第100話突破!!!記念&ホワイトデー❤︎特別編(カクヨムオンリー)その2
「それでどこに行くんだ?」
「うん、まずはここ!」
と凛は最上階まで吹き抜けのようになっている空間を通してあるエスカレーターの前にある、案内板を見つつ指差す。
「えっとなになに……婦人服売り場か」
「そう。貴方には、私に似合う服を選んでもらいます!」
「んまあ、それくらいなら全然大丈夫かな? ただしセンスは期待するなよな」
「ダイジョブダイジョブ、きっと私が映える服を選んでくれるって信じているから!」
とおめかしした幼馴染は一点の曇りもない眼差しを向けてくる。
「ぇえ……」
その自信はいったいどこから来るのか、俺のなにをわかっているというのか。俺よりも俺のセンスを理解しているというならば少し怖いぞ。
そうして四階にある婦人服売り場へ。ここはフロア丸ごと大人の女性向けになっているエリアで、様々なブランドが点在している。客層もやはりその年頃の女性が多く見受けられ、俺たちのようなガキンチョや若い男性は殆どいない。
奥さんに強請られたのであろう、少し疲れた顔をしながら付き添いをしている旦那さんらしきオッサンはいるが。
「まずはここっ」
バッグを腕に下げ、指差すのは俺でも知っている有名ブランドを冠した衣服店だ。
マネキンが着る見るからに高級そうなものから、型落ちだろう商品がまとめて吊り下げられてまで。ブランド自体が極端な高級思考というわけではないので、まずはお手頃価格でという客も引き寄せるためだろう。
だが凛はスルスルと通路を歩いて行き、いきなり高価な服が置いてあるブースへと向かう。
「お、おい?」
「なに?」
「それはちょっと高いんじゃ」
値札をチラリと見ると、数字が五つ平気で並べてある。とても俺たちが買えるような値段じゃないのは明らかだ。
「え? 別に買うわけじゃないし」
「ん? じゃあ何をしにここへ?」
「言ったじゃない、ハジメちゃんに似合う服を選んでもらうためってね。まずはいろんなお店を見て回って、それから予算に応じた服を買い求める。これ女子の常識、覚えておいてね?」
「は、はあ」
え、じゃあもしかしてこのフロアを凛が満足するまで見て回るということなのか。更にその後同じ店にもっかい行くと。女性の買い物は長いとよくいうが、まさか買いもしないであろうものまで見定めるとは、恐れいる……
だが考えてみれば、凛は俺と買い物に行く時はいつもそれほど時間をかけているわけじゃなかった。あれはもしかして、こちらに配慮してくれていたからこそのペースだったのだろうか?
だとすれば、いつも甘えてばかりな印象の彼女も、実は俺と一緒に過ごす時間を大切にしたいがために色々なことを我慢していたのかもしれない。考えすぎかもしれないが、なんとなくそんな気がするのだ、幼馴染故の勘だろうか?
「えっとー、これはどうかな……うーん」
そんなことを考えているうちにも、次々と服を自分の身体に当てては棚に戻しを繰り返す。どうやら先ずは自分の気に入った服を見つけ、その後さらに俺の感想を聞くスタイルでいくようだ。
似合いそうな服持ってきて! と言われるのも辛いだろうが、一着一着確認していくこっちの方法もその分待たされるので辛そうだ。世の彼氏旦那諸君の気持ちが少し分かった気がするぞ。
「あ、じゃあこれなんてどうかな?」
するとお眼鏡にかなう服があったのか、俺の方を振り向いて自分の胴体に服を当ててみせる。
「んー、そうだな」
「あ、待って待って、適当なこと言ったら怒るからね? 私、わかるから。ちゃんと『彼氏』してよね?」
「アッハイ、ワカリマシタ」
あ、危ない、正直女性の服のセンスなんて分からないから、それっぽいことを言ってお茶を濁そうと思っていたのだが。考えがバレていたのかそれとも予めの牽制かは分からないが、先に釘を刺されてしまった。
「んーとじゃあ……」
と選ばれた服についての感想を述べていく。
このブランドはいつも凛が来ているラフなものやファンシーなタイプとは全く違う、落ち着いた雰囲気の服が多いため、見慣れた格好の彼女が様変わりするのを見て感嘆する。
個人的には、こっちの方が凛の見た目からすれば本来の彼女を引き出せて気がするな。幼い気がするのも、服装とその行動が妙にマッチングしてしまっている部分もあったのかもしれない。
こういう服を着て黙っていれば、深窓の令嬢と言われても納得してしまいそうだ。
「じゃあ次これ!」
「はいはい」
「はいは一回」
「ハイ」
そうしてそのお店を見て回った後、次なるお店へ。
と、少し過激な服の寸評も経つつドキドキしたりげんなりしたりと二時間ほどで様々な感情を蓄えた俺は、次なる目的地へと向かう。凛は俺が選んだ服の中から予算に沿った服をいくつかチェックをつけ取り敢えずは満足そうだ。因みにそれはまた後で買いに来るという。マジか。
これを定期的にやれといわれれば俺はきっとシベリアにでも逃げ出してしまうだろう。
さて、お次は六階にある雑貨フロアだ。
一階が丸ごと『ハンモック』というお店の独占テナントスペースとなっており、ここには生活用品からアンティーク、小物、部屋の飾りになるようなものまで沢山の種類の品物が揃えてある。
「ほうほう、これはなかなか」
「ちょっとハジメちゃん、夢中になりすぎっ!」
先ほどの凛と立場が逆転したように、俺は様々な小物を見ていく。ハンモックには久しぶりに来たため、まだ見ぬ商品も多く新鮮な気持ちだ。
商品の置き方も、雰囲気に合わせてまとめてあるので景色の移り変わりも同時に楽しむことができる。
「あ、ごめんごめん、ついな」
「んもう、仕方ないなぁ」
と頬を膨らませつつも許してくれる。相手の趣味がわかっているのも幼馴染のいいところだ。『またか』、とある程度理解をしてくれるからな。ほとんどは俺がそれを思う立場なのではあるが。
するとふと、ある写真立てが目に入った。
なんの変哲もない、木製フレームにガラスの覆いがしてあるよくあるタイプの商品だ。
「どうしたの?」
先に進む凛が、再び足を止めた"彼氏役"に声をかける。
「いや、ちょっと気になって」
「これが?」
「うん」
横に並び立ち一緒になって商品を覗きこむ幼馴染は、それを手に取り形状やら値段やらを確認している様子だ。
「……ねえねえ、ハジメちゃん、これ買って!」
「え? この写真立てをか?」
「うんっ、私、ホワイトデーのプレゼントこれがいいな。それも、ハジメちゃんと二人分」
「俺の分も一緒に?? 何故」
「だって、私たちっていつも一緒にいるだけあって、親が撮ったのも含めて写真自体は沢山あるじゃない? でも、こうして改まっておめかしして、二人きりでお出かけしてってなかなかなかったよね」
「ああまあ、確かに」
凛の格好も、本当に初めて見るような装いのものだし。俺だって一応はと思い格好だけつけてきた。
そもそも凛が改まって『デートしよう』なんて言ったこと自体初めてだ。いつもなんとなしに二人やその家族とお出かけしたり、遊ぶにしても大体おんなじようなことの繰り返しだったし。
もしかすると、俺的に『二人の記念』というものを意識したのは今日が初めてと言っても過言ではないかもしれない。
「だから、これを買って、写真撮ろうよ! 確か、デパートの近くにゲームセンターあったよね?」
「ああ、あったな」
「あそこで、写真に引き伸ばせるプリクラがあるんだ! だから、それとセットでホワイトデーのプレゼント。ね、どうかな?」
「本当にそんなんでいいのか?」
「うん、いいのっ! ハイ、今私が決めましたっ」
「そういうなら、じゃあ」
と、その写真立てを二つ手に取る。
そうしてそのまま、会計に向かう。
「一応ラッピングして貰ったほうがいいかな?」
「お? 気が利くじゃん〜」
「まあでも、なにをプレゼントするかわかっているからサプライズ要素はゼロだけどな」
「それでもいいよ、私的にはその気遣いが嬉しいのです」
「ふーん、そういうものか」
というわけで、俺の分は別として凛のモノはホワイトデーのプレゼント包装をしてもらう。
「あ、渡すのは最後にしてね! 雰囲気も含めてのデートだし」
「はいはい、わかった」
そうして彼女が再び腕を絡めてくる。今日はやたらとボディタッチが多いな。いつもそこそこ多いとは思うけど、今日はそれに輪をかけて積極的だ。彼女なりに『デート』というものをそう捉えているのだろう。
これ、側から見れば俺がいつも爆発しろと呪っているカップルとおんなじなんだろうな……ううーん、なんか複雑な気分だ。
そうして次はということで昼ご飯を食べ、他のフロアも見て回り、大体五時半頃。
「じゃあ私、そろそろ服買ってくるね!」
「お、おう。俺は行かなくていいのか……?」
「うん、いいよ。今日は色々連れまわしてしまったしね」
と凛は俺にだけ見えるようにペロリと舌を出す。
「そ、そうか、わかった。じゃあ先にあの泉んところ行っとくしな!」
「あいあいさー!」
そうして幼馴染は再び婦人服フロアへ。
「…………さて」
ようやく一人きりになれた俺は、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます