第67話
旅を続けて一週間。転移を繰り返しながら、村や街を転々としながら六つほど。そのどの町村でもやはり勇者様と言う名は知られているみたいで、魔物を退治したり、頼まれてきた救援物資を俺の倉庫魔法で届けたりと。感謝されっぱなしである。
他にも旅の中で俺は、持ち前のクリエイトのスキルでさまざまな能力を創り出しながら、パーティの万能担当として旅を続けていた。
そしてまずは、俺の故郷、そしてベルの第二の故郷であるナイティスの村に辿り着く。因みに王都から南に百キロほど離れた場所にあるのだ。
お母さまたちは元気だろうか? 王都に来てからはなかなか出会う機会もなく、先日の出立式も手が離せない用事が出来たとかで顔を見ることも叶わなかったからな。
「着いたぞ! ここだ! ……あれ?」
騎士爵領ナイティスにはいくつかの村落があり、一番大きな中心となっている村のことをナイティスと呼んでいる。その付近へついたのだ。
いきなり街中に転移したら驚かせてしまうので、少し離れたところに転移して様子を伺いつつ入村するといういつもの格好を取ったわけだが。
なんだか村の様子がおかしい。やけに静かで人っ子一人見えやしないのだ。畑に放置された動物が呑気に草を毟っているくらいか。
そして歩いて村を囲う柵の一部に開けられた入り口へ辿り着く。が、やはり村人の気配はない。いや、待てよ?
「なあ、物音は聞こえるよな」
「ええ、家の中に誰かいるんじゃないかしら?」
「人間の村というのは何故こうも場所によって雰囲気が変わるのじゃ?」
「今はまだ混乱している状況だから仕方ないわよ、それよりも何かあったのかも?」
「確かめてみようか。すみません、誰かいらっしゃいますか!」
ジャステイズが率先してそのよく通る声で呼びかけてみる。が、返事はない。
「誰かー! 勇者一行です、お困りのことがありましたらなんなりとお申し付けください!」
続いてドルーヨが商人らしい野太い声をだす。
すると。
――――ヒュッ
「!!」
ガキンッ、といきなり飛んできた矢をジャステイズが剣で弾き飛ばす。
「なんだなんだ!?」
また飛んできた矢を今度は俺が防御魔法で地面に落とす。
「気をつけるのである、敵襲であるぞ!」
デンネルが辺りを見回しているが、人影は見えない。
「……アレを見て!」
すると、エメディアが村の中に建っている家屋を指差す。
「ん?」
よく見ると、入り口一番手前の家屋の窓が少しだけ開いているのがわかる。その隙間はギリギリ腕だけを出せるくらいなので、中の様子を伺うことはできない。
――――ヒュッ
「!! あそこだ!」
三度飛んできた矢を落とすと、そのまま皆で体形を整えながら村の中へと入る。そして家屋の前にやってくると、ベルが扉をコンコンと叩いた。
「ごめんください! 私たちは勇者一行です。攻撃しないでいただけますか! 皆さんを傷つけたりはしません、何があったのかはわかりませんが、ご安心ください」
念のため皆武器を手にしている。もし万が一盗賊などが紛れ込んでいた時にすぐさま殺せるようにだ。だが勿論なんらかの理由で村人が矢を放った可能性もあるのでいきなり攻撃したりはしないが。
だがしかしベルの呼びかけには、中からの返答は一切ない。
「一体なんなんだ、いっそ蹴破って入るか?」
「我が燃やしてもいいんじゃぞ?」
「いやいやいや、それはダメだからっ」
「仕方ないけど、解錠魔法を使わせてもらうか」
俺が
「開けていいか?」
「良いんじゃない? どっちみち向こうから攻撃してきたのだから」
「んじゃあ……」
そしてドアのレバーを手に持つと。
ガタガタガタ、と村中から音が響き、周りの建物の窓が一斉に開いた。
「そこまでだ! 観念しろ!」
おおっ!?
