第194話
「<わっちは、ある大きな嘘をついた。それは---->」
ブラドラの身体がしゅるるると小さくなり、一人の人間の姿となる。
まず目に入ったのが、エンジュさんやヒエイ陛下の髪色よりも更に黒くずっと見ていると吸い込まれそうな気までしてくるそのセミショートの髪。
そして続いて、この五大陸ではとても珍しい、日に焼けたような褐色の肌。
最後に、BQBなプロポーションを包むこれまた真っ黒い薄手のドレス。海外のセレブが来ているような、至る所がこぼれ落ちそうで見るたびに心配になる胸元や鎖骨をこれでもかと見せつける例のアレだ。ヒエイ陛下のお召し物も相当ラフなものではあるが、そんなものがまだ生易しく感じるくらいの格好である。
ともすれば痴女に間違われても仕方がないだろう。服装もスタイルも、少なくとも王都オーネで歩いている人がいればほぼ確実に娼婦と決めつけられる位には刺激的だ。
「そこに横たわっているように、ヒエイもまた、保存魔法の暴走によって活動困難となってしまったことや。わっちは王城で話したときには、ヒエイが影響を受けたのは身体の老化だけやといった。でも、それは嘘やったってことやな」
「何故そのような虚偽の説明を……私たちに、何か隠さなければならない事情でも有ったのでしょうか? 深い理由があるとのことですが、よろしければ教えていただいても……?」
イアちゃんが本来の身体に戻った祖母に向けて訊ねる。
「エンジュ、本当に明かしてしまってええか? ここには、勇者もおるんやで。それに、現代の人間としては間違いなく最強の存在の、ヴァンくんも」
「構わないわ。隠し通していても、今がないもの。それに、ホノカちゃんにもいずれは伝えなければならないことだったし」
「そうか、わかったわ。後悔はなしやで」
何事かを確認した後、ブラドラは再び俺たちに向き直し、衝撃の事実を告げた。
「実は----ヒエイは、元は魔族やったんや」
「「「「えっ!?」」」」
魔族っ?! ヒエイさんが、人類の敵であるはずの存在だというのか。当然だが、その告白を聞いた瞬間皆の間に緊張が走る。
「まあそう殺気立ちなさんなやあんさんら。魔族とは言っても、元や元。話すとこれまた長くなってしまうんやけど、わっちとエンジュが保護して匿っていた、魔族の子供やってん」
「じゃ、じゃあ、エンジュさんと結婚した男性の存在も、その子供だというのも」
「嘘八百という訳やなぁ」
そんな馬鹿な、あの心温まるハートフルストーリーが捏造だったというのか……? ブラドラには創作の才能があるのではないか?
あの王城におけるブラドラの説明によれば、エンジュさんに一目惚れした男性がいて、その人と結婚して生まれたのがヒエイさんだったと。
最初は上手くいっていたものの、エンジュさんが権力をつけていくうちに男性に対する風当たりが強くなり、一時は離れ離れにまるハメにまで陥ったとも。でも、夫婦の力でなんとか離別の危機を乗り越え最後にはヒエイさんもエンジ呪国も共に一人前の大人になるまで育て上げたというストーリーだったはずだ。
ほかにも、他国による侵略を防いでいるうちに大怪我をした男性の敵討ちをしたエピソードとか、ヒエイ子育て奮闘記とか、エンジュさんが眠りについても生涯の伴侶は一人しか持たなかったとか色々な感動話も聞かされたのだが……なんということだろう、全てはスイーツノベルも真っ青の同人小説だったのだ!
「い、一体どこまでが創作話だったんですか? まさか、今まで話していたこと全てがとか」
「それは流石にないない。あくまでも男性の存在と、それにまつわる細々したエピソードが作り話やったってだけやからね。それ以外は当然ホンマの話やで」
「ううーん、とは言っても、色々と衝撃的な事実が多すぎて……ちょっと整理しきれません」
イアちゃんも混乱しているようだ。というかイアちゃんだけではなく、周りにいる皆がどう受け止めたらいいか困っている様子だ。
「取り敢えず、まずもう一度確認したいのじゃが。ヒエイが魔族だというのは本当なのか?」
「…………はい、間違いなく、正真正銘私の娘は長らくこの世界で人類の敵とされてきた魔族の一員でした。ですが今は元の種族など全く関係なく人間だと思っていますし、今更魔族に寝返るつもりなども毛頭ないことは私がかわりに保証いたします。今まで隠してしまっていたことを、謝罪させていただきます」
ヒエイさんは未だに眠ったままなようなので、"母親"であるエンジュさんが謝罪をする。
「いえ、そんな。頭をお上げください、おばあ様っ」
ホノカが慌てるそぶりを見せる。
「ホノカは、知っていたのか? 自分が魔族の娘だということを」
「いいえ、たった今初めて知ったところです……でも、驚きはありません。私は私、ヒエイ=コカゲの娘ホノカ=コカゲ以外の何者でもありませんから。例え魔族の血が混じっていようとも、エンジ呪国の一国民であるという意識も変わりませんよ」
本来ならこの場で一番驚きショックを受けているはずの娘は、俺の疑問に対して気丈にもそう言ってのける。強い子だ。
