第54話
続いては民衆に向けて再び旅立つことを宣言する。
バルコニーには、俺たちと共に王国の重鎮が並ぶ。中には、珍しいことに第三王女殿下、つまりはエンデリシェ様も加わっていた。別のルートからここに現れたため理由はまだ聞いてはいないが、もしかして俺たちを見送りたい気持ちがあったのかな?
「聞け、民よ。勇者はその責を終えたにも関わらず、再び人々のために立ち上がると言った。皆でその勇姿を讃えようではないか!」
陛下がまず最初にそう述べられ、続いてベル達が前に出て手を挙げると、バルコニーの下の広場に集まった満洲からワアアアアアア!!! と歓声が湧き上がる。
「皆、よくぞ集まってくれた! 私は今から魔王軍残党の討伐に向かう! 魔王の脅威は去ったとはいえ、未だに魔物による襲撃で苦しんでいる者は沢山いるはず。人々に真の平和が訪れるよう、力の限りを尽くす所存だ。そして貴方達一人一人も共に戦って欲しい。知り合いを、家族を笑顔にし変わらない日々を送る。助けが必要な人に手を携え絆の輪を作る。その行いが、我らパーティの力になるのだから!」
ベルはいつしか見たように堂々と演説をする。今度はもう身を隠すことはなく、兜を被らずに声も変えることなくその整った顔を惜しげなく披露している。
「ここに、新たな仲間を紹介しよう。王国国軍指導官にして、私の婚約者であるナイティス騎士爵家嫡男のヴァン=ナイティスだ!」
ざわざわ、と歓声とは違う人々のささやきが聴こえてくる。
「皆さんこんにちは、ヴァンと申します。この度国王陛下からの勅命によって勇者パーティに同行することとなりました。勇者様とは昔からの知り合いであり、婚約者ということもあって彼女のことは誰よりも理解しているつもりです。残念ながら魔王軍討伐の時には支えになることができませんでしたが、今回はその旅路をしっかりとサポートしていくつもりです。勇者様共々応援よろしく!!」
当たり前であるが、指導官と言っても俺のことを知る者は少ない。そのような役職がある事を認識している民自体ほぼいないだろう。いきなりぽっと出てきた男を不審に思う者もいるように感じられるがそこは仕方のないことだ。
すると国王陛下が再び声を発せられる。
「ヴァンは本人もいう通り、勇者のことをよく理解してくれている。また、第三王女エンデリシェからの信頼も篤いためその身分は国が保証していると考えてくれて結構だ。また二人の婚約は我ら王家が保障するものでもある。彼らが無事に帰ってきたその時には国を挙げて盛大な結婚パーティを開こうではないか」
陛下は俺たちの結婚を政治利用する気なのか。だがその分今代の勇者を庇護下に置く国としての力が増すし、他国による蠢動で俺たちの仲が引き裂かれる確率も減るので悪いことではない。多少目立つ立場にはなるだろうが、今この時点で既に大分目立っているため今更だ。
「ここにいる7人は、それぞれが見ただけではわからない素晴らしい力を有している。必ずや皆の期待に応えてくれることであろう。さあ、もう一度送り出す声を持ってその勇気ある旅立ちを讃えようではないか! 正に、彼らこそが真なる意味での勇者なのである!」
ーーウオオオオオオオオ!
最初に聞いた時よりも怒号に近い歓声が挙がる。今代の国王陛下は民からの支持も多いため、その言葉の意味を噛みしめ本心から声を出している者が沢山いるはずだ。
「では、彼女らにはここで引いてもらう。続いては、勇者パーティと同じく魔王軍残党の討伐遠征に向かってくれる国軍の代表者を紹介する!」
軍人達が俺たちと入れ替わるようにバルコニーの前面に立つ。そしてすれ違ったグアードは俺の肩に手を置きニヤリと微笑んだ。
「期待しておりますよ、指導官どの」
「ああ、そっちこそ死ぬなよな」
「まさか、今の統率力のない魔物や魔王軍に負けるほど、我が国軍は弱くはありません。ましてや、その力を引き出してくださったのは他でもないヴァン様ではありませんか」
「はっ、まあそうだな。俺からすれば、まだまだ生温い感じはしているが」
「これは手厳しい、帰られた暁には、またご指導を願えますかな」
「仕方のない奴らだ、だが個人的にはそんなことをしなくても余力のある状況になることが一番好ましいとは思うが」
これ以上鍛えなくてもいい平和な世の中になることは国民一人一人が、いや世界のすべての人たちが望んでいることではなかろうか。
俺たちは今からその世界を"創り"に行くのだ。魔の力がもう二度と不幸な人を作り出すことのないように……
グアードが演説をし始めたため、俺はその場から離れ、皆と合流した。
夜、前夜パーティ会場。ここには中位から高位貴族達に富豪などいわゆる上流階級の人間が沢山だ。
勿論国王陛下たち王族も参加している。ま、彼らは会場奥にある一段高くなっているステージでじっとしておかなければならないため参加しているとは言い難いが。
「勇者様頑張ってくださいまし」
「ジャステイズ殿には今度お国のことを教えていただきたく」
「ミュリー様は普段どのようなお着物をお召しでして?」
等々再び戦地に赴く勇者達に気を使うフリをして様々な情報を引き出したり交流関係を構築しようとしたり、まあ貴族というものはいつ何時も己と己の家の利益を求めるものだ。
「ヴァン様はいつから勇者様とお知り合いなので?」
かくいう俺のもとにも、ベルのことを探ろうとする腹黒どもがそれとなく話を聞き出そうと寄ってきているのだが。
「まあ、昔からですね。俺も一応は貴族の家の出なので、同じ貴族として顔を知っているのですよ」
「ですが勇者様は婚約者だと仰ってましたわよね、それにプリナンバーならば家ぐるみの付き合いもあるのでは?」
「まあそうですね、昔は時たま交流がありましたが、ベルが勇者に選ばれてからは会ってなかったので」
「まあ、それじゃあ数年越しの再会でしたのね! 素敵だわ〜」
貴族達は俺たちが婚約者である理由が知りたいのか? それとも家同士の付き合いに滑り込みたいのか。
プリナンバーの影響力は時代によって少しずつ変遷してきているとはいえ、富と共に名誉を何よりも重んじる貴族の世界においてはその称号は計り知れない価値がある。そしてその家と懇意にしている家という肩書もだ。
なので俺の生まれであるナイティス騎士爵家やベルのエイティス男爵家のような、その時々の当主の判断によって晴れ舞台から段々とフェードアウトして静かに過ごすようになっていった家に対しても、『初代勇者パーティ』の家柄であるという歴史的事実からくる価値を求める者はいるのだ。
もちろんそれ以外に関しては、王家や王妃の家系、ジャステイズの帝国家など今も表舞台で活躍をしている数字が若い順の一族に比べると権力も富も天と地ほどの差があるわけだが。
簡単に言えば俺たち数字の遅い順は企業コラボに使われる創立だけは古い老舗のお店みたいなものだな。
「きゃあっ!」
貴族達と中身のない上での腹の探り合いのような下らない会話をしていると、突然会場に悲鳴が響き渡った。
「なんだ!?」
腰の剣に手をかけそちらを見ると、勇者パーティの一人、賢者ミュリー=バリエンが床にへたり込んでしまっていた。
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