第119話

「まずはあの小型戦闘艦から潰すぞ!」


「わかった!」


 空から一直線に急降下しながら、共和国の軍により接収された港の付近に停泊する小型戦闘艦に向けて攻撃を開始する。


 なお小型と言っても漁船みたいな物ではない。いわゆる現代的なフリゲート艦くらいの大きさはあり、砲門も左右で十以上は装備している船だ。この船一隻だけでも、そこらへんの港町なら立ち所に炎の展示場へと様変わりしてしまうだろう。




 俺たちが第一フェーズと定めているこの反撃作戦は、まず主目的は各街の港から敵をこちらに引き付けること。その間に、それぞれの街に南大陸連合軍が攻め入る手筈となっている。

 この『レミラレミソ国』最大の港街『ミレ』には三千人規模のポーソリアル軍が駐留しており、反撃の狼煙をあげる場所として選ばれた。というのもこの街が一番最初に侵攻を受けたところだからだ。上から押し返すだけではなく、下からの突き上げも成して敵を板挟みにしていく寸法だ。


 主力戦艦ほか敵の中心となる部隊は既にロンドロンドとは別のところにいる。頭を叩けばいいじゃないかと思うかもしれないが、いわゆる焦土作戦を実行されて逃げ得にさせないためにも、敵にとってそれほど重要ではないと見られる拠点を攻撃することになったのだ。保守部隊が残るのみのミレの街は、前述と後述の両方を満たす格好の場所だったというわけだ。


 ミレはレミラレミソの第二の都市ではあるが、そのレミラレミソ国自体、首長国連邦の中では比較的小さな国。敵にとっては侵攻の狼煙を上げた場所であり手放すのは惜しいが、だからといって軍事的にここを拠点にというほどの街ではないのだ。




 その街に駐留している敵の主戦力となるのは小型戦闘艦。全身が鉄でできた船だ。中途半端に科学技術を取り入れて他のところは魔法で補うというちぐはぐな建造物であるそれは、もちろん水よりもずっと比重が重いため動力源を止めて仕舞えば浮くことが出来ずにすぐさま海の藻屑となる。なのでまずは主機があると思われる船尾の方を狙って攻撃する。


 小型艦は数えたところ七隻ある。一つの船に三百人ほど乗っており、残りの九百人は一つだけある中型の船(護衛艦)に六百人、輸送艦に三百人ほど乗っていることが偵察部隊の必死の情報収集で分かっている。


 急降下爆撃の要領で、手始めに放った大きな炎の球がまず最初の一隻に激突する。

 火柱が挙がり、小型戦闘艦の尻に文字通り火がつく。だが、予想外に一発だけでは沈まないようだ。威力よりも手数を優先したためギリギリ耐えられてしまった。もしかすると耐魔法障壁を張っているのかもしれない。


 敵ももちろんすぐさまこちらの存在に気が付き、攻撃をしてくる。が、高速飛翔する俺たちに当たることはない。


 ん? よく見ると、銃のようなものを使っているようだ。魔法を飛ばしているのだと思ったが、そうではない。さしづめ魔弾とでも呼ぼうか、大砲と同じく魔力で作られた球がこちらに飛んでくるのだ。

 その速度は一般的な銃と変わらない。一般人なら間違いなく撃ち抜かれるだろう。ポーソリアルはどこまで技術を発達させているんだ?


「ベル、気をつけろ! 銃みたいなのを使ってるぞ!」


「ええ、それも一人一丁単位で配備されているみたいね。普通の魔法使いと同等に考えていたらやられてしまうわ」


「防御魔法を張ろう!」


「頼んだわ!」


 一発一発の威力はそれほどないとはいえ、多数被弾すればそれもわからなくなる。俺は魔力を探知されるかもしれないと必要最低限の魔法だけにしていたため使っていなかった障壁を二人に向けて掛けた。


 そしてもう一発、同じ艦に被弾させる。一発はなんとか耐え凌いだとはいえ流石に二発も浴びれば限界のようで、次々と船は爆発を起こし沈没していく。

 最初は自沈させるつもりであったが、これくらいの防御力ならそうで無くともやっつけられるな。一発だけだと帯に短し襷に流し。魔力が無駄になるが、二発ずつ撃ったほうがよさそうだ。


「ベル、小型艦はそれほど装甲が厚くないみたいだ。だが無理に自力で破壊する必要もない。最初の予定通りこのまま局所的な集中攻撃でエンジンを壊してしまおう、その方が効率がいい」


「了解」


 ベルも同じく魔法で敵を攻撃する。




 ……だが、様子がおかしい。今の俺ほどではないにしても、勇者としての強さは人類指折りのはずだ。

 なのに、敵の船には傷ひとつつかない。どうしてだ? この前俺のステータスを確認した時に同時に確認した時は、残念ながら上昇はしていなかったものの、以前と変わりはない数値であったのだが。


 もしくは、敵の障壁が思ったよりも分厚いのだろうか? 俺自身の火の球もそれほど威力を込めて撃ったわけではなかったが、もしかすると自分でもまだ実際にどれくらい強くなったのかの目測を誤っていたのかもしれない。




「ベル、どうした! 調子が悪いのか? それとも、敵が硬いのか!」


「ごめんなさい、わからないわ! でも、通用していないのは確かみたい……っごめん、船は任せていいかしら! ここで無駄に魔力を使うよりも、陸の支援を行うわ!」


 敵に打撃を与えられず悔しそうな表情でそう叫ぶベル。彼女もやはり己の攻撃力が低いことに気がついているようだ。確かに今は原因を探るよりも、先に次の作戦行動に移るほうが先決だろう。


「ああ、頼んだぞ!」


「ええ!」


 ベルはオカに向かって敵の銃撃を躱しつつ飛び去っていった。


「仕方ない。さっさと片付けてしまおう」


 そして俺は"球"を二発ずつ撃ち込み小型艦をあらかた機能停止に持ち込んだ。

 続いて中型護衛艦と輸送船だ。


 中型艦は全長が空母くらいあるかなりの大きさのもので、砲門も横からだけでは無く前後と上にも向けられている。

 数は一隻だけと小型戦闘艦ほど多くはないが、装甲も見た限り小型艦よりもずっと分厚そうだ。


 だが、ここからは一発ずつぶつけていけばいい。俺はステータスにモノを合わせた高威力の火の球を作り出し、まず一隻の護衛艦にぶつける。やはり同じように鉄砲で反撃してくるが障壁がある以上痛くも痒くもない。威力も小型艦より強化されているようだが、せいぜい障壁が少し歪むくらいだ。


 俺がカウンター気味に放った炎は船の丁度真ん中あたりに激突し、鉄の装甲を溶かし標的を大炎上させる。予想以上の威力に手応えを感じた俺は、そのまま続けて火の球をぶちこみ続ける。


 そして俺につられて港から離れ沖の方へ出ていた中型艦は、ついに爆発炎上を起こし、火柱と水柱を立ち上げ沈没していく。


「おし、いい感じ! あとはあの輸送艦だけだな!」


 輸送艦は足も遅く武装も少ない。先に小型・中型の船を破壊したため海側の防衛戦力はゼロだ。陸に目を向けると、それを認識したベルが指揮をとって陸上部隊に向かって強襲しているのが見える。


「くらえ!」


 タンカーのような形の輸送船は不自然にでかいためどんと魔力を込めて火の弾を放つ。そしてそれが平らな甲板に直撃する--と思われたが、なんと障壁に阻まれてしまった!


「なにっ?」


 単体でも敵の攻撃を防げるように強力な魔法を施しているのだろうか? ならば、こちらもそれに合わせてより多くの魔力を込めるだけだ!


「もう一度!」


 そして再び、先ほどよりも二回りは大きな球を撃つ。


 が、なんとそれも塞がれてしまった。


「んなバカな、どれほど厚い壁を張っているんだよ」




 そしてさらに魔法を撃ち込もうとしたその時。


 甲板が不意に左右に開き、一つの大きな筒が出てきた。

 まるで世界大戦時の戦艦の主砲だ。


 筒は、船の先端が向いている沖ではなく、ぐるりと台座ごと百八十度陸の方に向きを変え。

 その主砲の先端に急激な魔力の高まりを感じ。と同時に激しい光が灯る。


 そして数秒もしないうちに、砲身から極大の光の柱が撃ち出された……!


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