第143話
巨大な透明の壁に、幾条もの光がぶつかる。
それはまるで、怪獣映画かSFのような、とても異世界ファンタジーとは似つかわしくない光景だ。
「くっ……思ったよりも威力が高いな!」
眼下の兵士たちが息を飲む様子が肌に伝わってくるが、それよりも眼前の敵の攻撃に意識を取られる。
俺は障壁に篭める魔力を増幅させ、それをなんとか阻む。
やがて一分もすると、光は収束し一旦攻撃が収まった。
「ふう、中々疲れるな」
障壁は大きければ大きいほど、精神的に消耗する。保持するためには一度貼れば自動的に保ってくれるわけではなく、端の方まで意識を割く感覚で維持し続けなければならないからだ。
ここら辺はまだまだ改善点だな。いつか自動で発生し、自動で調節する魔法を作らなければ。まだそれもイメージが足りないのか、上手く創造出来ていない。
「ヴァン、大丈夫か!」
「ああ、ジャステイズか。大丈夫だ!」
ルビちゃんに背負われたジャステイズが空に向かってやって来た。
「<中々めんどくさい相手じゃの。魔物のブレス攻撃みたいじゃ>」
「確かに、厄介さでは同じくらいかもしれないな」
魔物や魔族の中にも、ブレスやビームのような攻撃をしてくる奴がいる。それらもこの攻撃と同じく、攻撃範囲が広く持続時間も長い為これがなかなか厄介なのだ。
「おい、また来るぞ! 頼んだ!」
「ああっ」
話しているうちに、今度は各船が旋回し、こちらに側面に備え付けられた砲門をむけてくる。
「<おい、さっさとアレを全部蒸発させて仕舞えば良いのではないか? お主なら、それくらいの魔法朝飯前じゃろう>」
「それは確かにそうだが……しかしできない」
「<なぜじゃ?>」
とルビドラはその大きな頭をかしげる。
「前にも言ったじゃないか。司令官を捕らえる必要があるから、全滅させることはできないって。あの主力戦艦に間違いなく敵の大将と思われる人物がいるのを確認し、それを捉えてからじゃないと」
「<ああ、そうじゃったそうじゃった。どうも小細工というか、まどろっこしいことは苦手での>」
喋ってるうちに、どんどんと砲弾が撃ち込まれてくる。
何百隻分もの大量の砲門がこちらに向き攻撃してくるモノだから、大変だ。外れた
だが、住民はすでに避難済み。このシルクラインの街は使い捨て前提の作戦な為、問題はない。
ポーソリアル軍はそのまま、ジリジリと近づいてくる。
ついに、敵はシルクラインの海上都市部分にまで到達してしまった。
と、そこに。
「それじゃあそろそろ行ってくるよ」
「ああ、頼んだ」
「<それいけなのじゃ!>」
「<ちょっとお姉ちゃん、はしゃぎすぎないでね!>」
「待たせたのである!」
飛翔したルビドラとジャステイズ、それにやってきたサファドラにデンネルも含め障壁から飛び抜け敵に向かって全速力で向かっていく。
「グウオオオオオオォオオンンッ!」
「ギャオオオオオオオォ!」
頭上に現れたドラゴン二体に戸惑っているのか、ポーソリアル軍は反撃に乏しい。それでも幾らかの魔法使いや船員が魔法や銃を放っているが、二匹にとってはどこ吹く風だろう。
「グオオッ!」
「ギャオオッ!」
姉妹は余裕綽綽な様子で空の王様となっている。そして、ついに攻撃を始めた!
火の球や火炎放射が鋼鉄艦を襲う。
生半可な障壁では到底防ぎ切れないエンシェントドラゴン族の成竜の攻撃は、鉄で出来た船をいとも簡単に溶かしてしまう。
焼かれた船は沈没するか、形を大きく変えるか。または、爆発四散する物も。
もちろん、旗艦の周辺は避けて攻撃してもらっている。
縦横無尽に飛び回る二匹の竜の前には、なす術もない。
そして、予想通り、業を煮やした敵軍は船を海上都市部に横付けし、上陸作戦を敢行し始めた。
そろそろだな。
「「「「よおおおおし! モノども、かかれええええええ!!」」」」
「「「「「「「ウラアアアアアアアアアアアア!!!!!!」」」」」」」
敵の上陸を確認した兵士達は、指揮官の合図で陸上部から一斉に海上部に向かって前進し始める。
また、崖に潜んでいた魔法使いたちは遠隔射撃を。
他にも、残していた船に乗った者たちが今度は右側から敵に突っ込んで乗り移り作戦を。
それぞれが、予め建てられた戦術通りに行動し始める。
俺は当然、陸にいる主力となる軍団の最前列。障壁を張って、まだ砲撃してくるポーソリアル軍から皆を守る役割だ。
魔力だけはたっぷりある為、盾役としての役目は十二分に果たせるだろう。さて、そろそろいいかな?
