第187話 ※ジャステイズ視点

 



 …………一方その頃、フォトス帝国首都ティオーツにて




「ホノカ、後宮での生活に少しは慣れてきたかい?」


「はい、お陰様で。お母さまも結局お戻りになられませんでしたし、ヴァンさんに思い切って頼んでみて良かったです」


「そうね、せっかくの機会だから、ジャステイズを尻にしく練習をしておくのは悪くない判断だわ」


「おいおい、なんてことを言うんだエメディアは? ホノカは僕の妻として、そして皇后として共に歩んでいくパートナーなんだよ? そしてもちろんエメディアもだ。物騒なことを言わないで欲しいな」


 ヴァンに僕たち三人をこの地まで転移で送ってもらい、約一週間ほど経った。ヒエイ女王陛下が迎えにいらっしゃるかと数日待った結果いらっしゃらなかった故の判断だ。その待っている間に、ヴァンが役職を押し付けられたり、ミュリーが神聖教会の広告塔として使われそうになった結果それを阻止したデンネルといい雰囲気になったりと面白い出来事も起きたのだが、ここでは割愛しておこう。




 それにしても、エメディアはこの七日間でホノカと随分と仲良くなったものだ。ファストリアではああは言っていたものの、国に帰った後どんな態度を取るか正直読めなかった。だがまさか、僕の取扱説明を自ら懇切丁寧に教えるほど積極的に仲良くなろうとするとは。お陰でこちらは既にイケメン皇子の面目丸潰れだ。


「エメディア、私はそんなことしませんよ。ですが、ヴァンさんの時の話を聞くと、活躍なされる男性って浮気性なのかなと心配になったりもします。ジャステイズ様が私たちを放っておいて他の女性に靡くような軟派な方だとは思いたくはありませんが」


「んん、ああ、そんな心配もしなくていいよ。全く、ヴァンも最初の頃は結構やんちゃしていたらしいからなあ。ここ最近は落ち着いたのか、よその女性に目移りしたって話も聞かないからもう大丈夫だと思うけど。僕は最初から二人のことだけを愛するつもりだから信用してくれていいよ」


 英雄色を好むとも言うが。ヴァンの場合はしょっちゅうベルに怒られ喧嘩していたのは勇者パーティみんなの知るところだ。おそらくエメディアからその他の話もいくつか聞いているのだろうが、彼の場合はベルという手綱をしっかりと握る女性がいてくれるからなんとかなったようなものだ。

 だからといって僕がエメディア達に同じようにコントロールされたいとは思わない。幻滅されないためにも一人の男として真剣に交際に向き合わないとね。


「でもジャステイズ、私と付き合う前はベルのことあんなに好き好き言ってたのに、まさか忘れたとは言わせないわよ?」


「うっ…………それを持ち出されると困るなあ。でもあれはヴァンのお陰で結果的に君と恋仲になれたから、あの件がなければもしかすると今でもあの娘のことが好きで、君たちとこうして話をしていられなかったかもしれない。ね?」


 確かに、僕はベル=エイティアのことを一人の女性として慕っていた時期があった。そのせいで、魔族退治の影響によってとはいえヴァンたちに迷惑をかけてしまった。

 でもどんなことがきっかけになるかわからないのが恋路というものだ。エメディアが今まで僕に対して募らせてくれていた想いに僕は答えなければと思い、付き合い始めた。最初の頃はまだ"幼馴染かつ同じパーティの仲間"としての見方が大分残っていたけれど、共に過ごすうちに、彼女の良いところが沢山解っていった。そしていつしか僕の方も、エメディアという"女性"に対して強い想いを抱くようになったのだ。


「でもヴァンもよく、ジャステイズに臆することなくベルのことを好きと言い張ったわよね。いろいろ右往左往することもあるけれど、あの娘のことを愛しているという気持ちは本物なんだなって、その時から思っているわ。でもやっぱりジャステイズには、彼みたいにフラフラ彷徨うのはやめて欲しいけどね」


「私としては今の話を聞いて、ジャステイズ様はもっと生真面目な方かと思っていましたが、普通に一人の男性だってことがわかってむしろ良かったです。ヴァンさんも含めて、勇者パーティと呼ばれていても私たち一般人と変わらないところもちゃんとあるんだって」


