第202話 ※水着回その2
「ふう〜〜」
「安らぐのぅ」
「たまにはこうして羽を伸ばすのもいいものだ」
あのまま浅瀬でひとしきり遊んだ後。これまた俺が作り出したビーチセットを用い、ビーチバレーや浮き輪などの遊具に。パラソルやベンチで休憩する者もいれば、海辺で再び遊び出す者も。さらには小さなお魚さんと戯れたりもでき、今このビーチは正に海の楽園(二重の意味で)だ。思い思い楽しんでいる様子は同年代の男子が見ればさぞ羨ましがることだろう。
そんな中。
「--ん? おい、あれはなんだヴァンくん」
「はい?」
俺の横のベンチに寝転がり日光浴をしていたマリネさんは、上体を起こすと遠く海を指差す。
「んん? なにか細長くて大きいものが……えっ!?」
「確かに細長くて大きいな……三角コーンみたいだ」
その巨大なパイロンのような尖った三角の物体は、波しぶきを上げながらこちらに近づいてくるではないか。俺たちは慌てて起き上がり、臨戦態勢をとる。
「みんな、何か来るぞ!」
「! 本当だわ! 避けるわよっ」
そして。
「キュクルルルルル!!」
「いやーっ! 離して〜っ!?」
「きゃあーっ!」
「なんなのじゃいきなりーっ!」
「ひゃあっ!?」
「なんだなんだ!」
横並びに退避していた、俺とエンドラ以外の女性五人組全員が突如宙に浮いたのだ。いや、そうではない、あれは。
「しょ、触手?」
そう、皆が勝手に宙に浮いたのではない。先日倒したあのタコの魔物を二回りほど小さくしたようなイカの魔物が、その触手を五人の身体に巻きつけていたのだ!
「こんなところまで魔物じゃとっ。くっ、早く助けなければ!」
「は、はい!」
エンドラと二人して、みんなを助けるために戦闘陣形をとる。前衛が俺、後衛が爺さんだ。
「俺はとりあえず触手を切り落とします!」
「あいわかった! おいお主ら、気を付けろ! その魔物何か様子が変じゃぞっ」
エンドラは女性陣に忠告をする。言う通り、イカの魔物は捕まえた皆を絞め殺すでも無く叩きつけるでも無く、なぜか捕えたままなにもしない。一体なにが目的なんだ? 魔物というのは往々にして人間絶対殺すマンなはずなのだが。
と思っていたら--
「やーん! なんでひっぱるのよ!?」
「ぬ、脱げちゃいます〜」
「不埒な魔物め、この、この!」
「そこは違っ?!」
「ヌメヌメして気持ち悪いのじゃ!」
「クウゥルルルルルル!!」
余っている触手を使い、なんと捕えている女性陣の水着を剥ぎだしたのだ!
それぞれの双丘が露になり、さらに下までも。
な、なんという展開だ! ベタすぎるっっ!!
「返しなさい、こらっ!」
「やっ、くらえ!」
「早く離すのじゃ!」
突然の出来事に呆気にとられていた俺たちだが、捕まったみんなが抵抗しだしたのを見て慌てて助けに入る。
ベルたちはともかく、マリネさんとエンデリシェはどこまで戦えるのかわかったものじゃない、どちらにしてもこれ以上やられないうちに!
「てやあーっ!」
「ゴギゲェッ!?」
「うおっと」
まずは俺の一振りで、マリネさんを助け出す。
「もういっちょ!」
「ガギャッ」
「きゃっ」
続いてエンデリシェを。二人にエンドラの元へ行くよう背中を押して促し、次。と思ったら。
「あ、あれっ」
「ギヒヒヒッ!」
剣を握り直した直後、その持ち手がぬるりと手を離れ、地面に落ちてしまったではないか。しかも掌がヌトヌトして気持ち悪い……その隙を見たイカが俺を触手で押し潰そうとしてきたので、慌てて飛び退いて避ける。続いて魔物はその捕えた残りの三人を俺に見せ付けるようにして持ち上げる。
くそっ、これじゃ魔法を使っても余波がみんなに……どうする!?
