされます。
<それではみなさま、盛大な拍手でお出迎えくださいませ、ファストリア王国第三王女、エンデリシェ=メーン=ファストリア殿下であらせられます!>
辺りを包み込む、掌と掌が打ち付けられる音に頭を軽く揺さぶられながらも、笑顔を浮かべドレスの裾が汚れないように気をつけつつ堂々と花道を歩いて行きます。
そして大広間の一番奥、一段高くなっているところに座している両陛下にお辞儀をし、振り向いて再度出席者に向け軽く礼をします。すると、入場した時よりも更に大きな拍手が巻き起こりました。
<それでは、殿下に一言ご挨拶を賜りたく存じます。エンデリシェ殿下、どうぞよろしくお願い申し上げます>
「はい」
やはり司会進行役を任せられていた我が国初の女宰相である、シルベッテ=キュリルベクレ侯爵から案内を受けます。
<皆さま本日は、私エンデリシェの十歳を祝う式典にご参席いただき誠にーーーー>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます