第105話
今度は俺が! と、ドルガ様よりも前に出て相手に向け風の魔法を使用する。
「むっ!?」
二つの棒を持ちながら突っ込んできた闘神ヘラキュロスは俺が出した強風に煽られ、その棒を手放してしまう……かと思いきや、なんととんでもない馬力を出してそのまま突っ込んできやがった!
「まじかよ!」
慌てて更なる魔法を発動する。俺は直径一メートルほどにもなる高温を示す青色の炎の塊を敵にぶつけるように投げた。
なお、これはルビちゃんの真似をして頑張って覚えた魔法の一つだ。
闘神は避けることもないままそのまま一直線にこちらへ向かってくるのでこのままだと間違いなく直撃コースだ。
流石に鉄をも平気で溶かす攻撃には耐えられないだろう。
そして案の定それすらも避けようとしない闘神の腹のあたりに高熱の塊が激突する。
「ぐおおおっ!?」
いくら神といえども軽傷では済まないだろうと思い、しかしなんかこの人気合で耐えそうなので怯んだところに念のためにともう一発撃ち込む。
「うわあっちゃちゃちゃちゃっ!!」
今度はそれが顔に直撃し流石に耐えきれなかったのか、目の前三メートルくらいのところで両手に持っていた街灯を手放してしまった。
街頭がこちらに倒れそうになるが、俺はそれを風魔法の応用でスパッと切り刻み、輪切りにして回避する。鈍い音を立て、鉄材が床に散らばった。
「ぐふぅ、やるなぁヴァン氏!! 十二神である私に傷を負わせるとは!! 何年ぶりの感覚であろうかっ!」
だが闘神はそれでも未だに元気百倍といった様子で、片目を押さえてはいるがが何が楽しいのか歯を見せつけ笑顔を絶やさない。
「ば、化け物かあんた……」
それなりにステータスが上がっているはずの俺の攻撃を、しかも威力の高い炎魔法を二発もぶつけたにも関わらず、軽傷で済んでいるなんて。"闘神"の敬称は伊達ではないようだ。
「ヴァンさんっ、闘神はその身に宿す身体能力は間違いなく主神に次ぐ高さです。生半可な攻撃では倒せません」
ドルガ様も魔力を取り戻されたようで、話が出来るようになったようだ。
「でもじゃあどうやって」
「ぬははは! お主らが私のところに来るであろうことは既に予測済み! 転移返しは防がれてしまったが、なに、私のこの身体こそが最強の盾にして最強の
もう攻撃のダメージから立ち直ったのか、ヘラキュロスはボディービルダーのようにマッスルポーズを様々な角度で決めながらそう宣告してくる。火傷の後も殆ど目立っておらず、丈夫なのは皮膚一枚一枚ですら同じなようだ。
「申し訳ありませんが、そうは参りません。なぜ貴方ほどのお方がカオスなどという組織に身を寄せているかはわかりませんが、神界のためにもそちらの方こそ降参していただきたく存じますが?」
ドルガ様も負けじと毅然とした態度で言い返す。だが、聞いているのか聞いていないのか、フンフンと筋肉を見せびらかすばかりでこちらの返答は残念ながらどこ吹く風のようだ。
「……なぜ、私がカオスに協力していると思う?」
と、今ほどまでふざけていたはずの闘神は、急に真面目な表情になりボディビルポーズを取るのをやめ両拳を腰のあたりで握り突っ立つ。
「何故って……何か神界に気に食わない点があるからじゃないのか?」
ミナスもそうだったが、今の神界のあり方が良くないと思い、武力を持って全てを破壊と再生の大規模作戦でひっくり返そうとしているカオスの行動理念に賛同したんじゃないのか。
だが、マキナ様が俺たちに協力してくれているのと同じ、その主張のボルテージの上下はあれども、この神界の"システム"ありきな現状を憂慮しているのは十二神であっても同じなのだろうということは察しがつく。こんな脳筋そうな神でも部下を持つ身なのだから、思うところもあるだろうし。
「その通りである。私が何を変えたいのか、どうしてカオスに協力をしているのか……かつて、私も人の身であった」