 ホノカは安心したように笑顔を咲かせる。人々の中には僕たちのことを神格化とまではいかないまでも、まるで天上人であるかのように扱う者も多い。魔王を倒したという功績がきっと目眩し・・・になっているのだと思うが、僕たちも貴方達と変わらない普通の人間なんですよと分かってもらえる方がありがたいのだ。

 誰かを持ち上げるというのは簡単だ。しかしそれによって思わぬ害が発生することだってある。勇者パーティという存在が一人歩きしていらぬ騒動のタネを巻き起こすのは避けなければならない。


 そう考えるとやはり、先日ヴァン達に話しかけてきたという

 ピラグラス侯爵は怪しく思える。ベルを勧誘するような口ぶりだったと聞くが、それをとっかかりにして僕たちにまで食指を伸ばそうと考えていてもおかしくはない。僕たちのネームバリューを求め為政者としてさらにのし上がろうと考えていると推理するのが筋がと思っている気がする。


「ん? ジャステイズ、どうかしたの?」


「何がだ?」


「いや、なんか考えているような顔だったから」


「そうなんですか? 私、気が付きませんでした。まだまだですね」


「ああ、ちょっとね。それよりもエメディア、よく分かったね?」


 話を聞いているつもりだったが、顔に少し出てきてしまったかな? この国の為政者になるためには色々と芸ができなければならないのは間違いない。まずはポーカーフェイスを上達させるところからだろうか。


「当然よ。昔からどれだけアンタのことを……っ。今のはナシ、ナシだから!」


 エメディアはフフンとドヤ顔で言い出すが、すぐに慌てて手を振り撤回しようとする。顔も赤くなっているぞ?


「うふふ、エメディアは小さい頃から本当にジャステイズ様のことを好きだったのですね。少し嫉妬しちゃいます」


「ホノカ?」


「だって、私もジャステイズ様のことを好きになろうと、結婚の話が決まった時に努力すると誓いましたから。好きでもない人と一生を過ごすなんて、考えたらとても疲れると思いませんか? ですから私も夫のいいところを沢山見つけて純粋に愛せるように頑張りたいと思っているんですよ。さっきのベルさんに対しての気持ちの話も、新たな一面を知ることができて嬉しかったです。また、面白いお話聞かせてくださいね?」


「ホノカ、本当にいい娘……! ジャステイズ、こんないい娘を正室にできるなんてほんと奇跡みたいなものよ!? アンタの方も、ちゃーんと愛してあげられるように努力してよね! 勿論私のことも忘れないで欲しいけど?」


「うん、わかってるよ。何度も言うけど、二人のことはそれぞれ一人の女性として真っ当に扱うと誓うから。だからあんまり恥ずかしい話を暴露しないで欲しいな、威厳もへったくれもありゃしないよこれじゃあ」


 恋人だろうが家族だろうが夫婦だろうが、死ぬまで隠しておきたい恥ずかしい話の一つや二つあるだろう。


「そう? 私としてはもう少しくらい威厳が削がれる方が良い関係を築けると思うけど。イイカッコしはいざという時に反動が大きいわよ。ねぇ?」


「まあ、そうかもしれませんね。その論理でいくと今のうちに、ジャステイズ様だけではなく私たちの恥ずかしい話も徹底的に教え合いませんか? 出会ってもうすぐ二週間ほどになりますけど、まだまだお互い隠していることがありますよね?」


 しかしホノカはどうもこの国に来てから一層やる気に満ち満ちているようで、さっきのエメディアの発言じゃあないが既に尻に敷かれ始めている気がしなくもない。ミュリーのような冷静なタイプの人に見えて意外と積極的な子だというのは既にわかりつつあることだが。


「ううっ、そ、それは」


「いい機会じゃないか、エメディア! そう、あれは彼女が五歳の頃の話だったかな」


「え、ちょ、ちょちょちょっと!?」


 まあせっかくなので僕からも仕返ししておいてやろうか。


「ある日の朝起きてみると、布団に地図を作成した彼女が涙目でオロオロしていて」


「ああああああああ」


「あらまあ」


 その後、暴露に次ぐ暴露で互いに戦闘不能になるまで楽しい(?)親睦会は続いたのであった。

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