第107話
「でも、それじゃあその神々の大元となったという主神ネズアル様は何をしているんだ? そんなことになっているならば、トップとして事態の終息を図るとかできそうなものだけど」
もしかして高齢で死去しているとかなのか?
でも主神という役職が残っている以上存命と考える方が自然だとは思うが。
「それはですね……主神は、現在どこにも存在しないのです。あ、お亡くなりになったわけではありません。文字通り、神界のどこかへと消え去ってしまわれたのです」
「消えた? 物理的に、ということですか?」
「はい。あの神樹ももぬけの殻。既に実質的なトップはマキナ卿やヘラキュロス卿ら十二神となっています」
「消えるって……何故そんなことに?」
「それは、誰にもわからないのだ」
「わからない? トップが消えたのに、その行方どころか理由さえも?」
「うむ。ある日突然、そのお姿が見えなくなった。故に私たちはその現象を『お隠れ』と呼んでいる。何が理由かはともかく、お亡くなりになられたわけでも別の何処かへ行かれたわけでもない、今この神界の中に隠れていらっしゃるだけという説が主流だからだ」
「お隠れかあ。それで、『神樹の血』の特権意識とか、オークションとかは野放しになっていると」
何せ、それを辞めさせるべきであるはずの十二神の殆どが、そちらに肩入れしているというのだから。
「私は、だからこそ、この世界を全て一からやり直すべきだと考えたのだ。主神ももはや出てくる気配はない。何もかもを一切合切に切り捨て、新しい世界を創造し私たちの手で平等に、誰一人悲しむ神が出ないようにするのだと」
「でもそれは、話し合いができないから武力で解決するという思想です。何故、どうしてそんなことをするのか、止めることはできないのか説得しないのですか?」
「ああ……だからそうなのだ、ドルガ氏」
「はい?」
闘神は女神を睨み付ける。
「それは、あくまでも強い立場……つまりは貴殿が『神樹の血』に連なるものであるからそのような発言ができるのだ。我々成り上がりの神は、その言葉さえも聞いてくれない。更に言うと、知ってはいるだろうが、『人間』が元になっている成り上がりの神よりも『エデリス』が元となっているエリートの神の方が、生まれ持った素質に明らかな差が存在する。それこそが既に、差別を生み出す原理となってしまっているのだ」
「わ、私はそのようなことは関係ないと思います! 現に、我々変革派に協力してくれている神樹の者も沢山います。一方で、自分たちさえ良ければ良いと言う考えの者もいるのは事実ですが……でも、私たちは必ず分かり合えるはずなのです! 皆で一堂に会し、話し合いの場を設ける。最終的には神界のシステムを変えてしまおうと言う点では一致しています。ですが、何もかもを壊してしまっては、それはただの暴力であり、今まで沢山の勇者が受けてきたことと何も変わりません! 自分たちが正しく、他のものは全て掃いて捨てて仕舞えば良い。そのような主張は、あなた方が嫌う神たちと本質的には同じではありませんか!?」
ドルガ様は、必死に訴える。
だが、闘神もドスンと音を立て一歩前に踏み出し反論する。
「いいや、違う! それは、"中"にいるからこそ言える甘ったれた幻想である! 外の者。つまりは虐げられてきた成り上がりの神々が大多数なこの世界において、その気持ちを本当に共有できているのかっ? やはりどこまで行ってもエリートの上から目線なのではないか? これは既に話し合いで解決できるような問題ではない。上と下という構造が出来上がってしまっている時点で破綻した論理である!」
ヘラキュロスは更に、俺の方を見て話を続ける。
「お主も、ドルガ氏に協力しているのであったな?」
「あ、はあ、そうですが」
「もしドルガ氏の言うように説得が成功したとしよう。だがそれでも永遠に上下関係が出来るのだぞ? 一時は説得できても、その関係性がなくならない限り差別意識というのは延々と存在し続ける。消えてはまた浮かび、それをモグラ叩きのように消して行っても何の解決にもならない。モグラの巣ごと破壊をしてしまわなければ根本的な解決には至らないのだ!」
