旅立ち

第66話

 

 次の日、俺たちはいよいよ旅に出ることとなった。


 ルビちゃんも里に帰るまでは同伴するというので、七人パーティが八人パーティとなり、奇しくも本来のベルたちのパーティと同じ人数ということとなった。


 ルビちゃんには最初は一人で帰ったらどうかと訊ねはしたのだが、俺たちに興味が出たのでついて行く、それに助けてくれた恩義も少しは感じているからと言うので同行を許可したのだ。


 それならば直接転移できないにしても近くに行くことはできるし、ドラゴンの巣の場所を教えてくれたら早く帰れると思い聞いてみたのだが。その場所のことはドラゴン族以外に対しては誰に対してであろうとも決して口外してはならないというので、その場所の付近に来たら彼女は離脱するつもりだという。


 そして元々メンバーであったアクーダ=オイディオという男性と、マレイ=ノマという女性。二人はもうこの世の中にはいない。どうやら旅の途中で命を落としたらしいのだが、ベルは時が来たら詳しいことを話すと言ってその経緯は未だ説明してくれていないのが少し気がかりだ。


「それでは行ってくる、そっちも頑張れよ!」


「はい、お任せください。必ずや勇者様方のお助けになりますよう頑張らせていただきますゆえ」


 中庭には、ドルーヨ他数人の要人が見送り係としてこの場に同伴している。既に勇者パーティ出立の儀式は済んでいるからだ。


 グアードら国軍も俺たちが城を離れたらすぐに出立するというから正に戦力面でも大掛かりな軍事行動となる。


「勿論一番は民の助けになることが最優先よ。私たちも一人でも多くの無辜の民を救えるよう旅に全力を注ぐわ」


 俺たちは西回り、国軍は東周りで土地を魔物や魔族の手から"浄化"していく作戦だ。




 このファストリア王国は中央大陸のさらに中央付近を陣取る大国であり、王都もそのまたさらに中央にあるという立地だ。なのでまずは王都の近くにある都市から順に、外へ向かって進んでいき。次に西にある大陸へ渡ってそれぞれの国と連携をとりながら徐々に人間の勢力範囲を取り戻していこうという寸法だ。


 既に各国には連絡を取り粗方了承を得られているし、何より西大陸にはジャステイズとエメディアの故郷であるフォトス帝国が存在する。

 フォトス帝国は西大陸の南寄りになるので、当面はそこへ向けての進攻となるだろう。


 なお、南にも大陸が存在するのだが、彼らは魔の脅威から最も遠い立地ということもあって静観を決め込んでいる様子だ。魔物なども殆ど出現しておらず、他の大陸とは少し事情が違うため今回の旅ではもし寄れれば程度の場所となるだろう。


 いずれにせよ、最終的には北大陸の北端に存在する元魔王の本拠地を占領することがゴールだ。旅路が何年かかるかはわからないが、出来るだけ急いで進んだベルたちでも二年ほど掛かったので今回はそれ以上を見込んでいる。


