つかの間の日常

第37話

 

 モゴモゴ……


「んん……」


 くちゅっ……れろっ……


「んんん……!」


 んはぁっ……


「ん……」


 口の中に違和感を感じる。何かが蠢いている?


 俺は、自らの舌を使い、口の中の状況を確認しようとした。すると、



 ぬちょっ



「あんっ!」


 え?


 誰かの声が聞こえた。俺は続けて舌を這わせる。


「あっ、あっ、あっ」


 舌が滑りとした何かに触れるたびに、頭の中を刺激する甘い声が聞こえてくる。俺は漸く動くようになった瞼をゆっくりと上げた。


「らめっ、あっん、ああっ!」



 目の前には、蕩けきった顔をしたベルがいた。



「べ、ベル!」


 俺は慌てて後ずさろうとする。しかし頭を何かにぶつけてしまった。


「いてっ!」


 ちらりと確認すると、どうやらベッドのヘッドボードにぶつかったようだった。という事は、俺はここで寝かされていたということか。しかし、何故か俺の上にはベルが体を重ねるようにして乗っかっている。一体どういう状況なんだ?


「ヴァン、も、もっと」


 ベルは涙目になりながら、俺の顔に再び近づき、舌を俺の口内に侵入してきた。


「むぐっ!」


「はあっ、れろっ……」


 舌を這わせつつ、唇をグリグリと押し付けてくる。柔らかい感触と唾液の滑りとした感触が混じり、俺の意識までも蹂躙する。


ふぇるベル、やろ!」


ひやっ嫌っもっほひゅりゅにょもっとするの!」


 舌を這わせているせいか、ベルは上手く喋ることができていない。だが辞める気がないことは伝わってきた。


 くっ、かくなるうえは!



 ちゅるるっ!



「ひゃああ!」


 俺は勢いに任せてベルの舌を吸った。するとベルは身体をビクビクと震わせ、先程よりもさらに危ない方向へ表情を崩壊させた。



 じゅるっ、れろれろ……



 俺はお返しとばかりにベルの舌を弄る。


「やっ、やっ、ら、らめえええ〜〜!」


 そして遂に、ベルは全身をのたうちまわらせながら、天に昇りつめてしまった。よし、俺の勝ちだ!


「はあっ、はっ、ああっ」


 ベルは俺の口から舌を抜き、俺の胸の上で震え続ける。


「……ベル、大丈夫か?」


 俺は少しやり過ぎたかと後悔しながら、ベルのことを気にかけた。


「大丈夫、じゃ、ないぃ……しゅ、しゅごかったよぉ……」


 ベルは上目遣いで俺のことを見つめながら、上気した顔でそう言った。


「そ、そうか。ところで、何故俺の上に?」


 恐らく俺の寝る前から乗っていたのだろうが、何も寝ている時にしなくても、言ってくれたならいつでも良いのだが。


「ヴァンの顔を、見てたら、我慢できなくて……」


 ベルはむにゅむにゅと口元を動かしながら恥ずかしそうに言う。


「ちょ、ちょっとくらいなら良いかなあって……その、幾らあっても足りないから」


 4年間を埋めるには、幾ら時間があっても足りない、ということなのだろう。それは俺も同じだ。ベルに会えなかった分は少しでも取り戻したいと思う。


「ごめんね? イヤ、だった?」


 ベルは少し伏せ目がちで、申し訳なさそうに言う。何を言っているんだ、コイツは。


「そんな訳ないだろう? ベルの気持ちは十分伝わっているさ。それに俺も……」


 俺はそう言うと、出来るだけ優しくベルのことを抱きしめた。


「あっ……ヴァン」


 ベルは目を瞑り、俺の腕の中に静かに収まる。俺は落ち着いたせいか、ベルの色々な匂いが感じられ……


「……ヴァン? これは何かしら?」


 あっ。


「あー、そのー、生理現象だから」


「ふふっ、じゃあ私が治めてあげる!」


 ベルは漸く調子を取り戻し、俺のモノを弄り始めた


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ガチャ


「こんにちは」


 僕はレオナルド国王陛下の執務室へと入る。


「誰だ?」


「私です、陛下」


 僕は跪き、臣下の礼をとる。


「ん? ドルーヨ、パレードはどうしたのだ?」


 陛下は訝しげな表情で僕のことを見つめてくる。だがこの質問は予想出来たため、僕は伝えなければいけないことを交えて、陛下に申し上げた。



「……と言う訳で、現在テナード侯爵を拘束、王都へと連行している最中なのです」


「成る程、確かにワシも不可解な振動を感じた。それにあの光は雷だったのか。書類の整理をしておった所為か気付かなかったわい」


 陛下は納得した様子で頷いた。


「……陛下は、侯爵が反乱したことについてご存知では無かったのですか?」


 僕は気になっている疑問をぶつける。反旗を翻したのは直近のことではあっただろうが、直ぐ隣の領地のことだ。既に耳に入っていてもおかしくは無いのだが、何故かヴァン君一人で数え切れないほどの兵と対峙していた。


「うむ、まさかこのタイミングでとはな。魔王軍が倒されたことを何処からか嗅ぎつけたのだろう」


 陛下は顔色を変えずに言う。僕の見立てだが、今の所嘘をついているという気配はない。

 反乱については、間違いなくカオスが絡んでいるはずだ。奴の動きについてはベルも察しているだろう。


「……そうですか。侯爵の反乱に至った経緯については、私に心当たりがございます。この件については、商会も力を」


 相手は神出鬼没。思わぬところからけしかけてくる事もあるかも知れない。世界中に広がる商会の伝達網を使えば、少しは不穏な動きを掴むことも出来るだろう。


「うむ、そうしてくれると有り難い。他の貴族の中にも、良からぬことを考えている者がいるかも知れない。もし何か分かれば、直ぐに報告してくれ」


「はっ!」


「うむ、報告ありがとう。この件については、こちらにも至らぬ点が有った。ヴァンとベルには申し訳ないことをしたな」


「ヴァン君も満身創痍の様子。労ってもらえると有難く存じます」


 間違いなく、今回の反乱については、ヴァン君がいなければとんでも無いことになっていただろう。魔王が討伐されたというのに、戦乱の世に突入していてもおかしくは無かった。彼の功績は見た目以上のものが有るのだ。


「そうだな、彼奴にも感謝しなければ。また褒美を考えておこう。ドルーヨ、パレードについてはもう良いことにする。王城から凱旋の報告をしてもらう事にしよう。民には申し訳ないが、予定を変更した事にする」


 今更パレードに戻っても、時間が経ちすぎている。取り敢えず、帰ってきたということを民に印象付ければ良いのだから。


「御意!」


「では、テナード侯爵については、王都に着き次第拘束するから安心して欲しい。デンネルがおれば、途中で逃げるということは無かろう?」


「ええ、彼なら問題無いかと」


 デンネルは目の前に立ち塞がるだけで相当の威圧感を与える。逃げ出そうとは思わないはずだ。


「うむ。ではお主は暫し休んでおれ」


「はっ! ではこれにて」


 僕は再び礼をし、執務室から退出した。

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