第137話

 


 さて、ジャステイズの奴は会議に参加しに行ったし、俺たちはもうしばらくここで待機だな。


 因みにこの会場は、中央に座すお偉い皆様方を中心に幾つかのブロックに分かれており、俺たちはそのうちの一つ、勇者パーティ様ご一行の席にいる。

 ルビちゃんイアちゃんも当然同席しており、此度の大規模防衛作戦に於いては遊軍として役割が決まっているため現状暇を持て余しているのだ。


 しかし、一応は会議に出席しておかないとメンツというものもあるので、気軽に外の空気吸いに行くわ〜などとは言えない。食事は出ているし、現にテーブルにはこの国の特産品だろう食材を使った豪華な料理が並べられている。

 上に行けば行くほど待遇が良くなるのはどこの軍でも同じようだ。


「これ、美味しいのじゃ!」


「お姉ちゃんっ、あんまりバクバク食べたらみっともないよっ」


「んむ? 良いではないか、せっかく出されているのじゃからその分の歓待は遠慮せずに受けるのがマナーじゃろう?」


「そういうことを言ってるんじゃないんだけど……」


 姉妹は相変わらずのペースなようだ。ま、いざという時に役に立って貰えるならば、こちらとしては言うことはない。あくまでも人間同士の戦争に肩入れしてもらっているのだから。


「それにしても、ルビちゃん達まで協力してくれるなんてね。エンシェントドラゴン様には感謝しないと。というかヴァン、なんかちょっと雰囲気変わったくない?」


 ジャステイズよりも数日先に帝国からここに来ていたエメディアが呟く。


「そうか?」


「確かに、以前よりも逞しく感じられますね」


「うむ、我も同じく見えるのである!」


 そして、ミュリーやデンネルも。二人は王都の大神殿から共にやってきたという。神聖教会もポーソリアルの侵攻を見過ごすわけにはいかず、積極的な参戦を表明したところだ。


 ミュリーはその旗頭旗印として『聖女代理』なる臨時の役職を賜ったらしい。まあ、神の神託がないため本当の聖女と扱われることはないが、本人には悪いがベルと似たような体のいい神輿というわけだな。


「ありがとう。やっぱりエンシェントドラゴン様に稽古をつけてもらった分の効果はあるようだな、良かったよ」


「確か、一週間丸々であったか?」


「ああ、殆ど休む間も無くぶっ通しだったから、あの人の指導とは別に体調面でも何度か死ぬかと思ったよ。疲れているところに不意打ちしたり、寝ていたら急に感を薙ぎ払ってくるし……」


「それは中々のスパルタであったな! 我も、機会があれば受けてみたいのである」


「私は遠慮しておきます……」


「僕がいたら、きっと見せ物として行商人に貸し露店を開かせますね、あはは」


「お、ドルーヨ。よう」


「どうも」


「お久しぶりです、ドルーヨ様」


「うむ、首尾は上々であるか?」


「やっほー」


「皆さん、お待たせいたしました。ええ、デンネル。無事折衝は終わりました。後はどれだけ滞りなく実際に物流を動かせるかですね。腕がなりますよ」


「頼んだぞ、ドルーヨ。兵站は君にかかっていると言っても全然過言じゃないし」


「わかっています。兵の皆さんが安心して前を向けるようきっちりと仕事はさせていただきますよ」


 ドルーヨは、この国についてはいたが、つい先ほどまで各国の官僚等と所謂兵站について交渉を詰めていたのだ。

 イエン商会の会長でもある彼は各地にツテがある。当然、ここ中央大陸や南大陸各地も含めて。なので、商会網を通じて優先的に品を集荷するよう働きかけていたのだ。その分各国に行き渡る分の商品バランスも崩れるため、そこら辺をどうするかの交渉もしていた訳だな。


 今回の戦は、ただ単に南大陸が攻められたという話ではない。敵の俺たちの見知らぬ武力は既に五大陸中に広まっているし、それに対して恐怖を抱いている人も大勢いる。中でもここ中央大陸南部では、避難する人が後を経たず無用な混乱が頻発してしまっている。

