第104話
「うわああああおええええっっ」
「だ、大丈夫ですかっ?」
「うえぇ……うぷっ、な、なんとか? 神界での移動手段ってこんなんなのですか?」
転移? がし終わると俺はすぐさま地面に四つん這いになりキラキラと虹を輝かせる。人間の身体じゃいくら強くなっても耐えられない何か特別な能力なのだろうか?
実は、ステータスが上がっても身体の平衡感覚が鍛えられたり酔いに強くなったりするわけではないのだ。なので全速力で走って周りの景色に酔う、なんてことも起こりうるわけだ。今はドルガ様のせいではあったが、そこら辺も合わせて自分の力を制御し切れていないうちは気をつけないと。
「すみません、どうも『転移返し』が発動してしまったようです」
「て、転移返し、ですか?」
「はい。相手が私たちのことを侵入者として感知したみたいですね。転移返しは転移先でその魔法が自動的に敵と認識したものを爆散させてしまう危険な防衛用魔法なのですが、私の方がその魔法に使われた魔力よりも耐魔能力値が上だったのでヴァンさんが酔うだけで済んだようです」
と説明しつつ、俺にバッドステータスを直すものだろう聖魔法をかけてくださる。
「そんな危険な……というか神界でも転移は使えたんですね」
もう少しで木っ端微塵になるところだったのか。ああ怖い。
「ええ、使えますよ? 神様なんだからもっと勝手に現れたり消えたりでいるとでも思っていましたか? うふふ」
先ほどの俺は『世界ドルガ』から飛び出しただけだったし、ベルを送り届けるのも俺よりも先だったため知らなかったのだ。
それにドルガ様の仰るとおり、頭の中で『神なんだから何か他の超常現象的な移動手段でもあるのだろう』と勝手に思っていたのもある。でも彼ら彼女らも、今までの説明を聞く限り俺たち人と同じ存在だと考えれば、転移を使う(使える)のは当たり前か。
「恥ずかしながら……こほん。俺たちはどこに転移したんですか? 敵の姿は見えないようですが」
聖魔法のお陰で体調もだいぶ回復した俺は改めて質問をする。
「ここは十二神々がお一人、『男神ヘラキュロス』に与えられた『大エリア』にある広場です。カオスの仲間と見られている十二神です。ヴァンさんにはいきなり上を叩いてもらいます、その方が手っ取り早いですからね」
その広場は見回してみると、中央に地面よりも数段高くなっている噴水があり、その周りを階段状の円が取り囲んでいる。
広場全体には、ベンチやらテーブルやらが置いてあり、普段は所属する部下やらが集まる憩いの場になっているのかもしれない。
ドルガ様の説明によると、十二神はその下にいる上級神、下級神の上司であり、何か特定の場所を受け持っているというわけではない。部下が管理する全ての世界及びエリア(小エリアと呼ばれている)を監督する立場にあり、それぞれのエリアをまとめた大エリアと呼ばれる範囲を受け持っているという。
「なるほど、命令系統を潰すのですね」
頭を潰せばよっぽど統率された組織でもない限り下は混乱する。戦の常識だ。
「残念ながらそういうわけではございません。あくまでもヘラキュロスはカオスに"協力"している者の一人。我々に協力してくださっているマキナ卿と同じく、直接指揮をしているというわけではありません。ですが
――――バゴオオオオォン!
と周りに注意をしつつも歩きながら説明を受けていると、唐突に地面が爆発した。
俺たちはすぐさま飛び退きことなきを得る。
「ファーファッファッファ!! 何者ぞ!!!」
声が下方向に顔を上げると、広場に建っている街頭の柱の上に、パンツ一丁にマントをつけた仁王立ちのめちゃくちゃ怪しいおっさんがいた。しかもその長髪はどこから流れて来ているのか風に当てられたなびいており、興行格闘家の登場シーンみたいだ。
「だ、だれ……?」
「ヴァンさん、あのお方です! 気をつけてくださいっ」
ドルガ様は立ち上がるとその手に杖を出現させる。
「え? つまりあれが」
「そのとおおおおぉぉぉり! トアーッ!」
大袈裟にジャンプした男はクルクルと前転で大回転をしながら地面に降り立ち、再び仁王立ちをしたあと歯ブラシのCMかよと思うようなキラリと歯を光らせ親指で指すポーズを取った。
「私こそが! 正義のヒーロー! 十二神が一柱っ! ヘ・ラ・キュ・ロ・スっ!!!」
今度は戦隊ヒーローもののようにシュバババっと身体を動かし最後は両腕を横に広げ片膝をつく。すると背後にあった噴水ごと地面がけたたましい音を立てて先ほどのように爆発した。
っっっっっっっっうぜええええええええ!
「ヴァンさん、お気持ちはわかりますが顔に出ていますよ、顔にっ」
とドルガ様がこそこそ耳打ちをしてくる。
「むむ、お主今『うぜえええええ!』とか思ったろう?」
当の闘神は何事もなかったかのようにすくっと立ち上がった後真顔でそう訊ねてくる。
「いえ、思ってません」
こちらも真顔で返答する。
「思ったろう!?」
「思ってません」
「思ったってイエエエエエイ! フウウウウウ!」
「っっっ!?」
すると理不尽なことを叫んだ後、目にも留まらぬ速さでこちらへと突っ込んできた。どう飛んだのかわからないが、頭を前にして両手を気をつけの姿勢にしまるで人間ロケットだ。
「あぶねっ!」
俺はそれを辛うじて避ける。ロケットはそのまま反対側にある柱に突っ込んで煙と飛び散る破片に巻き込まれてしまった。
「…………どうなってんだ?」
もしステータスが上がっていなかったら今の攻撃で間違いなくお陀仏だった。それくらいのスピードだったのだ。腐っても鯛、ならぬ十二神ということか。見た目の胡散臭さで判断してはいけないな。
「ぬわあああああああっ! やるなぁ貴様! 名はなんという!?」
闘神はやはりあれくらいでダメージを受けた様子はなく、瓦礫を吹き飛ばし立ち上がるとビシッ! と人差し指を指して俺に聞いてくる。
「あ、はい、ヴァンですが……」
「うむ、ヴァン氏! 天晴れ! 横に立つはドルガ氏だな、久しぶりであるなぁ!」
「はい、お久しぶりです、ヘラキュロス卿。ところで先ほどここに転移してきた時、何故か転移返しが発動したのですが何か心当たりはございませんでしょうか?」
「うむ、あるぞ! それは……お主たちが敵であるからだな!」
闘神はまるで難問を解決した名探偵のように不敵な笑みを浮かべる。
「ええ、そうみたいですね」
というか敵に対して発動する魔法なんだから当たり前なんじゃ? と突っ込みたくなるのをグッと抑える。偉いぞ俺。
「ならば話は早い……ここで死んでもらおう、二人とも!! とあーーーーーー!」
「ええええええ!?」
俯いたかと思うと、急に両手を前に突き出し、その腕を張り手をするように交互に前後させる。
すると、恐ろしいスピードで大量の光の球がこちらに向かって飛んできた。そんなのあり!?
「ヴァンさんっ!」
するとドルガ様がすぐさま俺たちの前に障壁を張る。
と同時に、辺りが一瞬にして光に包み込まれ、煙と地面やらオブジェクトやらの破片が飛び交う。
そして数秒してそれが明けたのち、俺たちの周りにドーナツを逆に来たようにポッカリと大きな穴が開いていた。
「うおお、なんという威力」
「はあ、はあ、流石ですね、ヘラキュロス卿!」
「ドルガ様? 大丈夫ですか?」
相対する女神様は息が上がっているようだ。今の気○もどきは相当なパワーであったようだ。障壁を維持するのにも結構な魔力を使ったのだろう。相手の攻撃はあまり喰らっていてはすぐにこちらが力負けしてしまいそうだな。
と思ったが今度は。
「ふんんんんんぬっ! よいしょー!」
建っている街頭を二本引き抜くと、こちらに向けて地面を蹴り空中浮遊のように一気に飛び込んできた。
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