第100話突破!!!記念&ホワイトデー❤︎特別編(カクヨムオンリー)その3
そして凛の買い物も終わり、六時過ぎには件のプリクラがあるゲームセンターへとやってきた。
「あっ、あれだよ!」
「へい」
いくつもの筐体が並べられたプリクラエリアの一角にそれはあった。
白い機体に女性が寄り添った
「んじゃあ入るか」
「むふふ、どんなポーズにしてやろうかな?」
「おい、何故そんな気持ち悪い言い方をするっ、普通に撮るだけだろう?」
「だって、ハジメちゃんとプリクラ撮るの久しぶりじゃん」
「そうだったっけか?」
思い返すと、確かに凛とプリクラを撮りにきたのはいつぶりだったか。俺も中学生になるとこの手のものが男らしくない、恥ずかしいと思うようになってしまったからな。
まあ今は凛と一緒ってのもあるし、それにこの数年で世間的にも男性も撮るのは当たり前という風潮になったのもある。
「えっと、お金お金」
「ああ、流石に出すよ。"写真も含めてプレゼント"、だしな?」
「ほんと?」
「いいぞ」
「ありがとう〜!」
周りから見えないのをいいことに、自宅でするように思い切りギュッと抱きついてきた。
「おいっ、まだ撮影は始まってないぞ!? というか撮る時も流石にそれはやめてくれよ」
「ええっ、なんで〜」
「なんでもだっ!」
と言いつつお金を入れる。
「ふうん。最近は色んな機能があるんだな」
「でしょ? これも時代の変化ってやつだねえ」
「なに年寄り臭いこと言ってんだよ、まだこれから高校生になろうってばかりの癖に」
「あっ、酷いなあもう、泣いちゃうよ?」
「ハイハイ、すまんすまん」
とようやくいつもの雰囲気が戻ってきたところで、コースを選択。
今回は、凛が言っていた撮影した中から気に入ったプリを一枚、写真の大きさに引き伸ばしてくれるというやつを選ぶ。
因みに残りの撮影分はもちろん普通のプリクラとして印刷される。
<それじゃあ始めるよ! カメラの方を向いてポーズをとってね!>
とテンション高く説明してくる。
荷物を置き、指定の位置に二人して立つ。
「ポーズはどうするんだ?」
「じゃあまずは二人でハート! ほら、手を出して」
「ええっ、まあいいか……」
ここまで色々言うことを聞いてやったんだから、最後まで好きにさせてやるか。
というわけで、二人の顔の前で片手ずつ指を丸めて合わせハートを模る。凛の顔が近くにあるせいで、やはりどうしてもドキドキとしてしまうな。女性って化粧をするだけでこんなにも変わるものなのかと感心してしまう。
<3、2、1! ラブラブキュン!>
なんだそりゃ!? と内心思いつつも笑顔を浮かべる。パシャリとフラッシュが焚かれ一枚目の撮影が終わった。
<次のポーズを決めてね! 三十秒後に撮影が始まるよ、気をつけてね!>
「じゃあ次はハジメちゃんはここね……えいっ!」
「ぐおっ」
両手で肩を持って俺を誘導し自らの前に立たせた後、なんと俺の背中に覆いかぶさってきた。
「お、おい、これはさすがにやり好きじゃ!?」
「いいのいいの〜」
「くっ」
やはり背中に重たいものを感じる。気にしない気にしない、無心無心!!
<3、2、1! ラブラブキュン!>
再び撮影がなされる。顔が引き吊っていないか心配だ。
目の前に出ている撮影したものの確認表示を見る限りは態度に現れてはいなかったようだ。だが少し顔が赤い気もするが気のせいにしておこう……
「次次〜、はい!」
「お、おう」
今度は先ほどよりまだマシだ。凛は俺の腕を取り、片足を上げてもう片手でピース。俺も合わせてピースをする。これ、何気に恥ずかしいぞ……というか密着率では二枚目よりも近い気がするっ!
「つ、つぎで最後だな!」
「むむ、残念。でも最後だし思いっきりやろうね!」
「あ、ああ、もうなんでもこいだ!」
そうしてポーズを取る。彼女の指示によると今度は何故か、二人とも棒立ちにということだ。
<最後まで笑顔でっ! 3、2、1、ラブラブキュン!>
そしてフラッシュが焚かれる、その直前に。
――――チュッ♡
「ふえっ?」
いきなり顔を横にむかされ、そして柔らかい感触が唇に。
一瞬なにが起こったか分からずに硬直してしまうが、直ぐに目の前の凛の顔を見て察する。
「えへ、ハッピーホワイトデー……なんちって?」
と言った後、彼女は顔を真っ赤にして向こうを向いてしまった。
「……マジか」
自然と自分の唇を指で触ってしまう。当たり前だが、己の肌の感触しか感じ取ることができない。しかし先ほどは確かに、一瞬ではあるが他人の体温をこの部位に感じたのだ。
「じゃ、じゃあ写真にするやつ、選ばなきゃね!!」
「お、おう、そうだな!」
どうも彼女は今の行為を無かったことにしたいらしい。俺も慌ててそれに乗っかり場を取り繕う。
荷物を手に取って、外に併設されている落書きブースへ。
だが、その画面に表示されているうちの一枚には、確かに男性と女性が向かい合っている様子が写っていた。
「あ、う」
「おおぅ」
互いに気まずい空気となってしまう。ってか恥ずかしがるなら最初からやるなよ!! こっちもどう反応していいか余計と分からなくなるじゃないか。
「ど、どれにしようかな?」
「これでいいんじゃないか?」
「そ、そうしようか、うんっ!」
と、二人ともロクな落書きもせずにサッと四分の一を選んでしまう。
選ばれたのは、三枚目に撮った、ピースサインをしているやつだ。
「じゃあ、でようか」
「うっ、うんっ」
やった方がやられた方よりも長いこと恥ずかしがるとは。やはり凛は凛のようだな、まだまだお子様な部分が抜けきれていないようだ。
そうして撮影した四枚が並んだプリが出てくる、と同時に選択した写真が二枚、出てきた。
「は、はい、どうぞ」
「おう」
そして受け取ったものを見てみると。なるほど、確かにその質感も含め、写真と謙遜ないな。最近のプリクラはやたらと高性能だ。その分昔に比べて値段も高いものが多くなってはいるが。
そしてゲーセンの外に出て、歩きながら雑談をする。最初はドギマギしていたが、会話をするうちにやはりそこそこ連れ添った仲ということか、変に緊張した空気も溶けていった。
そのうち家の近所の公園につき、もう少しだけ話をしようという俺の提案に乗って二人でベンチに座る。
だがそうしている時間にも限度がある、いよいよ『デート』も終わりの時がやってきた。
辺りはすっかり暗くなっており、街灯がまだ肌寒さを感じさせる夜の住宅街を等間隔で照らしている。
その家々に挟まれた公園には誰にもおらず、俺たち二人の呼吸音だけが静かに響く。
「……じゃあはい、今日はありがとうね! ハジメちゃん、なんだかんだ言って付き合い良いから助かる」
背伸びした格好の幼馴染はようやく熱が抜けたようで、落ち着いた態度と戻っている。
「きにすんな、バレンタインのお返しだし。三月十四日は男が言うことを聞く、そういうもんだろ?」
「あはは、流石の割り切り具合に私的には少し残念かな〜〜って。もう少し恥ずかしがってくれてもよかったんだよ?」
「そうか? じゃあ来年はもう少しそれっぽい演技ができるように練習しておくよ」
「え? 来年もいいの?」
「ああ……だって、こういうことだろう?」
俺は、手に持っていた紙袋から、手のひらサイズの一つの箱を取り出す。
高級そうな深めの藍色をしたそれを、凛に見せる。
「え、なに? ドッキリ?」
「さあな? 開けてみてくれ」
俺は真剣な表情で十五年間共に育った"女友達"の顔を見つめ、それを差し出す。
「う、うん」
そして彼女が受け取り、開けた中身は。
「これって……指輪……」
白いスポンジには、縦に銀色に輝くリングが半分ほど埋もれるように差し込まれている。
「ああ、そうだ。俺からの、ホワイトデーのプレゼントだ」
「え、それって」
「好きだ、凛。付き合ってくれ」
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