第142話
戦の前に少しでもとベルに会いにエイティアまで転移で出掛けたものの、まだ彼女は到着していないということだったので、残念ながら舞い戻ることとなってしまった。
どうも、まだ空の旅を続けているようだった。流石に、今から転移をしてそこからイアちゃん達に探してもらうっていうのは時間がかかりすぎる。そもそも転移の魔法は一度行ったことがある場所にしか食べないという制限がある。
大まかな指定はできるものの、空のこの空域にいると判明したところで既に遠方に通り過ぎてしまっているだろう。
なんとか改良出来るかなと頑張ってはみたものの、そこらへんはベルが使っていた時と全く同じ制限がかかっているようで。
こればっかりは創造の力があろうとも変えられない部分のようだ。恐らくは世界の理に働きかける限度みたいなのがあるのだろう。だから多分、今すぐにこの世界を爆発四散させるみたいな魔法を作ろうとしても出来ないはずだ。
それにもう一つ、パラくんは念話をまだ上手く使いこなせてないという問題もある。近くにいる人間やドラゴンに話しかけることはできるものの、電話のように遠くから話をするという芸当は、いきなりできるようなものではなく慣れが必要なようなのだ。
その点、俺やベルはよっぽど親和性が高かったのだろう、知ったばかりのはずなのにルビちゃん達と気軽に話ができるのは生物としても相当珍しい存在のようだ。
また、仮にパラくんが念話の達人だったとしても、念話は遠くなればなるほど電波が散るように念波が拡散し送受信が難しくなる。これはそもそもの仕組みの問題なので現状改善が見られていないらしい。ドラゴン達も、情報を共有するときには昔の日本で旗を振っていたように、ドラゴン同士の脳内を経由して伝言ゲームをするみたいだし。
こちらも創造魔法の限界に引っ掛かったみたいで、どうにも制御できなかった。あくまでまだ仮説段階ではあるが、ベルはこの世界に元々存在する技術の範囲で、そして俺には世界の理に逆らわない範囲で、という制限が掛かっているように思える。
ベルの能力<超えられない壁<俺の能力<超えられない壁
という感じか。
それら諸々を鑑み、あまり長居しても仕方ない、ということで再び南方に。
サーティライン共和国に集結した軍は最上位の司令官にレオナルド陛下を。そしてそれとは別にミュリーを『聖女代理』として防衛戦争の象徴と担ぎ上げている。
連合軍はあくまでもその通り各国軍の寄せ集めなため、細かい指揮判断はその国々に任せられることとなる。あくまでも陛下は大まかな戦略を取りまとめ戦争の行く末をコントロールする立場だ。
勿論その目標は妥当ポーソリアル。彼らの勢力を一人残らずこの地から追い出し、同時に魔族の残党もやっつける。そうして五大陸は復興に向けて歩みを進める。
そうならなければ、撤退はさせたけど焼け野原だけ残りましたなんて事態もありえる。人々の生活空間を守りつつ、各国に進駐している敵勢力を排除していくというなかなか難しい戦いではあるが、相手が動き出してくれたのは幸いだった。
敵の動きが前線に引き付けられる以上、各地にいる散逸した勢力はすぐにバックアップを受けることが出来なくなる。その間に枝分かれしたこちらの軍や、各地方に潜んでいる残党が一気に攻勢を仕掛ける作戦だ。
「ヴァン、ベルのことやっぱり心配?」
「ん? まあ、な。パライバドラゴンが付いているとはいえ、魔族はそう簡単に殲滅させられる相手じゃないだろうし」
「そうねえ。でも多少は物流も元に戻っているようだし、北の方にも物資が行き届き始めたからマシな戦いができるとは思うけど」
エメディアの言うとおり、南の騒動によって世界の物流は偏ることになってしまった。膠着状態であると言っても、
しかし今回決戦に出るにあたって、まとめて物資を集約することにしたため、ある分だけ石炭を放り続ける機関車みたいな存在だった南の軍団は消費する見積もり量が減った。
