第135話 ※ジャステイズ視点
同日、中央大陸南端サーティライン王国南部、海上都市『シルクライン』にて――――
これは一体、どういうことだ……!
敵の動きが読めない。僕たちはこの片ずっと振り回されてばかりだな全く。
「殿下! 第三師団の用意整いました!」
「こちら、第四師団も同じくです!」
「うん、わかった。師団長各位に通達する。至急、援軍に向かうのだ!」
「「「「「はっ!」」」」」
この戦争において最上位の部下である帝国軍師団長の面々は敬礼を持って出陣に向かう。僕もただ指示を出すだけではなく、各国との連携を強めるため参謀以下指導部の面々を伴って、緊急招集がなされている作戦立案中央会議へと赴く。
ここサーティライン最大の沿岸都市である『海上都市シルクライン』は、南部大陸および東西大陸への海洋交通の要所だ。少し北に行った場所にある陸路の要所であるウールライン、そして首都サーティラインと併せてこの国の三大都市に数えられている。
文字通り海の上に作られていることが特徴の街だ。全域が海上にあるわけではなく、陸二割海八割といった具合で構成されている。
主要な施設は海の上にあり、必要とあらば陸路海路をいつでも遮断できるようになっている。
そしてそのシルクライン、というよりサーティライン王国に対してだが、つい先程ポーソリアル共和国軍から宣戦布告が届いたのだ。
今度こそ、この五大陸(敵は中央地方又は地域と呼んでいたが)を全面占拠するまで侵攻を止めないとのことだ。つまりはどれだけの人が死のうが覚悟しろよという最後通告なのであろう。
今までずっと様子見をしていた理由は知らないが、敵の事情がどうであれ僕たちの大切な人を守るための戦に変わりはない。こちらを未開の族と舐めきった相手を殲滅し、二度と手出しをしないよう思い知らされてやらなければならない。
その為、僕らフォトス帝国軍は何と父上――フォトス帝国皇帝の勅命という形で五個師団を与えられた。
実に五十万人の実働戦力に加え、兵站や医療団、文官その他を含めた三十万人の帝国臣民八十万人という大勢力となっている。
これは、我が国の人口四百万人の実に五分の一に当たる。
これらが可能なのも、戦時には国民皆兵という名目で臣民はその身分に関わりなく身を国のために捧げる義務があるからだ。
勿論ただ徴兵するだけではモチベーションを保つのは難しい。ただ今回は国中に相手が強大な敵であるが故に、明日にも大切な人、大切な土地が敵に奪われてしまうかもという危機感がある。それも、あのロンドロンドに於ける『大虐殺』とも呼ばれた未知の兵器の使用や焦土作戦での多大な犠牲によるものが大きい。
通常、戦争というものは前線に近づけば近づくほどその危機感を肌に感じる人々が多くなるし、逆に遠ければ遠いほど対岸の火事、自らには関係のないことだという油断が生まれるものだ。
しかし今回はポーソリアルの侵攻スピードが異常だった上、戦場記者による現場の写真の広報、またそこから逃げ出した人々の生の声がこの国にまで届いたことが大きい。つまりは油断する暇がなく、奴らがいかに難敵であるかを国民が早めに知ることが出来たわけだ。
また、父上は国財を惜しむことなく、大軍にも関わらず戦果を上げたものにはしっかりを褒賞を出すことを同時に宣言なされている。寧ろ我先にと手を挙げ反撃軍に参加した者が溢れて選抜に困ったくらいだ。
国民も、魔族による痛手を受けたものは多い。勿論帝国という国家としてもそれは同じだが、臣民にとっては神に次ぐ絶対的な存在となっている帝国皇帝の言葉を信じないものはいない。生活や戦果の保証が為されたことにより、安心して遠出ができるという理由もあった。
そして僕は、陛下から今回の連合軍内フォトス帝国軍最高司令官として勅命を賜りこうしてこの国へとやってきた。
この地にやってきたときは、まだ敵は休戦状態であった。しかし、忙しそうに定期的に各国首脳間の使いっ走りをやらされていたヴァンが姿を負けなくなって一週間とちょっとが経った今日、敵はいきなり動き出したのだ。