「むしろ、私の方が心配になってきました……だって、皆様は今代の勇者パーティですし、そうでなくとも身内を魔族や魔物の手によって亡くされてもいらっしゃるのですよね? 恨まれても仕方がないと思いますし、ジャステイズ様との婚約話だってなくなる可能性が出てきてしまいました……もしそうなれば、私だけではなくこのエンジ呪国自体が更なる窮地に陥ってしまいます」
「ジャステイズ、どうなの?」
「僕は…………僕は、それでもホノカのことを受け入れる
よ」
「えっ!!?」
ベルが訊ねると、帝国の皇子様は意を決した表情で、婚約者の目を真っ直ぐと見据えて言い放つ。
「確かに、僕たちの仕事は魔族や魔物を倒すことだ。未だに被害に遭い苦しんでいる人達だってこの五大陸にはたくさんいる。フォトス帝国としても、今後とも魔の勢力には決して屈しないという姿勢を貫いていく方針だ。でも、ホノカはホノカという一人の人間として今まで生きてきた。違うかい?」
「い、いいえ、違いませんっ。先ほども述べたとおりに、私はあくまでもホノカという存在です。人間でもあり、たった今から魔族でもありますが、ルーツはともかくとしてエンジ呪国を愛する一人の国民としての意志には何は変わりはありません」
「うん、じゃあ僕たちもその通りに扱えばいい、違うかな? もしホノカが今この場で旧魔王軍に寝返るのだといえば、僕たちは遠慮なく敵対させてもらうだろう。けれど、エンジュさんやヒエイさん--今はブラックドラゴンだけど--の話を聞いた上でそれでも変わらず人間として生きていくというならば、これを歓迎しない理由はどこにもない。みんなはどう?」
「私もジャステイズと同じだわ。折角ホノカと仲良くなれたのに、その血の半分が魔族だからと言って今すぐに迫害したりするつもりなんて全くこれっぽっちもないわよ? むしろ新しい側面を知ることができて嬉しいくらいだわ。私にもまだ話していない秘密の二つや三つあるのだし、それは誰にしも当てはまるものでしょ」
ジャステイズの問いかけに、エメディアがいの一番に反応する。
「私も、勇者がこんなことをいうのはちょっとおかしいのかもしれないけど、魔族のハーフだろうとホノカを斬り捨てる考えは微塵も持っていないし私たちの輪から追い出すつもりはない。もう既に、私たち勇者パーティの仲間じゃない? むしろ国王陛下に掛け合って新たなメンバーに加えてもらってもいいくらいだわよ?」
ベルも、キリッとカッコいい笑顔を浮かべる。
「私も、ホノカさんは悪い人では無いと思いますっ」
「我もじゃ。というよりも、お主からは魔族の邪悪な感じが全くせん。本当に魔族の血が混じっておるのか疑うくらいじゃぞ」
「ふうむ、ワシはそもそもよっぽどのことがなければ魔族だ人間だのに干渉せん主義じゃからな。ヴァン達に手を貸したのは、気紛れもあるし魔族によって可愛い孫が被害を受けたというのもあった。そこの娘が人間の世界で暮らしていたいというならば、我らエンシェントドラゴン族として何ら干渉するつまりはないぞ」
そしてドラゴンズも。
「俺も、ベルやみんなと同じ考えだ。ホノカ、これからもよろしく。だからそんな泣きそうな顔をしないでくれ」
最後に当然、俺もだ。
「み、皆さん、あり、がとう、ござい、ますっ…………!!!」
だがついにホノカが泣き出してしまった。それを見たジャステイズがサッと近づき抱きしめてやる。こういう時はほんとキザな野郎だな、まあ皇子ムーヴだからと言われたら仕方がないが。
「一件落着、でええんかな?」
「さあ?」
「いいやまてい。だが、ワシらにお主らが隠していた理由をきちんと聞いておらんぞ?」
「ああそうやった、そうやな。わかったわかった、きちんと説明したるから。その前にそろそろここを出よか? もう用事も終わったし、ヒエイの体とエンジュも連れて一旦転移してもらえんか」
「あ、はあ、わかりました」
そして俺たちは一度転移で内裏内の客間に戻ることになった。
★
----一方その頃、ファストリア王国王都オーネにて
「……そこの元帥殿、私の出番は一体いつになったら戻ってくると思う?」
「さあ、私にはわかりません。
「はあ、せっかくメイン級の扱いをして貰えると思ったら、まさかのサブキャラ扱いだったからなあ……」
「マリネさんもそのうちきちんと出番が来ますよ。一先ずはヴァン様を誘惑する手法でも練習しておけばどうですかな?」
「なっ!? ゆ、ユーワクだと!? 何を言っている貴様、無礼なっ」
「ですが、それくらいしないと神から出番を貰えませんよ? 気真面目な寝返りサブヒロインキャラなど需要は皆無です」
「そ、そんなことはないぞ! 確か一部の者達の間では、クッコロなる珍妙な祭りが流行っているとも聞くし……私みたいな女性が参加すると聞くから、それなりの需要はあるのではないか?」
「祭り……とは違うとは思いますが……それも少なくとも、現状の貴女の立場では起こりうるシチュエーションではないでしょう。素直に淫猥度を上げておいた方が良さそうですよ」
「淫猥とはなんだ淫猥とはっ。私はそのような女には決してならぬぞっ!」
「そうですか、十数話も進めばその宣言こそクッコロされていそうですがね」
…………この後めちゃくちゃ
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