第201話 ※水着回その1

 

「まさか本当に消しとばしてしまっているとは……」


「びっくりするわね……私も漁師の人から話を聞いたことがあったけど、昔から全く凪ぐことのない大時化が続いていてこの海域だけ嵐が住んでいるようだって言っていたのに」


「海ってこんなに広いのですね。私、初めて見ました! 昔見た避暑地の湖なんかよりもずっと青くて綺麗です」


「<ううむ……ワシの記憶にある限りでも、この辺りは間違いなく突風が吹き荒れ叩きつけるような雨が降り注ぎ、海の生き物も寄り付かんような有様だったはずなのじゃが>」


「だから言っただろう、私たちがそれを無くす手段を用いたと」


「あの髪の長い不気味な女がやったんでしたよね」


「うむ。あやつは魔力に関してはポーソリアル軍のどの熟練魔法使いよりも上回っていた。マジケミクについての造詣も深くあの女がいなければ天候操作は実現し得なかったであろう」


 マリネさんは未だにあの髪長女が死亡したと思い込んでいる。俺的には教えても問題ないのじゃないかと思ったが、見知った仲間がいると知れ渡ったら態度を翻すかもしれない、との理由で敢えて教えていないと後で教えてもらった。

 当然女の方にもマリネさんが生きていることは伝えておらず、お互いにすぐそこの牢にいるのにその存在を認知出来ていない状態だったわけだ。


 俺は尋問等に関しての知識はそこまであるわけではないが、まず目標に対して第一にやることといえばその気力を削ぐことであることはわかる。つまり希望を捨てざるを得ないくらいに追い込み、だが一方でその状況を少しでも軽くするためのエサをちらつかせる。そうすることで、次第に態度は軟化していくのだ。

 そこで行われる事の一つに拷問がある訳だが、マリネさんに聞くとそれほど激しい責めは受けなかったと聞く。というのもマリネさん自身本人が俺たちに語ってくれた様、今回の戦争自体への不信感を抱いていたからだ。なので彼女も抵抗しても無駄かと悟り、話すことにしたみたいだ。


 国の情報を敵国に渡すということはすなわち祖国を裏切る、捨てると同義である。もし仮に帰還することができたとしても後ろ指を刺され生き続けなければならないのは想像に難くない。それに場合によっては自国民からも物理的に痛めつけられ最悪殺されてしまうケースだってあるのだ。

 でもマリネさんはそれがわかっていながらも、今回の同行に承諾した。その本心全てを聴けているわけではないものの、ポーソリアルに対する猜疑心と、祖国や民を想う気持ちの両方が混在している微妙な心情だろうとは思う。果たして共和国がどのような態度に出るのか、それによってマリネさんの祖国に対する気持ちもまた変わっていくことだろう。


「<ともかく、通れるようになっておったのは幸い、予定通りポーソリアルへ向かうぞ! ここからはもう少し速度を上げて行くからの。サファイアもルビーも、遅れるな>」


「<はいっ!>」


「<大丈夫なのじゃ! れっつごーなのじゃ〜!>」


 そして白銀、赤、青の三体はさらに速度を増し、まだ見ぬ大陸へと向かって一気に進んでいく。










 果てしなく続く水平線上には所々島が浮いており、俺たちはその中の一つで一度休憩を取ることにした。


「ふう、なかなか疲れるのお、ここまで長い時間羽ばたいたのは久しぶりじゃ」


 エンドラが木陰に座りながらそう呟く。

 上半身裸に黄色いジャケット、そして赤い海パンにサンダルというおおよそ異世界とは思えない出で立ちだ。流石にサングラスはかけていないものの、今にも亀に乗ってサーフィンし出しそうだな。


「ううーんっ! こうして人間の姿で海岸に降りるのはいつぶりかの!」


「お、お姉ちゃん待ってよ〜」


 その孫であるルビサファ姉妹は、こちらもまた異世界ファンタジーに似つかわしくない現代的な水着だ。もしかしてエンシェントドラゴン族の間ではこれが普通なのだろうか?


 イアちゃんはいわゆるクロスホルターネックタイプの紺の水着。簡単に例えればスクール水着の色だ。

 そのそこそこの大きさの双丘が持ち上げられ、谷間には視線隠しの網目が入っておりそれが逆に蠱惑的だ。大きさが合っていないのか、パンツのお尻部分が少し飛び出ておりそれを直す仕草もまたヨシだ。


 ルビちゃんの方は開放的なマイクロビキニタイプ。深く燃えるような紅色のソレはもはや隠すべきところを隠すためだけに存在する布となっている。その控えめな丘の先っぽが展望台の様に出っ張っているが、本人はそんなこと全くお構いなしな様子。下の部分もつるつるてんであることが窺える小ささで、下手をすれば京○府警のデジタルお巡りさんたちが飛んできそうだ。


「あ、暑いですね……南大陸も中央大陸とは気温が違っていましたが、これから向かう先もどんどんと上昇していくというのですから今から覚悟しておかなければならないでしょう」


 そういいつつ日差しを手の甲で遮るは、陛下の勅命により同行している元ファストリア王国第三王女のエンデリシェだ。

 チューブトップ型のいわゆるツイストバンドゥビキニを纏っており、元王女の肩書に負けないよう激しく主張する白い双子山は上の面が完全に丸見えだ。

 ラッシュガードのような上着を羽織って入るものの全く隠せておらず一匙の爽やかさを添える程度の効果しかないように思える。頭には麦わら帽子的な唾広帽を被っていて、全体的に夏の旅行雑誌の表紙に似合いそうな服装だ。


 下の部分はサイドの紐のところを可愛らしい髪留めのようなピンで装飾しており、上下クリーム色の水着にを添えている。

 ううん? ドラゴンだけじゃなくエンデリシェまでこんな格好を……おかしいな、王国ではこんなんじゃなく昔ながらのもっと布面積が多い囚人服のような水着をちょっとだけ加工したものが主流だったはずだが。それは王族も変わらなかったし、なんらかの存在の介入を感じずにはいられないぞ?


「ふう、ヴァン、お待たせ!」


「お、おう」


 異世界に来てまでのテコ入れ要素に呆気に取られながらも、最愛の彼女が駆けてやって来たところで返事を返す。

 そしてその彼女様も例に漏れず可愛らしい黒色の水着を着ていた。


 上はオフショルダータイプの水着に、下は殆どGストリングのようなローライズを履いている。エンデリシェほどではないが持ち上げられた連山はボヨヨン、ボヨヨン、ボヨヨヨヨンとスライムが如く跳ねており一所に留まろうとしない。

 ローライズもただでさえ細く浅い形なのに、食い込んでいるせいで峡谷の形が丸わかりだ。恥じらいというものはないのか、恥じらいはっ!


「なーに、じっと見て? うふふ、惚れ直しちゃったかな? かなかな?」


「は、はい、それはもう……」


「うふふ、ありがとっ♡」


「あ、ちょっと、抜け駆けは禁止ですよ!?」


「抜け駆けなんかじゃないわよ、ただヴァンが私に見惚れているだけ。ね、他の女に興味なんかないわよね?」


「ええと」


「そんなことありませんわっ、ねえヴァン様?」


「あのその」


「ヴァンさん、わ、私も見て、くださいっ、ううっ」


「イアちゃんまで!?」


「なんじゃなんじゃ、何か遊んでおるのか?」


「ルビちゃんもっ」


「ふぉっふぉっふぉ、若いとはいいものよのお」


「エンドラ様は何故に傍観されているのですか!? 助けてくださいよ〜!!」


 一気に四人の女性に囲まれてしまった。


 そしてさらにそこに。


「騒がしいぞ、どうしたのだ?」


 最後の同行者である、マリネさんがやって来た。

 因みに他の随行員は護衛の兵士以外皆俺が作った簡易宿泊所でへばっている。どうもドラゴンタクシーで酔ってしまったらしい。


 マリネさんは、あの艦で助けた時にもちらりと裸を目にしてはいたが、元々が着痩せするタイプ人なのでいつも見ている彼女とだいぶ印象が違う。

 これぞ水着! とでも言おう、三角形をした真っ白いビキニを着ている。エンデリシェに負けじ劣らじと盛り上がる二つのパトランプは布によって押しつぶされ餅のようにぐにゃりと曲げ広がっている。

 同じくらい主張の激しいお尻はプリップリとエビのように丸く沿っていて、薄めの褐色肌は水着の白と対照的な健康さを感じ取れる。


「いやあ、そのぅ、みんな何故か急に俺の周りに集まりだしちゃって」


「ふむ、なるほど……ならば私も混ざろう!」


「な、何故そうなるのですかっ!?!?」


 総勢六人になった人の塊は、そのままおしくらまんじゅうが如くくんずほぐれつ海岸を進み、そのまま海面にザッパーン! とまとめて叩きつけられてしまった。


「へぶっ!」


「うわっ」


「ひゃっ」


「ひえっ」


「うおっ!?」


「やっ?!」


 ぺっぺっ、口の中に砂が……ん? これは?


「おおっ! すごい綺麗だ! 空から見ていても分かってはいたけれど、まさかここまでとは!」


 正に楽園のビーチ、殆ど透明に近い緑色をした海水は、浅いながらも海底まで見えるくらいどこまでも美しく広がっている。


「すごいすごい! こんなの初めて見たわ」


「同じくですっ、まさかこんな世界があるだなんて……」


「うむ、星の神秘じゃな!」


 異世界も、捨てたもんじゃないな。


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