街の離れの待機所となっている草原で師団長と別れた後、馬車に乗せられ横に携える参謀らと共に状況分析等の話をしていると、いつの間にかこの国で最重要の施設である王城につく。
ここは海上都市の丁度真ん中にあり、緊急時には周りを切り離して独立した浮島となることもできる変わった土地だ。
城の中に入り、案内を受ける。僕の身分は勇者パーティの一員として、そして帝国の皇子としてこの国においても知れ渡っているため(ヴァンは『後から参入した俺はファストリア以外ではまだまだ知名度がないみたいだ……トホホ』と嘆いていたが』)ほとんど顔パス状態である。
厳重な警備で固められた各国の要人が集っている今この城一番の要所、『対ポーソリアル共和国共同戦線作戦立案中央会議サーティライン王国支部』へ着く。因みに本部はファストリア王国にある。
「どうぞ、お入りください」
「ありがとう」
そして案内してくれた兵に促され、扉を開く。
謁見の間を改装してそのまま使っているため、各国の城によくありがちは無駄に大きな扉が左右に開かれる。
その中では、既に侃侃諤諤の議論が繰り広げられているのであろう、足を踏み入れる前から様々な声が聞こえてくる。
僕はこちらに気が付かないほど議論が白熱しているその円卓に向かってそのまま遠慮なく歩いていく。
「あ、ジャステイズじゃない」
と、急に声をかけられる。
「おお、ミュリー! 君も来ていたんだね?」
「私もいますよ!」
「我もである!」
「僕も、なんとか間に合いましたよ、あはは」
見れば、その円卓の周りに設置されている複数の机の一角に、勇者パーティご一行様用だろうスペースが用意されていた。
そして、その机の一番奥には。
「久しぶりだな、ジャステイズ」
「そうなのじゃ!」
「こんにちは」
「ヴァン、それにルビードラゴン。ええと、そちらはおそらくサファイアドラゴンさんかな?」
僕は挨拶だけでもと一旦そちらに向かう。
「はい! どうも、フォトス帝国の第一皇子殿下。ルビードラゴンの妹であるサファイアドラゴンと申します。以後よろしくお願い致します!」
「こちらこそ、まさかドラゴン族の方とまた一人お知り合いになれるなんて驚きです」
サファイアさんはルビードラゴン……ルビちゃんと違ってとても丁寧な印象を受ける娘だ。
「でしょ? ほんと、人生ってわかんないものよね」
「ええ、正しく。こうして再び戦時指揮の中枢に関わることになろうとは」
「私も、出来れば人々が傷つくことのないように祈ってはおります。ですがそれは無理な話というものですよね」
皆、健在のようだ。しかし。
「ベルはまだ復帰していないんだな」
「……はい」
「で、あるな」
肝心の我らがリーダー、ベル=エイティアの姿はどこにも見当たらない。彼女は数ヶ月前の第一次防衛作戦にて大きな傷を負い、実家で療養中のはずだ。
「ジャステイズ、彼女は今、北方にいるんだ」
「それは前から知っているが?」
「そうじゃない、実は……」
ヴァンから話を聞く。
どうやらベルは、また違うドラゴンと仲良くなったらしく、その竜を伴って北方の対魔王軍残党戦に赴いているのだとか。
「そうなのか……なるほど、彼女も彼女なりに、頑張っているようで安心したよ」
願わくば、また双方共に無事な姿で再開したいものだ。あちらの活躍を神にお祈りしておこう。
「お話中のところ申し訳ありませんジャステイズ殿下、皆様がお待ちかねです。どうぞこちらに」
そして少し雑談をしていると、官僚の一人が呼びにくる。見ると、円卓での各国首脳による作戦会議は少し落ち着き僕の参加を待ち望んでいるようだった。
この地における帝国の実質的全権代表である僕が参加しないわけにはいかない。そもそもそのためにここに来たのだから。
「はい、ありがとうございます。じゃあみんな、また。って言ってもすぐ近くにいるんだけどね」
「うむ、行ってくるのである!」
そして円卓の空いた一席に腰かけると、先程のみんなとは打って変わって非常に重苦しい空気が全身にのしかかってくるのを感じた。
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