第118話

 

 そして一日おいて、第一報があってから三日後。つまりは最初の侵略から今日で六日目となる。


 そろそろ敵の姿が少しずつ判明してきたと共に、勇者パーティ他の尽力により各国の協調も取れてきた。今は、各軍が出征準備の真っ最中で、準備が整った国から順次中央大陸の南部沿岸部を国土とする『サーティライン王国』に集結することとなっている。

 既に、西回りで北を目指していた国軍の一部はUターンしており、また国内に残っている王国軍も合流する図りである。




 まず、敵は間違いなく『ポーソリアル共和国』という名の単一国家である。


 そしてその国家はなんと、俺たちが今まで認知してきた五大陸ではない、全く別の地域からやってきたというのだ。


 当然、陸続きではないため船を使ってやってきたのだが、その船団は全て伝令が口にしていた『鋼鉄の船』という呼び名の通り船体全てが鉄で作られていた。

 俺がベルの転移魔法で少し偵察に行った時に見たものは、大きな筒の武器。つまり『大砲』を乗っけたマストがない帆船のような形をしている船だった。

 鋼鉄の船というものだから、いわゆる戦艦を想像したのだが、そうではなく、この世界の一般的な木造の船をそのまま鉄に置き換えたようなものだった。


 そしてその船はどこからやってきたかというと、南大陸の下方にある大海、いつも荒れていてそれ以上進めないとされている海域を超えた先にある陸地からという。


 その海域は今まで何人たりとも越えさせたことがなく、遠洋漁業のできる限界としてもよく知られている場所であった。そこを乗り越えやってきたのだから、相手方も相当今回の侵攻に力を注いでいるのだろう。




 さて肝心の、ポーソリアル共和国が攻めてきた目的であるが。


 相手の言い分は、


『奴隷制度を容認する地方を放置しておくわけにはいかない。自分たち先進的な文明を持つものがきちんと管理監督し正しい道に導くために赴いた。攻撃したのは、見せしめのため。だが、言うことを聞かないのであれば他の国にも攻撃を加え力づくでどちらが正しいか教えることになる』


 というものであった。


 既に他国にも侵攻していると思われた敵国は一旦はロンドロンドの左隣の国、レキエム王国にも手をかけた。しかし、そのレキエムの半ばほどで進軍を停止し、一旦休息に入ったのだ。


 流石に長距離の移動だったため兵の消耗が激しかったのだろうか? 敵の事情であるため詳しいことはもちろんわからないが、とにかくそのタイミングで相手側から改めて正式な宣戦布告が為されたのだ。


 強襲した上一国の国土の全土を焦土と化すなど蛮行にも程がある。しかし、こちらから大時化の向こうにあるという大陸に向かうことは今の五大陸の技術ではほぼ不可能だ。

 なので国際的な評判も関係ないと踏んだのだろう。何せこちら側で起きたことはあちら側にある国々はポーソリアルの主張以外一切感知できないのだから。


 敵はどこからやって来たかなど大雑把なことには答えた。恐らくではあるが、正当性を保つために必要最低限の情報は伝える方針なのだろう。『どこの誰とも知らない奴』ではなく、『初めて見るけど身分はしっかりしている奴』という評価を持たせておけば、ポーソリアルとしては己の立場をこちら側に(侵略の理由に納得するかどうかは別として)理解させやすいからな。





「しかし、困ったことになったわね……まさかこの明らかに剣と魔法な世界でも科学技術を発達させる国が出てくるなんて」


「ああ、俺たちもどこかで思い込んでいたのだろう。魔法と科学は相容れないなんて幻想を。この世界に住む人たちは尚更、殆どの人間がそんなものの存在すら知らないわけだし」





 科学という言葉自体はこちら五大陸にもある。だがそれは現代地球における錬金術みたいな摩訶不思議なまやかし程度の扱いで、まともに研究されてこなかった。


 ベルの言う通り、魔法という使い方によっては科学よりも遥かに便利な道具が存在したのも大きいだろう。しかしその魔法はあくまでも自然に落ちているものをそのまま応用したようなもの。そっくりそのままという訳ではないが、神学とかつてアリストテレスの唱えた五大元素説を実際に発展させてみた、という感じだ。科学の前では敵わない部分は沢山ある。