「貴様らは包囲されている。大人しく武器を下ろして投降するのだ!」
見ると、こちらに向けて一斉に矢が向けられているのがわかる。数十本の矢が、今か今かと対象を貫く瞬間を待ち望んでいた。
「まってください! 我々は本当に勇者パーティです! そちらこそ、このような真似はよして下さい!」
ミュリーが武器を両手で握りしめ叫ぶが、村人は一方的に喋ることが目的のようで無言だ。
「……うてっ!」
「むっ、くるぞっ!」
俺は慌てて周囲に防御魔法を展開する。カンコンカンと金属の響く音がなり、矢は壁に遮られたかのように急激に勢いをなくして地面にパタリと落ちた。
「みんな聞いてくれ! なんでこんなことをするんだ? 俺だ、ヴァン=ナイティスだ。父ヴォルフと母マリアの息子だ!」
「なにっ?」
「すまない、兜を被っていたからわからなかったようだな」
俺は今頃になって、俺たちのほとんどの顔が装備によって見えないことに気が付き、それぞれが慌てて被り物を脱ぐ。
「見てあの顔、本当にヴァン君じゃないかしら?」
「なあおい、あれはベルちゃんじゃないか?」
「確かに二人にとてもよく似ている」
似ているも何も俺たち本人なのだが。
「えっ、じゃあ本当に勇者様御一行?」
「だが今度も奴らが変装しているのかも……」
変装? 誰がそんなことをしているんだ?
「確かめてみればいいじゃないか」
「……そうだな。ゴホンっ。ヴァンを名乗るものよ!」
「は、はいっ」
村人たちは相談し終わったのか、リーダー格の者らしい人物が俺に向けて声をかけてくる。返答如何で今後の対応が変わることは間違い無いだろう。
「屋敷で世話をしてもらったメイドの名は?」
「そ、ソプラだ」
「最後におねしょをして村人に揶揄われたのは?」
「……十二歳だ」
「えっ」
「ヴァン、それは本当なのか」
「あ、あの時は仕方なかったんだよ!」
「それじゃあ、お主の一番好きな女性は?」
「それは勿論、ベルだ! ベル=エイティアに決まっている」
そうキッパリと答えると、村人たちは再びザワザワと会話をする。
「……あいわかった、しばし待たれよ!」
すると奥の方にある建物からリーダー格の男性が飛び出し、村の中心方向へと走っていった。あれは確か、狩人のおっちゃんじゃなかったか?
念のためにか、俺たちの方へ矢を向け続ける護衛付きだ。
「なんだか大変なことになったいるようだわね」
「そうじゃなあ、我もそんなに多くの人間の集団を見てきたわけじゃないが、ここまで緊迫した感じなのは初めてじゃな」
ルビちゃんの言う通り、少しは信じてもらえたのか先程よりも向けてくる矢の数は減ってはいるが、それでも俺たちが何か少しでも不穏な動きをすれば途端に本格的な戦闘になりそうな雰囲気だ。
そして十分ほどしたのち、先程の男性が戻ってき、再び元の建物へと入っていく。
そして次に、一本の剣を手にこちらへと歩み寄ってきた。勿論武装した複数の護衛付きである。やはり見知った顔だ。
「スナイプのおっちゃんじゃないか、久しぶりだな」
「……これに見覚えはあるか?」
そう声をかけるが、おっちゃんは苦々しげな顔でスルーした後、そのまま剣を突き出してくる。
「この剣は確か、俺が昔よく使ってきた」
「!! 覚えているのか?」
「え? 勿論だとも。ベルともよくこれを使って訓練したよな?」
「うん! ヴァン、そんなことまで覚えてくれていたんだね」
「ベルとの思い出はどんなことでも大切なことだからな。当たり前だ」
「ごほん! どうやら、本当にヴァンのようだな。俺の名前も知っているということは、間違えないと考えていいだろう」
「どうしてそんなに警戒しているんだ? 俺は俺だし、ベルはベルに決まってるじゃないか」
「詳しいことは中で……良かった、本物で」
どうやら、事情があるようだ。ここは文句をいうのではなくまずは詳しい話を聞くべきだろう。
「ああ、わかった。みんなも一緒で良いんだよな?」
「勿論。ただ武器はこちらで預からせてもらう、すまないな」
「いや、良いさ。何かのっぴきならない事情があるみたいだし」
そして村人たちに武器を預けた後、村の中央付近に建っている俺の実家、ナイティス騎士爵家本邸へと向かった。
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