「え? じゃあ、勇者としてどこかの世界を?」
「うむ、そうだ。その詳細は割愛させてもらおう、話したとて面白いものではないからな。勇者とは本来二人で一つ、それはわかるな?」
「ああ、水差しと器だっけか」
「我々カオスはそれをパーツとボディと呼んでおるが。まあそんな細かいことはどうでもいい。ともかく私はそのパーツの方。ボディであるいわゆる"勇者"として世界を救った相方は、この神界の掟に従いオークションへかけられた」
ということは、そのあとは……
「お察しの通りだ。そして私は神として召し上げられた。最初はこんな腐った神の世界になぞいられるか、と思ったのだが。ある日、夢に出てきたのだ、その相方が」
遠い目をしながらその時を思い出しているのであろう、どこかの世界の『水差し』であった闘神は話を続ける。
「相方は、一言こう言った。『生きて』と。何もかもに絶望していた私を救ってくれたのは、その一言以外のなにものでもない。それから私は、生きてくれという願いをこの身に授かった、相方が心の中で一緒に生きていてくれると信じて職務を遂行した」
「そして今に至る、とそういうわけなのですか」
「うむ。だがここからが本題だ。それだけだとただの感動秘話みたいになってしまうではないか?」
「はあ、まあ」
「その能力を認められ、遂に十二神としてその地位を授かった私は、初めて知ったのだ。勇者だけではなく、この神界に来る元人間であったものを差別する勢力があることを!」
身分で差別する奴らがいるってことか?
でも待てよ、神ってみんな元々勇者ってわけじゃないのか?
いや、よく考えればそれもおかしいぞ。
じゃあその勇者を生み出すためのシステムを作ったのは誰なんだ? 例えそのポジションには主神がいたとしても、その後作られた沢山の世界を管理するにはそれなりの人数の神が必要なはずだ。実際、こうして上下関係が出来るほど組織化したんだからその分役割を与えられた神がいたはずなのだ。
新しく開拓した村に移民を集うにも、まずそこを開拓した人たちがいるはず。じゃあその開拓者--つまり神界黎明期の神々はどこからやってきたのか?
「人間を差別するっていう神たちは、じゃあどういう生まれを持っているから"成り上がりの神"を蔑んでいるんだ?」
「そこがポイントなのだ。そしてこの話には今そこに立っておる女神ドルガドルゲリアスも深く関係してくる」
「え? ドルガ様がなんで?」
横におわす女神様のことを眺める。ドルガ様は、心当たりがあるようで神妙な面持ちだ。
「……なるほど、そういうことでしたか。大体の話は察しました。ヴァンさん、実はですが。私は神ではありますが元勇者ではありません」
「というと?」
ドルガ様はこちらを向くと、手を足の前で備えて大事なことを告げるように静かに大きく息を吸う。
「私は――――『神樹の血』の一族なのです」
「神樹の、血?」
なんだそれは? 初めて聞く単語だ。
「説明してしまっていいのか? 場合によってはその人間は私に与する可能性もあるのだぞ?」
「構いません。いつかは、知らせなければならないことですから。それに、あなた方破滅派も私たち変革派も、この問題にはいつか必ず切り込まなければならないことでしたし。ちょうどいい機会ではありませんか?」
「そういう考え方もあるのか。穏健派の首領も意外と怖いもの知らずなようだな」
「さてどうでしょう? ヴァンさん、あれを見てください」
そんなやりとりをした後、ドルガ様は遠く頭上を指差す。
ウェディングケーキを緩やかにしたような螺旋の段々になっている神界のてっぺん、そこには浮島があり、島全体、一枚の大地の上には見上げんばかりの一本の大きな樹が生えていた。
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