第106話
「あれは? そういえば少し気にはなっていましたが」
それは大きな広葉樹だ。遠くから見ているのでブロッコリーみたいにも見える。縦も横もかなりの大きさであることが伺え、枝の部分が島を大きく飛び出し神界の一部に影が落ちるほどだ。
根も、山をひっくり返したような形の浮島の下の方まで浮き出るように張り巡らされており、その浮島自体が樹を支えるためだけにあるかのようだ。
「あの樹は『ユグ=ドラース』、この神界で一番偉いお方、つまりは神々の頂点。主神である『ネヴ=カ=ドゥ=ネズアル』様がおわす場所だ!」
ドルガ様の代わりに何故か闘神が答える。
お二人、なんか息があってきてません?
というか言いにくすぎないか主神様のお名前。よく噛まなかったな今……
「そのネブカ……ネザル様がどうしたんですか?」
「ネヴ=カ=ドゥ=ネズアル様である。間違えないように! あのお方自身ではなく、今話の対象となるのはそのお住まいである『神樹ユグ=ドラース』の方だ」
「神樹は、ネズアル様がこの神界と呼ばれる世界を作った時に一番最初に作られた建物。あれは、主神の住居となると同時に、神々……つまりはこの世界を動かすために必要な人員を生み出すための装置でもあるの」
人間を召し上げるんじゃなくて、直接神々を生み出す? そんなことが可能なのか?
細かいことだが"ネズアル様"呼びはいいんだな。基準がわからない……
「神々を生み出すって、具体的にどうやってなんです?」
「ユグ=ドラースは果樹なの。つまりは『実』がなるのです。その実は『エデリス』と呼ばれ、地上に落ちると同時に神の姿を取るの」
「えっ、そんな簡単に神様が生まれる、というか出来上がるんですか?」
「ええ。それだけ主神ネズアル様は我々神でさえも超越した真の超越者として崇め奉られているわ。そうやってエデリスとして生まれた神は、子をなす。子をなすことはこの『神樹の血』、神界黎明期の神々に連なる血筋の直系の神のみに与えられた特権なのだわ」
なるほど、ネズアル様は神の中の神みたいな扱いなわけか。
で、その超お偉い人が作り出した神々を基にして、特権階級みたいな感じで『神樹の血』と呼ばれ血の繋がりを保っていると。
「そしてその神樹の血の一族であるのが、そのドルガ氏なのである!!」
「なるほど、ドルガ様はエリート一家のお嬢様だったわけですね?」
「そのような言い方をされると少し複雑な気持ちにはなりますが……まあ合ってはいますね」
で、それが闘神いわく俺が心変わりするほどの材料だというのだろうか?
「その『神樹の血』に属する中にも派閥が存在する。大きなものとして二つあるのだが。一つは、自分たちが特権階級であることを盾に他の神を見下す勢力。もう一つは、どのような生まれであろうと主神の許においては皆同じ神であるという勢力」
「私はもちろん、後者ですよ?」
「ドルガ氏のことを悪くいうわけではない。しかし、前者のコミュニティに属するものの方が圧倒的に多いのである! しかも厄介なことに、彼らはその意志を外には出さない。身内でこそこそと他の神を見下し、裏から手を回したりして自分たちが優位に立とうと工作をしている」
「表立って差別やいじめみたいなことはしないと?」
「うむ。なので私もそれを知るのが遅くなった。表に出てきていない裏勢力を、上に立つ者となって初めて知ることができたのだ。特権意識を持つ者の中にも、その枠組みを超えて出自を横に置いて上に媚びるものはいる。そのため、ある日私の許にある招待状を持ってきた神がいたのだ」
恐らくは、神樹の血に属するその神は、利用できるものは利用してやろうと思いそのような行動に出たのだろう。
だが"成り上がり"であるヘラキュロスのことを内心どう思っていたのかは想像に難くない。自分の思想を隠し腹芸をこなすところもより神の世界でのそれぞれの立場を複雑にしていると思われる。
「その招待状とは?」
「ああ、成り上がりの神……つまりは私のような元人間であった魂を召し上げられた直後の者を捉え、皆で品評会をするというものだ」
「品評会? とはどのような性質のものなんだ?」
そう一言で言っても、能力が足りているのかとか、派閥の雑用係にしようかとか、単純に身体の美しさを評価していくとか。様々なものが考えられるが。
だが、続く言葉によると、そんな生易しいものではなかったようだ。
「--元勇者の
「……は? そんなことして何が面白いんだ?」
意味がわからない。
「正しくは、枕営業に近いものではあった。肉便器になる代わりに、己の勢力の一員として囲い神界内での発言力を増す為優遇するのだ」
「つまりは、手頃な穴になる代わりにその分の見返りはやるよ、ということか?」
「そうだ。そしてそこに呼ばれた私は、最初は勿論どんなものか知らなかった。品評会の様子を表現するのは控えさせてもらうが、それほどおぞましいモノであったと捉えてもらおう。私はすぐさま、このようなことは二度としないようにと忠告した。だが、彼らはどうしたか? 逆に、私のことをその『神樹の血』であることを利用して十二神以下自分たちの同胞へ根回しし圧力をかけるようになったのだ!」
「だから、神界に嫌気がさして『カオス』に肩入れしていると?」
「うむ。というのも、私は彼ら一族がコミュニティを持っていたように、カオスという存在ももちろん知らなかった。じゃあ誰に教えてもらったのか? グチワロスという下級神である」
え、そこでグチワロスが出てくるのか。
「グチワロスはカオスの中でもかなり中心にいる人物ですからね。
「しかし、また逆に協力者という立場でもある。外部から色々と手出しをする存在でもあり、またその中に入って神々を導く存在でもある。その時は珍しく外には出てきたというが、非常に不可思議なヤツであったな。ある日突然私の執務エリアにやってき、『カオス』に入らないかと声をかけてきたのだ。最初は十二神である私にも気さくに話しかけてくる態度に『まさか神樹の血の工作員か?』とは思ったが、そうではなかった。奴らは嫌な気さくさがあるが、あいつは良い気さくさで会ったのだ。なので私は信用することにし、とりあえずその後について行った」
グチワロスはどのようにして十二神であるヘラキュロスが追い詰められていることを知ったのだろうか?
実は、神樹の一派にスパイでもいたりして。
「その後一緒に参加したカオスの集会においては、どうも変にカリスマ性があるようで、皆その一言一言に真剣に耳を傾けておった。私もその中の一人ではあったがな」
「それで、カオスに協力する気になったと?」
「その通りだ」
ヘラキュロスは腕組みをし目を瞑りフッと息を吐いた。
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