「そうだ、ベルっ、今こそ『破魔の光』を使うんだ!」
「そ、そうだったわ! これなら一発で……あれ? ひゃあっ!?」
「ベルっ!?」
「ギヒェエエエエヘへへへへ!!」
魔物を滅ぼす例の光を出そうとする彼女だったが。何故か『破魔の光』が通用しないっ。逆にマリネさんたちを助け出したせいで余った触手に彼女のアチコチを弄られてしまっている。
やめろ、俺の彼女だそ!! 魔物といえども寝取られは今のご時世受けが悪いぞ!? いや、もしかして魔物じゃなく、単に大きなイカなのか?
「エンシェントドラゴン様、あいつもしかして」
「うむ。魔物特有の邪悪な気配は感じられん、恐らくではあるが、なんらかの原因で突然変異したイカが暴走しておるのじゃろう。それよりもルビー、サファイア、なにをボッとしておる、早くドラゴンにならんか! さすれば、その大きな触手といえども捕らえておくことは難しかろう!」
そういえば、イカは結構高度な知能を持つと聞いたことがある。巨大化したことで脳も大きくなり、生物として進化したのではないか? まあそんな考察は後に置いといて。魔物でなければどうするか……効率は悪いが、もう一度得物を出してちまちま触手を切断するか?
と、エンドラが孫たちに向かってそう叫ぶ。ああなるほど、その手があったか!
「そ、そうじゃ! ひえっ」
「むぐむぐ、わひゃりまひたぁ!」
ドラゴン姉妹も触手の餌食になっているが、多くの触手に襲われているベルよりかはまだなんとか抵抗できるようで。
「おりゃーっ!」
「えやーっ!」
二人の身体がムクムクと形を変えていき。巻きついている触手はそれに逆らえずブチブチ音を立て千切れてしまう。
「<ふう……よくもやってくれましたね!>」
「<うむ、ここからはこっちのターンじゃ!>」
「ギィィイッ!? グググ……!」
現れた二体のドラゴンが、イカと対峙する。
「!! ベルーっ!!」
一方のベルも、驚いたイカが手放してくれたおかげで地面へ落下しようとする。俺はダッシュでそれを受け止めに向かう。
「うっ、ふう」
「ううん……ヴァン、ご、ごめんなさい」
「良いさ、それよりもまずは魔物をっ。って、あれ?」
受け止めた後またすぐさま交代し、抱き抱えた彼女を木陰になっている地面に優しく下ろしてやる。そして謝ってきたのを大丈夫だと受け流すと再び前を見据えイカに反撃しようと思ったのだが。
今さっきまでそこにいたはずのイカは、殆ど一瞬にして倒されてしまっていたのだ。
「<どうじゃ! 我らに逆らえると思ったのか!>」
「<お姉ちゃん、それじゃまるで悪の組織だよ>」
「<そんなことないのじゃ!>」
「ゲゲ……ゲソォ……」
ドラゴンズは勝利に酔いしれており、逆にイカのほうはピクピクと痙攣して動かない。さっきとは完全に逆転した立場である。
ここはもっとほら、俺が活躍するシーンじゃないのか? いくらなんでも倒すの早過ぎだろ……まあ、早いことやっつけられたことに関しては感謝するけどさ。でも、なんか消化不良だなあ。
……よし!
「二人とも、ありがとう」
「<お茶の子さいさいなのじゃ!> ……のじゃ!」
「思ったよりも全然楽チンでしたよ。触手で捕らえられた時はどうなることかと思いましたが、あっさり倒せましたね」
「スミとか吐いてこなかったのか? あと、触手で必殺技を繰り出してくるとか」
「そんなのなかったぞよ?」
「ええ、本当にすぐ倒せましたから」
「そ、そうか、うん。ありがとう。さて、せっかくだからさ、コイツ食べてみようと思うんだけど、どうかな?」
「え? 大丈夫なのじゃ?」
「ああ、多分だが魔物じゃなくて、普通のイカだと思うんだ。だったらやってみないわけにはイカないだろう?」
「おお、それはイカしてるのじゃ!」
「寒イカい話はやめて欲しいですね……」
そうしてみんなで協力してイカを解体。
俺はビーチ用具のようにバーベキューセットをクリエイトし、浜辺へセットする。日もいつの間にか暮れ始め、ちょうど夕飯時だな。
よし、海回の定番大詰めだ!
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