第88話 (※ヤンデレヒロイン注意)
「ベベベ、ベル、いきなり何を言っているんだ?」
「何って、しらばっくれるつもり? 私が意識を失っている間に別の女と結婚することになったらしいじゃない?」
「!!!!! そそれは……俺だってびっくりしてるんだよっ、陛下も何も仰せにならないし、エンデリシェ様も後で説明するからと仰ってたんだ。だからどうしてこんなことになったのか知らないんだよ! し、信じてくれ」
「何言い訳してるのよ、私は別に今回の件に関してだけはヴァンには怒ってないわよ」
「えっと、それはどういう……」
また喧嘩になるのかと思ったが……違うのか?
「だって当たり前じゃない。陛下もエンデリシェも、私が貴方の婚約者ってことを知っていながら彼女を押し付けてきたのよ? 勿論貴方に責任があるとは思ってないわよ」
「そうか、うん、わかっているならいいんだ……でもそれがどうして、エッチするとかこんな拘束するような真似に繋がるんだ?」
ベルは、ワンピース--というよりネグリジェというやつだろう--を完全に脱ぎ捨て上下水色の下着姿(この世界にはなんと、昔誰かが発明したらしいブラやらが存在しているのだ! 普通は異世界に来た主人公とかが作るパターンな筈だが……今はそれは置いておこう)となっている。そのまま俺の腹の上に跨ってきた。
「お、おい、ベル?」
「そんなの決まってるわ、
あの娘?
ベルは、俺のベッドから見て左奥の方を指差す。
よく見てみると、ここは大神殿のVIPルームとは違う部屋のようだった。その部屋の隅の方に、なんとエンデリシェ殿下の姿があった。しかも殿下は口を縄で塞がれ、両手両足も縛られて三角座りの体形で拘束されているのがわかる。
「見せつけるって、もしかして」
殿下の方を見ると、彼女はどう対応していいのかわからないようで目だけで何かを訴えてくる。だが俺もそれを読み取れるわけではなく。
「そうよ、私とヴァンが愛を紡ぐところをよ--」
「むぐぐっ!」
するとベルはそう言った後、すぐさま俺の顔に覆いかぶさるように上半身を倒し、唇と唇を合わせてきた。
「ふぉ、ふぉいっ!」
「んちゅ、ふぁっ♡」
殿下の目の前で俺に絡みつくようにキスをしてくる。頭の上とベッドの左右に"人の字"のように手と足を縛り付けられている俺は、みじろぎ一つ取れないので抵抗できない。
辛うじて顔を避けようとするが、それも両頬を手で押さえるようにして前を向かされ意味を為さなかった。
「んふぅ、
「んんんんん!!」
続けて俺の上半身を脱がせにかかってくる。いつのまにか薄手の布一枚となっていた故、簡単に捲り上げられる。そしてそのまま、ベル自身も裸になってしまった。
「ちょ、それはまずいって! 第一ここはどこなんだよっ、誰か来たらとんでもないことになるぞ、わかってるのか!?」
「あら、なんの心配をしているのかしら? 私たちの行為が見られること? それとも殿下のことをかしら?」
その名前を呼ばれちらりと部屋の隅で拘束されたままのその人を見る。が涙目になりながらみじろぎして脱出しようとしているようだ。しかしその拘束も結構強固にされているのか芋虫が蠢いているようにしかなっていない。
「--それは勿論、ベルの裸を他の男に見られたく無いからだっ! 殿下のこともこの状況も見られたら相当な騒ぎになるけど、一番はその身体を俺以外の人間に露わにするのをやめて欲しいからだ!」
俺は本心を告げる。本当ならば叫び続けてでも誰かの助けを呼ぶべきなのだろうが、俺はなぜか自分やエンデリシェ殿下のことよりも、ベルの今の姿を他人に見られたくないという思いが一番強かったのだ。
「えっ」
目の前に居座る勇者様は、驚くように目を見開く。こ、これはもしかして説得する好機か?
「殿下の件に関しては本当に何も知らない。そもそもベルが起きるまで俺も寝ているつもりだったんだよ。だから隠していたわけじゃないことはまず信じてくれ。その上でそもそも何故こんなことをするんだ? 陛下にどのようなお考えがあるのかはわからないが、俺を拘束したところで状況が今すぐに変わるわけじゃ無いだろ。ほんといつものベルらしく無いぞ……まさか魔族やらに精神を操作されているんじゃ無いだろうな!?」
もしそうだとしたら、組み敷かれている今のこの格好はかなりまずい事になる。俺は先ほどのキスのせいで生まれたドキドキを無理やり収め戦闘に入ったときの為に己と殿下をどう守るか頭を働かせ始めた。
「……ふうーん、ヴァンはやっぱり、私のことわかってるようでわかってないんだね」
「な、なに?」
「まず、さっきも言ったけど、私は魔族でも無いし、誰かに操られているわけでも無いよ? 正真正銘、本物のベル=エイティアの肉体と精神そのものだわ。どうしてこんなことをするかって? それは決まっているじゃないの」
ベルは鼻と鼻がくっつくくらい顔を近づける。
「私の全てはヴァン、貴方のために動いているのよ。世界を救ったのも、旅を続けているのも、全ては私とヴァンとそして二人の間にできる家族が幸せに作れる世界を作るため。それを邪魔されるというのなら……今から、ヴァンの身体を私以外の身体で満足できないようにしてあげるわっ……っ!」
「はっ? ……!?」
そう言うと、なんとベルは俺の上から退くどころかそのまま行為を始めてしまったのであった。
「ふう、これでしばらくは持つわね」
「ベル……本当何故急にこんなことを……殿下に見せつけて何の意味があるんだ?」
結局四肢を拘束された俺は抵抗することもままならないままさせるがままに最後までしてしまった。
殿下の様子を伺うと、俺たちのことを見て心が折れたのか、それとも怒りを抑えているのか。電池が抜けた人形のように項垂れているのがわかる。
「それに、結局最後までしてしまって。もし子供ができてしまったらどうするつもりなんだよっ」
「何言ってるの、そんなの受け入れるに決まってるじゃない。それに私、今日はあの日だし」
「えっ!!!!」
なんだって!?
「そして--誕生日おめでとう、ヴァン、私もっ!」
「え?」
ベルは今ほどの発言をなんでもないことのように流したあと笑顔でそう告げる。
誕生日……? そういえば、思い出すと確かに昨日は誕生日の前日だった気がする。ここ最近は忙しくてそんなこと考える暇もなかったからな。つまり既に日付が変わったということか。
因みにベルと俺の誕生日は同じ五月二十一日だ。何の因果か、前世では同じというではなかったのだが、今世では遂に誕生日まで一緒になってしまったのだ。
「と言ってももう直ぐ終わりだからね。貴方が起きるのが遅かったから
それは、アレのことだろうか? 誕生日だから仲良くしましょう……ってわけでもないよな?
だって俺と殿下を拘束してまで暴走したように求めてきたのだから。
だがそれもすぐに分かった。
「ヴァンからの誕生日プレゼントは二人の子供。私からの貴方への誕生日は貴方と私、二人だけの生活よ♡」
「二人、だけの?」
俺がそう返すと、一瞬にして目の前が再び真っ暗になった。
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