 この騒動を収めるためには、連合軍がポーソリアルをさっさととっちめて追い返さなければならない。


 集結した単純兵力は総勢六百万もの大勢力となった。これに加えて後方支援や一般協力者も含めると八百万にも上る。

 これだけいれば、いかに技術力に開きがある敵といえどもただでは済まないだろう。


「しかし、ポーソリアルの軍勢は多く見積もっても二十万程。八百万も集まるのは少々大袈裟なのでは?」


「それは、いろいろと政治的な思惑が……」


「ああ、そっか。みてくれって大事だもんね」


「まあな。どれだけ危機的な状況であろうとも利権や国家間の勢力争いは常に行われているし」


 数を出さねば何故出さぬと非難され、そこを無理やりこじ開けられ周辺国から責め立てられるし。かといって多くの兵力を出せば、その分当然負担は大きくなる。

 だが、相手は未知の部分が多い国。もし勝利を修めることが出来れば、リターンは確実に大きなものとなる。なので、少しでも甘い汁を吸おうとおこぼれ小国であっても躍起になって兵力を差し向けているのだ。


 故に、六百万から八百万を数える人員となっている。名目上のリーダーはレオナルド陛下、つまりはファストリア王国であるが。戦況によっての軍団内での影響力のバランスを変えることを狙っている国も少なくはないだろう。


 ポーソリアルが攻めてきたことによって、人々の余計な欲を掻き立ててしまっているのもまた事実。

 平和な世の中になったからこそ、"暇を持て余した"状態をよく思わない者は表立って見えないだけでそこらへんにいくらでもいるのだ。


「だが、協調性が崩れて敵に足元を掬われることは避けなければならないのである」


「ええ、その通りでしょう。なので僕も余計なことをすればどうなるかわかっているな、とそれとなく釘を刺しておきましたよ」


「おお怖い。物が干上がったら、指導者の威厳なんて一瞬で吹き飛ぶものね」


「ええ。クーデターが起ころうとも、暴動が起ころうとも、またそれを種に儲けさせてもらうだけですから。恩知らずは搾り取るに限りますよ」


 ドルーヨは、何があっても敵に回したくないなほんと……


「あはは、そうならないように気を付けてほしいものね」


「教会も各国とはまた独立した勢力ですし、上の方も何やら企んでいる様子があります。余計なことはしないでいただきたいものですが……」


 と、話の流れからかミュリーが言い出す。彼女がこのような苦言を呈するのは珍しいな。それほどまでに何か良くない動きを掴んでいるのか?


「僕はあくまで一商会の会長ですし。流石に神聖教会にまでは逆らえませんね。あそこの文化は独特過ぎますから、各国も下手に物言いできないわけですし」


「それが、余計と不安にさせるのです。こんな聖女代理などという役職を勝手に作ってしまって良かったのでしょう?」


「まあ、ミュリーの見た目的には聖女って感じするし、誰も文句言わないでしょ」


「いや、そういう話かエメディア?」


「わ、我はミュリー殿が人々の前に立つ意義は十分にあると思うのである。きっと、そのカリスマ性で兵士たちもやる気を出すはずである」


 デンネルはアピールしてるのかしてないのか曖昧な事を言い出す。まだ告白もしてないのにそんな中途半端にアプローチしていいのか? もっと着実に進めていく方がいいと思うんだけど。


「そうですかね……いえ、勿論別に嫌というわけではありませんよ。ただ、今回の共同戦線、やはり一筋縄ではいかないと思います。人々が無為なことできすつくのは私の望むところではありませんので」


「それはみんな同じだろう、なあ?」


「ええ。腹黒達に余計なことをさせないうちにさっさと撃退してしまうのが吉ね」


「商会としての牽制がどれほど効果があるかはわかりませんが、大団円を望むのは当たり前のことですしね」


「我はひたすら殴る。それだけである」


「おう、みんな改めてよろしくな!」




 この戦、必ず勝つ!


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