 ベルの転移魔法が有るとはいえ、あくまで困っている人々のために魔物などを掃討するための旅で有るため、ちゃっちゃと魔王城へジャンプ、という訳にはいかない。

 やはり今でもベルたち選ばれし者の力を欲している人たちは多いのだ。




「皆様、どうぞご無事で」


 一人一人と握手をしていく城の要人たち。


「はい、そちらこそ」


「お主ら軍人たちも期待されているのである、国のため家族のために戦う姿はきっと未来永劫称賛され続けることであろう」


「僕の商会もサポートさせていただきますので、ご安心ください」


「バリエン王国のこと、よろしくお願いします。国民の皆さんはいい人達なので、一人でも多く助けていただければ幸いです……」


「そうだな。今回は僕たちの故郷へ向うこととなるけれど、ミュリーの故郷もなんとか耐え忍んでいるんだ。体を分裂させたいくらいだが生憎できないのが残念だ」


「大丈夫よ、ミュリーが信じていれば、きっと皆助かる。想いは強さってね。ですよねグアード元帥さん」


「ええ、勿論ですとも。我々も緊密に連携を取り合って世界のあらゆる人々の一助となれるよう邁進してまいりますので」


「人間の別れとはなんともしみじみとしたものだのう……ドラゴン族はもっとパーっと騒いでドッタンバッタンなんじゃがな」


 ルビちゃんは長めの挨拶に少々辟易しているようだ。


「だがついてくると言ったのはそちらなのだから仕方ないだろう。これを機に異文化ならぬ異種族交流と洒落込んでもいいじゃないか」


「ううむ、どうも我はじっとしているのは性に合わんみたいじゃな。これも拘束されていた影響なのかのぉ」


 彼女は腕組みをし、ハァと息をはく。


「それじゃあ、行ってきます!」


 そうしてベルの転移魔法によって、最初の街付近へと向かった。





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「ルビーは何をしておるのだ! 成人した瞬間里を出て行きおってかれこれ一ヶ月……まだ仕事も与えておらんというのに、どこをほっつき歩いておるのやら」


 お爺様は、ゴウ、と鼻息荒く話をされます。


「まあまあお父様。ここは落ち着いてください。今里のものを出して捜索しておりますので」


「何を呑気なことを! あやつの性格は父親であるお主が一番わかっておろう。我がままで自分勝手、それでなくても甘いものには目がなく喧嘩っ早いときた。まるで子供のまま大人になったようなものだ!」


「お爺様……申し訳ございません、私たちの教育が足りていなかったばかりに」


 お父様とお母様は萎縮し、共に頭を下げます。勿論私も一緒にです。


「もし、もし万が一のことがあれば……いくら我が直系の血筋とはいえ、まだまだ生きる術を身につけたとは言い難い。ここを去る前もそろそろ自立しろという意味で成人を認めたのを、一人前と認められたと勘違いしておるような態度だった。他の里のものに何かされてなければ良いのだが……」


 お爺様も、キツい言い方をなされてはいますがその実ルビーお姉様のことが心配なのですね。よくわかります、その気持ち。


 ああ、私のお姉様、一体どこへ行かれたというのでしょう。


「……よしわかった。ワシが出よう!」


「「「お爺様!?」」」


「さっさと見つけ、首元引っこ抜いて連れ帰ってやるわ!」


「ちょ、ちょっと待ってください。ガーネットお母様、トパーズお父様。それにミスリルタイトお爺様。ならば私が探して参ります!」


 私がそう宣言すると、三人とも目を点にして私のことを見つめます。


「ルビー、一体何を!」


「そうだわ、危険よ! 貴方もまだ成人したばかりじゃない!」


 両親が慌てて娘のことを押し留めようとします。


「いいえ、確かに私も成人したばかりとはいえ、お姉さまよりはしっかりしていると自負しています。迷子になったりしませんからご安心ください」


 お姉様の面倒は昔から私が見てきたのだ。この前一緒に成人して以降も、これからも私が見ると決めたんだから。


 それに、私というものがありながら黙って里を去るだなんてお仕置きをしなきゃいけませんしね。


「さ、サファイア、どうしたのだ? なんだか目が怖いのじゃが……」


「いいえ、気のせいです。これは私が片付けるべき問題だと再認識しただけですから! よろしいですか、お爺様?」


「むむう、確かにサファイアももう成人をした。ルビーとは違い、外の世界を知るに足る度量は持ちあわせているとワシも思ってはおるがの」


「では、構わないではありませんか? 里の皆さんにも、私の方がお姉ちゃんっぽいっていっつも言われているんですよ?」


「そういう問題じゃないだろう」


「そうよそうよ」


 お父様はそれでも引き留めたいみたいですね、そうだそうだとお母さまも翼を広げ言っていますね。


「お爺様、今お決め下さい! こうしている間にも、お姉様が危ない間に合っているのかも知れないのです。お父様たちよりも、私の方が身動きを取りやすいのは事実ですし」


 と再度、お爺様の目を真剣に見つめ返答を待つ。


「…………そうじゃな、認めよう! お主の目からは、タダならぬ想いが伝わってくる。その想いはきっと強さに繋がるであろう。家族の血を大切にする我らエンシェントドラゴン族において、その心意気は尊重されるべきである」


「「お父様!?」」


「これは、里の長としての最終決定事項である。異論は認めん」


「そ、そんな……」


「あっ、おいっ」


 お母様がヨヨヨ〜と倒れ伏してしまわれます。しかし、これはもう既に今決まったこと。ご心配をおかけすることもあるかも知れませんが、必ずやこの役目果たして見せましょう。




 待っていてください、お姉様。必ずや、見つけ出して見せますから!!


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