第120話

 

「やべっ」


 慌てて砲身の前に移動し、障壁となる防御魔法をいつも使っているドーム状ではなく、魔力を凝縮して平たい板の形に展開する。この方が、全面を覆えない分防御力が高くなるのだ。今は陸に向かって直線上に放たれているビームを止めればいいだけだからこれで十分だ。


 だが、光と光が激突したその瞬間、その注いだ分魔力が一気に持っていかれる感覚がする。勿論まだまだ余裕はあるが、いきなり大量に消費すると流石に驚く。


「なんという威力だ……!」


 一連しかついていないその砲門から放たれた"弾"は、想像以上の高威力。こんなのが陸にぶつかれば一発で都市が破壊されてしまうだろう。


「ぐっ!」


 そしてだんだんと光が減縮し、ついには糸みたいな細さとなりなんとか消え失せた。一分ほどは防いでいた感覚がある。威力だけでなくその持続時間もあるとは厄介な兵器だ。


「だが、反撃すればいいだけのこと!」


 そして俺もそれにやり返すかのように、掌から炎の柱を発射する。火柱というよりも、溶岩でできたビームに近いものだ。


 炎は敵砲身にヒットし、そして爆発炎上させる。

 こちらも障壁と同じくそれなりの魔力を使用したため、敵の防御障壁を貫くことができた。


 輸送艦に擬態していた、大型艦とでも呼ぼうか。敵の船はそのまま沈没していく。そして海中にその殆どが沈んだところで、大きな爆発とともに海水を辺りに盛大に撒き散らした。


「あっちはどうだ?」


 これで、ミレの街にいたポーソリアルの海上戦力は全て焼失したことになる。

 陸上には街を占領したことを示すように幾らかの兵士達が拠点を築いていたはずだが、今頃はベルや南部諸国連合軍がその陸戦力を排除しにかかっているはずだ。


 俺は、海に沈む船たちに追撃を加え偽装作戦ではないことを確認し、陸に向かう。


 そして予想通り、街中で船から降りていた兵たちと、我が軍による戦闘が行われていた。


 ……しかし、どうも分が悪いように見受けられるぞ?

 血を流しているのは明らかにこちら側の兵たちだ。やはりあの鉄砲のせいだろうか、魔法で応戦している者ももちろんいるが、それ以上の速さで弾が撃ち込まれているので彼我の戦力差・装備差が一目瞭然となってしまっている。


 こりゃまずいぞ? というかベルはどうしたんだ?


 連携をとりながら街の"防衛"に努める兵士たちをなぎ倒しながらも、彼女の姿を捜索する。


 すると、街の中心付近にある大きな広場で、沢山のポーソリアル兵に囲まれたベルとそれについていたのであろう連合軍の姿を発見した。


 無理に突撃して混戦になることを避けるためにも、一先ず建物の影に隠れて様子を伺うこととする。パッと見、十人対百程の割合だろうか。結構な兵力で奪還作戦に出たはずなのだが、少なくとも今この場にいる限りでは敵の方が数が多い。


 どうやら船にはあまり乗っていなかったようだ。保守と警備要員だけだったのかもしれない、しくじったな……明らかに作戦ミスだ。後で逆侵攻プランの修正を立案しておかなければ。


「いい加減観念しろ! この地方の勇者は名ばかりのお飾りお嬢様のようだな!」


「「「ぎゃははっ!」」」


 部隊の長らしき周りの兵士とは違う服装を着た男が、前に出て銃をベルに向ける。これだけの技術魔法の銃を使える魔法使いをあちこちの街に揃えるなんて、ポーソリアルはどれほどの国力があるのだろうか。俺たちはもしかしなくても、かなりの強敵を相手取っているのかもしれない。


「なにをっ……! お前たちに負ける訳にはいかない! たとえ窮地に立たされたとしても、それを解決するからこその人々の勇者っ。口車に乗せようって行ったってそうは乗らないわよ!」


「へえ、じゃあもう一発いっとくか」


「げへへ、隊長! 俺にやらせてくださいな!」


 取り囲む部隊の中から、一人の男が下卑た笑みを浮かべながら自薦する。


「お? 構わんぞ。正し、性器は傷つけるなよ。実力はともかく見た目は良いもの持ってるんだからよ?」


「ぎひ、もちろでさぁ。でも、それ以外なら少しくらい喘ぎ声を出させてやっても構わないんでしょ?」


「おう、勿論だ。勇者様に上位者に逆らうことの愚かさを叩き込んでやれ」


「あいっさー!」


 そして男は銃を構え、ベルに向けてその照準を合わせた。


(ベルっ、何をしてるんだ、なぜ反撃しない??)