「それは……」
地球でもそうだろう。
差別がダメと言っても、誰だってどこかで人とは違うという意識があるものだ。
さらには、あいつは差別しているからと下に見る。差別されているから優遇しろと上に立つことを要求する。差別をされている者の間でさえも、憎しみや見下しの感情が生まれる。
何かの差別を消せば、また別の差別が生まれる。
働きアリの理論が如く、いくら切り取って行ったとしても、一定数の同じ状況が発生し続けてしまうのは確かにその通りだ。
「……でも、俺はドルガ様に協力します」
「なんだと?」
「いつか分かり合えるはず、なんて甘いことは言わないし言えない。それは間違いない。でも、自分たちが下にいるから他も下に下げてしまおうというネガティブな考えは、それは結局自分たちが下に見られているという自意識が働いているからじゃないのか? 本当に全てを平等にし、神々の蛮行をやめさせたいと思うのならば、ドルガ様の主張するよう下にいる者を上に持ち上げることこそが必要なのではないか?」
人間は、自分よりも下の存在を探し優越感に浸る生き物だという。
神も、血筋に関係なく同じような側面があるのではないか。
「下にいるものが新しく世界を作っても、結局はその下にいたのものが特権階級になるのは目に見えている。それが絶対にないと何故言える? 仮定として、現在はそちらがなんとか制御するとしよう。だが未来は? カオスたちの次に新しい神界とやらを統治する者たちが『神樹の血』の者たちと同じようなことをし始めないと何故断言できる?」
「それは、そのように命令しておけばいいだけである! 差別をしたものを罰する仕組みを作り、統治するものはそれなりに理性のあるものを指名したら良いだろう」
「はあ? なあ、それって、裏オークションと何が違うんだよ」
「なに?」
闘神は眉を吊り上げ睨み付ける度合いを強くする。
「自分たちが選んだ者を優遇してやるからと言うことを聞かせるわけだろ? 本質的な差別意識は向き合うことにはなっていないじゃないか。その神が見下しの心を持っていようと隠しておけばいいだけだ。裏でこそこそし始めるかもしれないぞ? それこそ、そっちが嫌っている神樹の神たちのように」
「ならばその理論こそ、穏健派にも同じことが言える。話合いで一発で解決できるほど浅い問題ではないのだぞ!」
「ああ、『一発で』はな。その通り、全てを一挙に解決する手段ではない。だが、何か問題が生まれればその都度話し合いをし、お互いに落とし所を見つける。それこそが、知性のある生き物のあるべき姿ではないのか? 武力で解決できることも多いだろう。だが、話し合いや交渉で解決できる物事も沢山あるんだ。まずはそれを実践しようともせず、いきなり『全てが無駄だからスクラップアンドビルドだ!』なんて、横暴にも程があるぞ」
矛盾した考えであるのはわかっている。だがそれは向こうも同じ。ならば、できるだけ皆の命が失われないようにするのが、より救われる人が多くなるのではなかろうか?
「だから俺は……ドルガ様の一派を支持する! これは最終決定だ。異論は認めないぞっ!!」
「ヴァンさん……」
ドルガ様は安心したように俺に微笑みかけてくる。俺も、それに笑顔で返した。
「…………ふふふふふ」
「??」
すると、闘神は俯き急に笑い出す。
「フハハハハハハハ!!! あっぱれ、あっぱれであるぞ勇者よ!! よくぞそこまで反論できた。確かな信念を持っての行動であるならば、もうなにも言うことはない。だが、女神ドルガドルゲリアスよ!」
「はい」
「やはり、お主は"上"の立場であることは変わりはない。ヴァン氏がどれだけ熱い想いを語ろうとも、それを統率するものが神界の仕組みの輪から外れられない以上、その主張は全て無意味! それが我らカオスの総意である! よって改めて宣戦布告させてもらおう……我ら改革派は、穏健派に全面戦争を仕掛けると! そして、神界に対しても!」
ヘラキュロスがそう叫ぶと、その闘神を中心にとんでもない威力の突風が吹き荒れた。
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