第13話 10歳
――――またまた時は飛び10歳。
「ヴァン、そっち!」
「よし、くらえっ!」
俺は火の玉を打ち出す。
「ぐぎゃぁ!」
火の玉はウォルフェンにぶつかり、ウォルフェンはそのまま炎上した。
「ぐあ……」
そして数秒の後にウォルフェンは息絶える。肉の焼ける匂いがして少しお腹を刺激してしまった。
「よし、ベル、ナイスアシストだ」
「ヴァンこそ、狙いは正確ね?」
俺たちはハイタッチをし、互いを褒め称えた。
--何故このようなことをしているのかというと7歳くらいの頃だったか、村の奥にある森に魔物が現れ始めたのだ。突然のことで村人は慌てふためいた。お父様もいつも仕事をしている村の役所から飛んできて、魔物と応対したのだが、魔物はすばしっこくなかなか倒せない。そこで見兼ねた俺が、火の玉を高速で撃ち放ったところ、見事魔物に直撃し殺すことが出来たのだ。それ以降、魔物が現れるたびにこうしてベルと2人で退治しているというわけだ。
魔物が突然現れた理由は詳しくはわからない。だが、書斎の本を漁ると、昔考察された仮説が書いてある本が有り、その中に魔王が魔脈を通して負の力を世界にばら撒いているのでは、というものがあった。魔脈は森や海、山など自然が多いところに溜まるらしく、またその分エネルギーも多い。そのため、魔王の力によって魔物が現れやすくなるのでは、と言うものであった。他にも様々な仮説が書いてあったが、俺は今のところこれが真実に近いと睨んでいる。
実際、サーチの魔法で魔脈を調べたところ、何らかの血栓のような塊が魔脈に溜まっているのを発見した。俺は自分の魔力を流し込んでみたのだが、一瞬で跳ね返されてしまった。恐らく魔脈の魔力量が桁違いのため、濁流に水鉄砲を放つようなものだったのだろう。現時点で、魔物を出なくさせる策はないということだ。
「またウォルフェンか……すばしっこいだけで、比較的弱い魔物だからいいけど……この前のオーガみたいなのは勘弁して欲しいなあ」
「あら、ヴァンはそこまで苦労していなかったみたいだけど?」
「でかいからしぶといんだよ。火も効きにくいし、肉を裂こうにも筋肉が硬い。なかなか厄介だった」
「私も手伝えていれば……」
「仕方がないよ、買い物に出掛けていたんだから。その分心の中で応援してくれるだけで、俺は十分さ」
「ヴァン……ふふっ、頼もしいわね?」
「そ、そうかな?」
チュッ
「べ、ベル?」
「ご、ご褒美……た、たまには良いでしょう?」
「ひゅうひゅう!」
「羨ましいねぇ!」
「よっ、モテ男!」
「くう〜、俺もヴァン様みたいに魔法が使えれば!」
「う、うるせえ! さっさと片付けて来い!」
「「「は、はいっ!」」」
俺たちを囃し立てたのは、村の子供たちだ。俺たちの狩りをいつの間にか手伝うようになっていた。まあ、ベル狙いの奴もいるみたいだが……
魔法については、この世界では100人に1人くらいの割合で属性魔法を使えることがわかっている。この村の人口は約1500人、単純に考えたら15人、実際は14人だから、統計は合ってはいるだろう。俺は今の所複数の属性を使える。あと使えないのは、闇魔法と聖魔法くらいだ。早く回復手段を覚えないと、俺一人では辛い。だが、ベルが何故か聖魔法を使えるので、2人でかかれば何とかなるのだ。恐らく女神様の加護か何かなのだろうが……じゃあ、何故俺は使えないんだ?
「ヴァン、魔王の進軍速度もかなり進んでいるみたい……」
「ああ、最近では西大陸にも侵攻し始めたと聞いた。早く勇者が現れると良いのだが……」
「順番では、ヴァンなんでしょう? 310年前に現れた勇者は、私の家系からだったみたいだし」
「そうだと良いんだけどな、そうでなきゃ、このチート能力をもらった意味がないぜ」
「グチワロス様、だったよね? ぐちっしぃ〜に似てるなんて、一度見てみたいなあ」
「止めとけ、結構適当だぞ。なにせ俺を殺すくらいだからな」
「その話は何回も聞いたわ。良い加減忘れたらどうなの? って言っても、忘れられるわけないか……」
ベルが下を向く。
「い、嫌、こほん。忘れる、忘れるよ、だから、な?」
「う、うん。ごめんね、ヴァン」
「謝るの禁止だろ?」
俺はベルにデコピンを食らわす
「にゃっ!」
「その話はもう終わっただろう? 俺たちの間でそういうのは無し!」
「うん、ヴァン」
ベルは眉をひそめ微笑んだ。
8歳くらいの頃だろうか、ベル、嫌、凛は自分のせいで俺が死んだとよく思い悩むようになったのだ。俺は必死で宥めるが、ずっとうじうじして埒があかない状態が続いた。そこで俺が、この話をするたびにキスをすると言ったら、慌てて明るく振る舞うようになったのだ。俺のキスは破壊力が強すぎて色々とやばいらしい。特に下半身が。俺の下半身も。そういう訳で、どうにかベルに思い悩むのをやめさせたわけだ。
「ヴァン様、終わりました!」
「おお、ご苦労。肉は分けて良いぞ?」
「わーい! これ、魔石です!」
「おう、ありがとう」
俺は村の少年から魔石をもらった。赤黒く、大きさは2センチくらいだ。余り良いものではないな。まあ、ウォルフェン位なら仕方がないか……
魔石は、魔物が必ず体内に持っている、魔力の塊のようなものだ。魔石があるものは魔物である、そう考えて良い。また、魔物は目が赤く光るので判別もつきやすい。魔物は魔石を抜くと、普通の動物と同じように肉が食べられたり、骨を加工したり出来るようになる。また、魔石は商人が買い取ってくれるので、財源にもなるのだ。値段は大きさによるが、基本は大きく、色が明るい方が高い値段が付く。中には深い色、という判別方法もあるらしいが、俺には見分けがつかない。
このウォルフェンは狼型の魔物だ。牙と爪が普通の狼より少し長く、体毛は決まって黒い。先程も述べたが、動きはすばしっこく剣や斧、鉈では少し苦労する相手だ。しかし俺の火の玉はかなりの高速で放つことができるので、その速さは問題にはならない。寧ろ延焼を気にする位だ。
「ベル、帰ろうか、そろそろ日が暮れる」
「うん、そうだね」
ベルは凛だった頃とは違い、戦闘中にはかなりサバサバした性格になる。このご時世みんな気が立つことが多いが、ベルは俺でも怖いと思う時があるほどだ。ベルはまだ強力な魔法が使えないが、ドルガさんから魔法適性というスキルを貰ったらしいので、魔法を使えば使うほど上達していく。俺も上達はするが、基本はクリエイトで創り出した魔法なので、予め威力や速さなどを指定して打ち出すのだ。
その点、ベルは感覚に頼るところが大きいので、咄嗟の判断には優れている。無意識下、というとおかしな表現かもしれないが、敵が急に襲ってきても身体が勝手に反応してくれるらしい。少し羨ましいと思う。俺もクリエイトで能力自体を創り出せないかなあ。一回試したことがあるのだが、魔力不足で無理ですと言われてしまった。頭の中に声が響いて、成功したら、”何々を覚えた!”と響き、失敗したら”魔力が足りない!”と響く。実に分かりやすい仕組みだ。
「行こうか」
俺とベルが手をつなぎ、歩き出したところに--
「た、大変だ〜! は、ハイオーガが、ハイオーガがあっ! ぐふっ……」
俺が後ろを振り向くと、そこには、
頭から地面に向かって真っ二つに割られた村人の死体と、大きなオーガが立ち尽くしていた。
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