第38話

 

 ――――コンコン


「はい!」


 ドアが叩かれ、ベルが返事をする。


「ベル、僕だよ」


 この声は……


「ドルーヨ?」


「ああ、そうだよ」


 やはり、ドルーヨさんだ。


「分かったわ、今開けるから」


 ベルはそう言うと、ベッドから立ち上がり、部屋のドアをゆっくりと開けた。


「やあ、先程ぶり」


 そこには、笑顔のドルーヨさんがいた。


「お帰り、報告は無事に済んだの?」


 ベルから聞いた話だが、今回の件に関しては話の上手いドルーヨさんが纏めて報告してくれたとの事だった。


「ああ、陛下曰く反乱については全く知らなかったとのことだ」



 ドルーヨさんは部屋の中に入った後、ソファに腰掛ける。そして陛下へした話とやらを俺たち二人に聞かせる。



「へえ、そうなんだ……ヴァン、どう思う? 本当かな?」


 ベルは話を聞き終えた後、陛下の態度について問うて来た。


「うーん、俺自身、グアードの奴から聞いたからな。そもそも今回の作戦は、俺が言い出したことには間違いないから。俺には、陛下が知らなかったかどうかというのは判断しようが無い」


 勿論、ベルには既にコトの経緯を伝えてある。まあ、こってりと絞られた訳が……


「そう、か。わかりました、ありがとうヴァン君。ベル、パレードについては中止するのだそうだ。バルコニーから演説をして終わりだと仰せられていた」


「……そうなの。分かったわ」


 俺はパレードのことを知らなかったのだが、ベルから聞いた後凄く後悔した。テナードめ、こんなタイミングで攻め込んで来やがって! ベルの勇姿を見れなくした罪は重いぞ!


「ヴァン君も、良かったら見に来てくれ」


「勿論、来るわよね?」


 ドルーヨさんとベルは、俺に向かって戦勝報告を見に来てくれと言う。当たり前だ、魔王が無事滅ぼされたのだから。見に行かなくてどうする!


「ああ、見させてもらうよ! 人々の希望を乗せて、魔王を倒した勇者様のお帰りをね!」


 ……俺は2年前のことをふと思い出す。そう、俺が勇者じゃなかったことを決定付けられた瞬間をだ。もう、割り切っていると自分自身思っているのだが……


「ヴァン?」


 ……ハッ!


「ああ、な、何だ?」


「どうしたの? 急に真顔になったりして?」


 ベルが心配そうに俺のことを見つめてきた。


「嫌、何でも無い。気にしないでくれ」


 そう、気にするようなことじゃない。ベルの手によって魔王が倒され、世界に平和が戻ってきた。そのことを素直に喜ぶべきなのだ。誰が勇者に選ばれようと、やることは一つだったのだから。戦争とは、過程よりも結果が大事なのだ。力のない者が無茶をし、戦局を混乱させる。今回は人間が相手じゃ無い。ドルガさんから選ばれなかった、つまり結果を出す能力が無い俺に問題があるのだ。


「…………」


 ドルーヨさんは何故か少し申し訳なさそうな顔をしている。


「? ドルーヨ? あっ……」


 ベルも俺から慌てて顔を逸らす。そのような反応は求めていないのだがな。


「やめてよ、ベル、ドルーヨさん。俺はもう気にして無いからさ!」


 俺は出来るだけ元気な声でそう言う。


「……そうですか。ベル、そういう事だから、僕は一度違う部屋に行かせてもらうよ。そうだ、そろそろデンネルの事を迎えに行ってはどうだい?」


「あ、そうだわ。ヴァン、デンネルが王都へ向けてテナード侯爵を運んでいるの。少し迎えに行ってくるから、待っててくれる?」


 ベルはこちらを向き直し、事の元凶であるテナード侯爵を連れてくると言う。


「ああ、勿論。ドルーヨさんも、お疲れ様でした。助かりました、ありがとうございます」


「いや、出来る人が出来ることをすれば良いだけですから」


 ”出来る人が出来ることを”、か。俺が今後できる事は、何だろうか? まずは当面、ベルに優しくする事くらいかな……恋人としても、婚約者としても、愛想を尽かされないようにしないとな。


「そうですね。俺も頑張らないと!」


 俺は先程のモヤモヤした気持ちを吹き飛ばすかのように、握りこぶしを作り力を込めた。よし、俺の仕事はこの部屋でベルを待つ事だ!


「ヴァン、またゆっくりと、ね?」


 ベルはウィンクをする。可愛い。


「え? あ、ああ。そうだな」


 突然の攻撃に少し戸惑ってしまった。まだまだ慣れないな。子供じゃあるまいし、これくらいの事でドキドキしていては心が持たない。


「じゃ、私はこれで失礼しますね」


 そうこうしているうちに、ドルーヨさんが部屋から出て行った。


「ヴァン、私も」


 ベルも転移魔法でどこかへと消えてしまう。俺は一人佇み、ソファに座りなおした。


「……はあ、しっかりしろよ、俺。助けられてばかりじゃ無いか……それにしても、あの光は一体……」



 俺はベルの帰りを待つ間、俺の両手から発せられた光について、一人考えを巡らせるのであった。

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