第14話
「グオォ……」
な、何だこの大きさは……この前倒したオーガの3倍、いや4倍はあるぞ!? ざっと計算して6メートル以上と言ったところだ。こ、こんなの勝てるわけがない!
「べ、ベル、逃げるぞ!」
俺はベルの手を引っ張り走り出す。
「えっ、ヴァン、戦わないのっ?」
ベルは走りながら俺に問うてきた。
「戦うったって、俺はまだこんなのを倒せるほど強くねえよ!」
幾らクリエイトが何でも創れると言ったって、今の魔力ではあんな大きさのオーガを倒せる魔法は創り出せない。第一、自分のステータスを確認する魔法すらまだ創り出せないのだ。戦略すら練ることができないのに、格上の相手に勝つのは無理だ。
「なら、私が倒すよ!」
ベルは立ち止まりそう言った。
「な、何言ってんだよ! 明らかに普通の魔物じゃねえだろ!?」
「それでも! 放っておいたら村の人はどうなるの!? それに近くにはまだ皆がいるのよ!」
皆とは村の子供たちのことだろう。
「そ、それでも無理なものは無理なんだ! 俺はベルを見捨てるわけにはいかないし、俺自身死にたくない! 折角転生出来たのにたった10歳で命を捨てられるわけないだろ!」
「もう良い! ヴァンは先に帰っておじ様達に知らせて! 私だけで行く!」
「なっ、お、おいっ!」
ベルは風魔法でハイオーガの許へと駆けて行った。ベルはああいう身体能力向上の魔法は得意なのだ。しかし俺はクリエイトの弊害で、一々速さを固定しないと使えないので苦手だ。だから魔物に対する立ち回りはベルの方が上なのだ。と言っても、ベルが1人で勝てるわけもない。早く追いかけないと!
「くそっ!」
俺は地面を駆ける。ハイオーガの許へ帰ると、既に戦闘が始まっていた。
「皆、早く逃げて!」
「う、ううっ」
「怖いよぉ……」
「あ、足が……」
子供達が怖さで竦んで動けなくなっている。こんな時に!
「お前達、早く!」
俺は皆に向かって叫んだ。
「ヴァン……」
「ベルの邪魔をしたくないなら、早く逃げるんだ! それと、お父様にも知らせてくれ!」
「うう……」
「早くするんだ!」
俺は皆の近くの地面に火の玉をぶつける。荒っぽいが、こうでもしないと動かないだろう。
「わ、わかったよ! 皆、行こう!」
リーダー格の少年が子供達を引き連れて逃げ出して行った。よし、取り敢えずこっちは片付いた。
「きゃっ!」
俺は悲鳴に気づき振り向くと、何とベルが転んでいる!
「ベル!」
「グオォオ!」
ハイオーガは持っている棍棒を振り上げ、今にも叩きつけそうだ!
「くっ、喰らえっ!」
俺は火の玉を出来るだけ威力を強くしてハイオーガの顔に向かって放った。
「グオッ? ヴッ!」
ハイオーガは火の玉が当たり、少し仰け反る。その隙に俺は駆け出した。
「ベル、捕まれ!」
「ヴァン……」
俺はしなだれるベルに向かって手を伸ばし、ベルの左手を掴む。そしてそのまま腕力向上の火魔法を使い、勢い良く投げ飛ばした。
「ひゃあっ!」
ベルは飛んで行き、近くにあった木の葉の溜まり場に落ちた。よし、上手くいったようだ。身体能力向上の魔法だが、咄嗟の判断でここまで上手くいったのは初めてかもしれない。火事場の馬鹿力、は違うかもしれないが、本当に上手く着地させられて良かった。これで地面に激突は洒落にならないからな。よし、ハイオーガの奴を--
「ヴァン!! 避けて!」
「え?」
俺は後ろを振り向くと、ハイオーガは先程のように棍棒を振り上げ、今にも叩き落そうとしていた。
「なっ!」
そして、棍棒はそのまま俺に向かって--
グシャッ。
俺の意識はそこで途切れた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
グシャッ。
野菜を潰したような新鮮な音が響き渡る。そして血飛沫がハイオーガの周りを染めた。肉片が飛び散り、こちらにも赤黒い何かが飛んできた。
「えっ……ヴァン……?」
「グオオォ……」
ハイオーガは振り下ろした棍棒を持ち上げ、横薙ぎに振って血を払う。地面に扇状に赤い模様が描かれた。
「そ、そんな……ヴァン、嘘でしょ?」
私は目の前の光景を受け入れることができない。その間にもハイオーガはこちらへ寄ってくる。
「グオッ」
そして私の眼の前で立ち止まり、私のことを見下ろした。
「グオ?」
ハイオーガは不思議そうに私のことを、嫌、私の少し前の地面を見る。
「グオォッオッ!」
そのまま右足の先を少し上げ、その”モノ”を踏みつぶした。
「グオッグオッ!」
ハイオーガは楽しそうに笑っている。こいつが踏み潰したのは、ヴァンの目玉だった。
「な、な、」
「グオッ?」
「なに、わらってんのよ……」
「グオォッ!」
「なに、わらってられんのってきいてんのよおおおおお!」
私はその瞬間、信じられないほどの力が湧き出るのを感じた。そして同時に頭に血が昇るのも感じる。
「グオッ!」
ハイオーガは驚いたのか、少し後ずさった。ハイオーガの右足があった部分には、小さく血が広がっている。
「よくも、よくも、私のヴァンを、ハジメちゃんをおおおおおおお!」
私は遂に力を抑えきれなくなり、無意識に両手を前に突き出した!
「喰らえっ!」
「グげっ」
そして両手の先から、極大の光が飛び出す。ハイオーガは一瞬驚くが、次の瞬間灰となって崩れ落ちた。
「はあっ、はあっ……」
私は力を放出したせいか、一気に力が抜けていく感覚に囚われる。一瞬荒くなった呼吸も次第に落ち着いていった。その間に、灰は風に流されて何処かへと運ばれて行く。
「は、ハジメちゃん……」
私は立ってられなくなり、地面に崩れ落ちる。そして意識も次第に薄らいでいった--
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