というわけで、障壁をその場に展開したまま放置する。先程述べたことの延長戦で、作り置きタイプは繊細な操作ができない為破れたところはそのままになってしまうが、これから俺も違う役目がある為仕方がない。
というわけで、障壁を残した俺は空の旅に。というわけではないが、ルビドラ達に倣って敵上空へ飛行する。
「うはあ、しっちゃかめっちゃかだなあ」
炎に煙、時々水柱。鋼鉄の船で覆われていた海面は、スクラップ置き場へと様変わりしてしまっていた。
当然、敵兵の死体があちこちに浮かんだり、残骸に挟まったり。中にはグロテスクに過ぎる状態に変化してしまっている肉体もある。
だが仕方ない、これが戦争なのだ。俺たちの方だって、沢山の人々が犠牲になった。お互い様という者だろう。むしろ、いきなり攻めてきてなんの脈絡もなく無辜の民を攻撃した奴らの方が何倍も酷い。こいつらはあくまで自らこうなる道を選んだ軍人なのだから。
「さてさて、旗艦は何処ですかな?」
俺がここに来た目的は勿論、敵の司令官を捕らえる役割だ。確実に捕縛するためには、身軽に動けてなおかつ力のある者でないと厳しい。その点、俺は適任だというわけだ。レオナルド陛下も太鼓判を押してくださったしな。
イメージの積み重ね、大切。きちんと仕事をしている者には、それ相応の役職が与えられるのだ。
「うおっと!」
しかし、油断してはいけない。
敵の輸送艦から再びビームが放たれたのだ。ルビちゃん達には優先的に破壊するよう言っていたが、漏れていたようだ。
「仕方ない、ごめんあそばせ、っとな」
かつて作り出した、青い炎でできた火の球をぶつける。
すると、簡単に障壁を突き破り、そのまま艦全体に誘爆して一発で沈んでしまった。やはり武装の分装甲が手薄になっているのだろう。これだけ大きな兵器なのだから、その分のエネルギーを作り出すかまたは貯蔵するスペースが必要だしな。魔法使いを常駐させておくにしても、それ相応の場所が必要だ。
だが見たところ、輸送艦の形をしているくせに砲塔を出していない艦がある。
む。もしかして、俺たちは偽情報を掴まされていたのか?
だとすれば、まだ精査し切れていない情報が残っているかもしれないな。至急、伝えておかなければ。
ということで、残念だが一度中央作戦会議室に向かう。転移魔法で行けるので秒で到着だ。
「ん、ヴァンか、どうした?」
「はい、陛下。それに皆様も、お耳に挟みたいことが」
未だ議論を続けている周りにいる他の首長達にも揃って今までの戦況を報告する。
「なるほど、偽情報か」
「敵も単なる馬鹿というわけではないということですな」
「もしやわざと間諜を潜り込ませていたやも知れんな」
「撹乱ですか、中々厄介な」
「あいわかった、報告ご苦労。情報の精査はこちらでやっておくとしよう。だが、戦端はすでに開かれている。細々とした情報を今更全て見直すのは人員の無駄でもあるし意義は薄い。必要最低限に留めておくことにしよう」
ということで、再び海上へ転移。
行ったり来たり、飛び回ったり、忙しいな。だが仕方がない。これも遊軍としての立場故だ。
「<おい、ヴァン! 一通り暴れ回ったのじゃ!>」
「<ですです! 敵もだいぶ消耗したようですよ! 今がチャンスなのでは!>」
「<おう、わかった!>」
見れば、船団の六割ほどが傷を受けており、そのうち二割が戦闘不能となってしまっている。
たった二匹のドラゴンではあるが、随分な暴れようだ。これ細かな制約がなければこの二人だけでポーソリアル軍滅ぼせるんじゃないか?
だが、戦というものには利権がつきものだ。兵を出さなければ格好がつかないとか、物資を動かして経済を少しでも立て直さなければとか、戦争に関して領地によって様々に求める恩恵がある。これら全てを無視することは到底不可能だ。
沢山の人間が絡む以上、全くフラットに利害関係を精算するのは不可能。窮すれば鈍する。逆に窮すれば通ずる事もある。今後も、戦が起こるごとに人や物を動かさざるを得ないだろうな。
全く少数でコトを成し遂げてしまうのには、問題があるのだ。それこそ、対魔族戦争だってそうだったわけだし(現に北部も割を食っているものもいれば儲けているものもいる)。
ま、それはともかく、行きますか!
そして俺は一人、不気味なまでにじっと佇んでいる旗艦の甲板に降り立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます