第97話
美少女は、身長150センチほどで、茶髪を腰くらいまで伸ばし、右眼には眼帯をつけている。吊り気味の目と眉が特徴的だ。
服装は薄緑色のミニスカートに黒茶色のブーツ、上はこれまた薄緑の半袖に短めのクリーム色のカーディガンを被っており、両腕には籠手を簡略化したようなグローブ。そして背中には、弓矢を背負っていた。
パッと見旅装束のようだ。
「私は『ティア』と呼ばれる世界を救い、この神界に転生した。相方はそれ以前に既に、落札した神によって見せびらかすように食べられていたらしい。というのも、転生した時点では相方がどうなっていたかなんて知らなかったからだ。ティアを管理する神である『ティアマティウス』という男神に直接神界に来た後一連の流れを知らされた。神界に召し上げられた魂は、その前に居た世界を管理している神の部下となるからな。勿論最初にティアに転生する時出会った顔であったから、とても動揺した。あの時とは全く違う者じゃないかと疑ったほどの変貌ぶりだったから」
ミナスが脱ぎ捨てたローブはいつのまにか何処かへと消えており、手ぶらとなった彼女は俺が寝かされていたベッドにゆっくりと腰掛ける。
今までは機械的だった声も、若い女性の声になっており、おそらくはこれが本当のヤツなのだろう。
「だが、ティアマティウスは本当の自分を隠していただけだった。それもだ、ティアマティウスは話をしながらニヤニヤと笑っていたんだぞ? ほとんどの神というのは、嗜虐嗜好が強いのだ。人間の負の感情を浴びることによって喜びを覚える狂った奴らなのだ! そして奴は私が絶望する顔をみて興奮したのか、襲いかかってきやがった。捧げるはずの初めても奪われた後、隔離施設へと移送された」
神がそんな性格を持っていたとは。地球でもこっちでも、慈悲深いだとかよく言われるが、真反対じゃないか。しかも自分の部下を出会ってすぐにレイプするだって?
でも考えてみれば、俺もドルガ様にそれに近い感じで初めてを奪われたな……
「大抵の水差しの魂は、
今まで口調は激しい時もあったが、ほとんど無表情だったカオス--ミナスは、少しだけではあるが悲しみをたたえた表情を見せた。よほどその相方さんと仲がよかったのだろうな。
「じゃあその後どのようにしてカオスに入ったんだ? 話を聞いていると、カオスはお前みたいな神に嫌な目に遭わされた奴らの集まりってことになるんだよな?」
「その通り。『カオス』を構成している神はみな神界の有様に絶望した者ばかり、神達の横暴に耐えるんじゃなく逆らい全てを作り替える為に作られた組織だ。我々には失うものは何もないという強さがある」
「でも、具体的にどうやるんだ? まさか俺たちを襲ってきたような小細工みたいなことをいろんな世界でやっているのか? あまり意味があるとは思えないが」
俺たちを攻撃するくらいなら、力を貯めて一気に神達を襲う方が効率が良さそうだが。
「……今更恥ずかしいが、デカい態度をとってはいたが、私はカオスの中でも下っ端なのだ。それぞれの世界の勇者の邪魔をし、魔王討伐を諦めさせ世界を負の魂との競合によって崩壊させるとともに、我々の目的が何なのか悟られないよう神達の目を欺く目的がある。だが全ての世界でやっていては人手も時間も足りない。そこで、『養殖場』である世界、つまりは神達にとって重要度の高い世界を狙って攻撃を仕掛けていたのだ。そうすることで、より目線を狭い範囲に集めやすくなるからな」
ミナスは頬をポリポリと掻く仕草を見せる。
んじゃあこいつは、カオスの中でも地位が低く、そのため"現地"の工作係を任されていたわけか。じゃあ上にいる者はもっと壮大な計画を立て実行しているということか。
「それで、その間に他の者達はなにをしているか。まずは、これ以上不幸な者が増えないようシステムそのものを構築し直すために、まずは今生きている神々を全員殺し、現存する世界を破壊することが第一の目的だ」
「……え?」
せ、世界を破壊するだって!? 神を諭すわけでもなく、自分たちの手に神界を管理下に置くわけでもない。全てをゼロにリセットしてから改めて神界のシステムを一から創造していくというのか?
「その上で、我々カオスが正しい神のあり方を定め、魂をおもちゃにしないさせない、効率的かつ悪意のないシステムを神界に設定する。そうすることにより、不幸な魂を二度と生み出すことがないようにするのだ」
「おいおい、そんなことをすれば、今あらゆる世界にいる魂はどうなるっ!? お前達が悪く言っている神の行いよりも酷いことになるんじゃないのか? 神がお遊びで魂を喰らったりすることは確かに酷いことだと思う。だけど、自分たちの望む世界を作るために、沢山の命を犠牲にするのは良い犠牲だというのか? それは結果的に、今まで神界で行われてきたことよりもより多くの命を捨てることとなる。例えその後生まれる命が丁重に扱われようとも、一度失われた命は二度と戻ることはない。俺と似た人生を歩んできたというなら、その尊さは理解しているはずだろう」
「まあそう怒るな。まだ魂を破壊するとは一言も言っていないだろう? 早とちりはやめろ。我々もそこはきちんと考えている。器となる勇者の分割された魂は神界で保存されていると言ったのは覚えているか?」
「あ、ああっそれがどうした?」
「その技術を使い、今様々な世界に存在している魂を中間保存施設へと移送するのだ。さらにそれと同時に、現在今ある世界のコピーを作成し、内部設定を書き換え中だ。神々を消し去った後は、その新たな世界と今の世界を入れ替える。そして再び同じ位置に魂を戻すのだ。そうすることにより、魂はそのまま今までと同じ世界に存続することができる。勿論、その内部設定は全く違うものになる予定だが」
つまりは、
保存施設
↑ ↓
今の世界 新しい世界
と魂を巡らせるわけか。
「そんなこと、可能なのか?」
「可能だ。だからこうして動いている。荒唐無稽な計画だとすれば、わたしは今頃死んだ目で仕事をしているか、もしくは精神を壊して永遠に隔離され続けていたであろう。そういうもののための施設もあるようだしな」
口ではいうが、かなり壮大な計画に思える。そんなことを、言っちゃ悪いがテロリストみたいな奴らが多数の神を欺きながら実行できるというのか?
「なあ、具体的に世界はどれくらいあるんだ?」
「ああ、そうだな。ざっと百万と言ったところか?」
「百万!? そんなたくさんのコピーを作成して、さらにその世界に存在する魂を移送することなんて本当に可能なのかよ。いくら何でも無茶だっ」
「しかし実際には、ややこしいのは一万程度だ。先ほど言った地球のような『倉庫』となる世界、これが大体十はある。そして『養殖場』となる世界。これが約一万だ。この二種類は確かに設定が複雑で、そっくりそのまま作り替えるのは大変な作業だ」
「やっぱりそれじゃあ……」
「それでももう七割程度は完成しているし、神界時間でもう三十年もあれば他の百万ほどある世界も合わせて新たな世界の調整が完了する予定だ。あとは、神を殺して神界をのっとればいい」
「それってどれくらいなんだよ?」
「地球時間で三百年ほどと言ったところか? だが私ももうそこでいう五百年は携わっているし、計画自体も六千年ほどは続けられているものだ。既に武力の想定は終わっており、あとはいかに時間を稼ぐかのフェーズへと入っている」
そんなに長い間、計画が進められていたのか。
でもそんなに時間をかけて、神々にバレてはいないんだろうか? 気付きそうなものだが?
「カオスの存在は、神界ではどう使われているんだ? そんな計画、隠し通しておけるものなのか?」
「そこで、ドルガ様なのよ、ヴァン」
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