 いくら相手が銃を持っているといえども、幾度も死線を潜り抜けてきたはずの彼女がみすみすやられるとは思えない。それに、魔法相手なら障壁を使えば……いや、待てよ? さっきベルは海上戦の時に調子が悪そうだった。

 もしかすると、何かしらの要因で本来の力を発揮できてないのだろうか? まさか、記憶喪失が関係してはいまいな? 


 彼女も俺と同じく一部の記憶が欠落しているようだから、その間に遅効性の薬物を投与とか誰かに何かされたのかもしれない。そうなれば、俺も同じ間に合う可能性が……いや、今はとにかく彼女と兵たちを助ける方法を模索しないと!


「さーん、にー、いーち」


「くらえ!!」


「ゼぐぉっ!? ぐええぇっっっ!!」


 こうなれば致し方ない。多少混乱が起きようとも、まずはベルだけでも助けなければ。彼女は勇者という人々の希望の存在、簡単に失うわけにはいかないのだ。


 そういう判断のもと、俺は控えていた突撃を敢行する。銃を構える男に向かって火の玉をぶつける。

 と同時に、その周囲にいる駐屯兵達にも噴水の魔法を使って視界を遮るとともに一時的に行動不能にさせた。


 よし、彼女を!


「ベル!」


「ヴァンっ! ごめんなさい、また迷惑かけちゃってっ……!」


 そのまま彼女の側に飛び出た俺は辺りを警戒したさながらいつでも魔法を打てるようにする。


「気にするな。それよりも早くここから一旦脱出を……」


「ヴァン、後ろ!」


「くらえっ」


「大丈夫だ、心配するな!」


 隊長格の男がすぐさま起き上がって銃を構え、魔弾を撃ち込んできた。だが俺は冷静に対処する。障壁を張り、と同時に顔面に向かって火の玉を発射。さらにその隙によろめきながらも起き上がろうとしていた他の兵に対して火柱を立ち上げ人間バーベキューをプレゼントだ。


「ぎゃあああああ!!」


「あづいいいいいいい」


「うごおおおおおおっっっ」


 奇声を上げながらのたうちまわる兵たちに、更に魔法をぶつける。熱で行動不能になっている沢山の風の魔法で身体をバラバラにしてやった。


「貴様、何者だ!」


 隊長格はなんとか難を逃れたようで、顔の一部が焼けてはいるものの無事なようだ。ちっ、思ったよりもしぶといな。


「名乗る必要はない、そっちこそ女性を多数でいたぶるなんて卑怯にも程があるぞ!」


「うるさい、野蛮人め! こうしてやる!」


「なっっっ」


 軍服の裏側から、何か楕円形のものを取り出した男は、その天辺を親指で押すような動作を見せると、こちらに投げつけてくる。


「まさか手榴弾のようなものまで!」


 ベルを引き寄せ慌てて障壁を張る。が、地球製であれば数秒は余裕があるだろうそれは爆発するタイミングが予想以上の速さで、投げたと同時に大規模な爆発を起こし。

 敵の兵もろとも障壁に収まりきらなかった離れた場所にいた友軍まで巻き込んで自爆してしまった。


「うおおっ!? なんじゃこりゃ!」


 そして一般兵たちも同じようなものを持っていたのか、次々と俺が切り刻んだ死体も含めて誘爆して大爆発を巻き起こす。服に収めていたなら、俺の風で壊れていてもおかしくはなかったはずなのだが、もしかすると、なんらかの要因が重なって完全に壊さなければそのまま起爆する物なのかもしれない。


 ともかく、俺は熱と炎からできうる限りの連合軍兵を守りつつ、爆発と煙が収まるのを待つしかなかった。


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