 しかも、それだけではない。ポーソリアルのもつ技術は、地球にあったいわゆる科学技術ともまた違う、この世界だからこその発展を遂げていたのだ。

『魔法科学』とでも呼ぼうか、両者を掛け合わせた奇妙な技術を使用していることがわかった。それぞれの一長一短な部分を補うようにうまく体系化されているのだ。


 今回の鋼鉄の船もそうだ。大砲から打ち出される弾は、ただの弾丸ではない。魔力を込めたエネルギー弾のようなものだ。


 高威力でかつ射程も長い。魔法を使っているため慣性の法則や摩擦、重力などの余計な制限を受けることもない。飛ばそうと思えばその分の魔力を込めればいいだけだろうし、威力を上げようとするにもまた同じだ。弾数も魔力が尽きるまでというお得仕様と見られている。


 そして機械技術も使用しているため、人力であれこれやるよりもはるかに効率的だ。

 機械技術自体はこちら側にも存在する。しかし、敵側比べればやはり雲泥の差だろう。

 彼らは船を動かすのも、力学など全く無視をしているようだし、そのスピードもこちらも何かしらの魔法科学を使っているようで自由自在だ。


 正に科学・機械・魔法の三者を相互に補完しあっている理想の技術体系であろう。その分俺たちが不利ということになるが。


 その鋼鉄の船の唯一の弱点といえば、鉄でできているため浮力は無く当たり前だが動かすための魔力がなくなると途端に水に沈んでしまう。


 俺とベルがそう進言したことにより行われた作戦でのこちら側の戦果としては、たった一隻ではあるが小型の戦闘艦を沈めることに成功したこと。

 正面切っての魔法使いによる特攻という少々野蛮な作戦だったため、小さな船相手であってもかなりの激戦となったが、なんとか撃沈することに成功。引き揚げた船を解析中ではあるが、今俺が述べたことは、捉えた捕虜と今までにわかっている研究結果によるものだ。


 まだまだこれから未知の技術が現れてくるだろうが、こうして貴重な情報源を確保できたことは不幸中の幸いであった。ただ、捕虜は翌日に怪死してしまっていたためそれ以上の情報は引き出せなかったのが残念だったが。

 洗脳魔法という恐ろしい魔法によって尋問されたのだが、それが敵に知られたのかもしれない。もし遠隔で殺人をできるような技術まで持っているならばとんでもないことではあるが、流石にそれはないと思いたいところだ。





「でもこうして実際に現れてしまった。私たちがぬくぬくと残党討伐をしている間に、世界は新たなフェーズへと突入してしまったわけね」


「ああ、そうだな。もう元には戻れないだろう。五大陸もこれからは科学技術の研究を進めるだろうし、そうなれば便利になる一方起きることのなかった争いが起こることにもなる。技術というのは様々な人々の議席の上に進歩していくものだからな。それがより高度なものであるならば尚更だ」


「ええ、ならば私たちが少しでもそれを抑えなくちゃね。死んだ後のことまでは面倒は見れないけれど、それでも生きているうちにメリットデメリットはしっかりと分けて厳命しておかないと」


「うん、その前にまずは目の前の敵を倒してからだけどな」


 と、眼前に広がる大艦隊を空から眺める。




 俺が有り余った魔力で開発した自力浮遊の魔法だ。

 物を浮かす要領で他人を浮かすことくらいはできだが、スーパーマンのように自由自在に空を飛び回るような魔法は今まで存在しなかったのだ。

 それの応用で、他人にもこの魔法をかけることができるようにもなった。気分はティ○カー○ルだ。(ハハッ)


 また、転移魔法も使えるようになった。これでベルに頼らなくても色々なところに行くことができるようになったな。

 行動範囲が広がれば、ポーソリアル他今までまだ見たこともない大陸や国を拝めるだろう。今となってはそれも楽しみの一つだ。




「ポーソリアルの兵力は概算でも約十五万ほど。巨大な輸送船に、主力の戦艦、それを護る中型の護衛艦。そしてその他多数の戦闘艦か」


「中々の兵力ね。敵は、これだけの人々を長期間の航海の間養えるだけの兵站を揃えられる国力もあるということになるわ」


「その通りだ。彼らには兵糧攻めの効果は期待しないほうがいいだろうな」


「ええ。短期決戦あるのみね。悠長に交渉なんてしていられないわ、これを見てまだ参戦を渋る国があるとすればそれは余程の臆病か、火事場泥棒かのどちらかね」


「間違いないな。もっとも、次に被害を受けるのはその火事場泥棒になる訳だが」


「そうならないためにも、全ての国のために力を振るうんでしょ? 余計なことを考えさせないためにも、彼我の力の差を感じさせると同時に、私たちの活躍もどんと広めて行かないとね」


「中々シビアな注文だな。嫁さんはSっ娘のようだ」


「何か言ったかしら?」


「イイエナンデモ」


「そう? じゃあ、行きましょ」


「おう!」


 俺たちは二人、作戦を開始した。


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