商人達も言われたらほいっと渡すのではなく、予め需要を見込んで物資を用意するため、想定された期間プラスアルファ以上の上積みされた予測は全て北のために回すようにとお達しが出回った。
当然、彼らの現保有物質は沢山ある。有事の中の平時のような状態であった南の戦線ではそれはもう沢山消費されていたため、貯めておいた分をつぎ込むだけでも北の対魔族残党戦線は大助かりだ。
南のせいで貧窮していたエイティア他街の人々もほっと胸を撫で下ろしているに違いない。
兵を動かすには沢山の金と物が必要。古今東西の常識だ。
「だが、いつまでもポーソリアルにかまけているわけにはいかない。エメディアの言う通り物資が補給されているとしても、それは必ずしも人間側が優位に立つ材料にはなり得ないのが悲しいかな、事実だ。北ではだんだんと魔族の勢力が再興して来ているらしいし。本当は先にあっちをやった方が良かったのかもしれないが、でも共和国も俺たちの見知らぬ技術を保有している、魔族と同等の厄介な相手だし……はあもう、どうしてこう世界は穏やかになってくれないかなぁ」
「仕方ないわよ。生き物である以上、自分の縄張りを広げよう、守ろうと争うのは当たり前の行為だもの。ポーソリアルにも魔族にも、大義名分があるんでしょ。ま、それをみすみすと言いっぱなしにさせるわけないけどね」
「おい、エメディア。あんまり変なこと言うなよ、どこで誰が聞き耳を立てているかわからないんだぞ?」
と、ジャステイズが会話に横入りしてくる。
「大丈夫よ、変なこと言ってないもの」
「そういう問題じゃなくてだな。少しでもそれっぽいことがあれば、幾らでも拡大解釈して自分のために喧伝する奴らは沢山いるんだぞ。気をつけてくれよ」
「はーい」
そんな会話をしながら、俺たちは海の向こうを見据える。そして。
「ぬっ、来たぞー! 敵だー!」
観測手から報告が入ったのだろう、司令格の騎士が大声を上げ、兵士たちに告げる。
それを聞いた者たちはガチャガチャと鎧を鳴らし、己を、仲間を奮い立たせる。
「いよいよだわ」
「ああ。敵にどんな思惑があろうとも、この一戦でケリをつける。それくらいの気持ちでやらないと」
「気持ちだけじゃ困るけどね」
「うむ。我らの本当の力、奴らに見せつけてやるのである!」
そして、ジャステイズとドルーヨは俺の転移で軍団前方に飛ばし、エメディアは後ろの方に。俺は、空に飛んで敵味方の様子を俯瞰する。
「やはりすごい数だな」
報告の通り、敵はすぐそこにまで迫っていた。
十万以上の兵が、一斉に船に乗っているのだ。大小さまざまな形の船が数百隻、ガジド=サーティライン海域に所狭しと並んでいる。
そしてその中央には一際大きな船が。あれが敵の旗艦だな。
戦争の小目標としては、あれを沈め出来れば大将を捕らえること。聞きたいことは山ほどあるのだ。情報戦の観点からも殺すのはもったいない。
「さて、行きますか」
と、呟く。
同時に、地上から威勢の良い掛け声が聞こえ、後方から魔法使いが魔法を放つのが見える。
敵も、それに気づいたのか、あの輸送艦に偽装した巨砲を展開。何砲門もがこちらに向けられ、光を集束させる。
「お前達! 気を付けろ! 斜線を開けるんだ!」
敵は一点突破を狙っているのか、軍団の中央を薙ぎ払うような方向に向けている。
念話や魔法を駆使し、地上に命令を出す。きちんと理解しているようで、上官の指示のもとまるでモーセのようにパックリと割れ地上の肌が見え。
同時に俺は一番前まで躍り出て、シルクラインの浮島全体を横に覆うように巨大な障壁を張り巡らせる。
その数秒後、幾本もの光の柱が、地上に向けて放たれた。
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