第12話
「凛、落ち着いた?」
「う、うん。ハジメちゃん、ありがとう……」
1時間以上泣き続けて、ようやく凛は気持ちが落ち着いたようで泣き止んでくれた。泣かれている間、俺も気まずいやら嬉しいやらで色々とモヤモヤしていたが、何とか耐え切った。偉いぞ俺。
「まさか、凛が俺の幼馴染として転生してくるだなんて……ドルガさん、ありがとう」
俺は天のどこかにいるであろうドルガさんに心から感謝した。もしかしてこれも幸運パワー?
「ドルガ? あの女神様にハジメちゃんも会ったの?」
「ああ。すごく綺麗な人だったな……ちょ、痛いって!」
凛がいきなり俺の背中を抓ってきた。何だ、ヤキモチか?
「んもう、私と言うものがありながら……」
凛はほっぺたを膨らまして抗議してくる。この仕草は生まれ変わっても同じだ。
「はいはい、まだそんなこと考えているのか。良い加減俺から離れろよ。まあ、今の状態で不自然に離れていたら怪しまれるか……」
お父様もお母様も俺たちが仲良くすることを願っているはずだ。余計な騒動は起こさないべきだろう。
「じゃあ、くっついていて良いの?」
凛が首を傾げて聞いてくる。何だその仕草は、ベルの姿と相まって可愛すぎるぞ。目が大きいからお人形みたいだ。
「さ、さあな。変に思われない程度なら良いんじゃないか?」
「うふふ、ハジメちゃんはやっぱりハジメちゃんだね」
「な、なんだよ? どういう意味だ?」
「さあ、どういう意味でしょう? 恋は盲目なのよ?」
「へえ……良くわからん……まあ、こうして凛だとわかったから良いか。人のいるところではベタベタするなよ? 変な目を向けられることがあるかもしれないからな」
「うん、わかっているよ。ハジメちゃんは心配性だなあ」
「凛だからだよ、馬鹿」
俺は凛のデコを指で弾いた。
「いてっ! うう〜酷いよ、ハジメちゃん」
「あまり心配させるなよな。前世でも現世でも、何かとヒヤヒヤさせやがって……さあ、この話は終わりだな。これからのことを考えなくては」
こうして転生者として出会いたことは嬉しいが、それを言いふらすわけには行かない。これまで通りヴァンとベルという2人の幼い子供として生活しなければならないので、その打ち合わせをしておきたいのだ。
「その前に、くっついていいの?」
凛は再び首を傾げながら聞いてきた。だからその仕草は何なんだ! 破壊力高すぎるぞ!
「くっつくって、仲良くするって事だろ? 良いって言ったじゃないか、寧ろそうして欲しい」
「えっとね、こう言うのもあるんだよ?」
凛はそう言うと、俺に抱きつき頰釣りしてきた。
「り、凛!?」
「うりうり〜可愛い女の子の頰ずりはどうかねぇ?」
凛の頰と俺の頰が合わさり少し熱くなる。凛の頰は柔らかくすべすべしており、思わずどきりとしてしまった。
「や、やめろって!」
俺は凛を押しのけようとする。しかし凛は離れようとしない。俺は仕方なくベッドまで後ずさりする羽目になってしまった。しかしそれでも凛はくっ付いてくる。そうして俺は遂にベッドに押し倒されてしまった。足が浮き背中が完全にベッドへと付く。凛が俺を見下げる形となった。凛は少し驚いた顔をした後、途端に真剣な顔に切り替わり俺を見つめてきた。
「……り、凛?」
「……ねえ、ハジメちゃん。私の事、どう思っていた? 日本での事だよ?」
「どうって、お、幼馴染だが」
「そうじゃなくて、1人の女の子として、どう見てたの? あ、誤魔化したら怒るからね?」
凛は本当に真剣な表情で尋ねてきた。
「か、可愛い、とは思っていたぞ」
「……それだけ?」
「それだけも何も、お、俺たち幼馴染だぞ? 家族みたいなもんだろ?」
「……ねえ、私はハジメちゃんの事、好きだったよ? ううん、世界で一番大好きだったよ? 家族とかそういう想いじゃなくて、1人の男性として……」
凛は瞳を潤ませ始めた。そしてそのまま独白を続ける。
「あの時、トラックに轢かれる前、ハジメちゃん、私の事拒絶しようとしたよね? 私、とても悲しかったよ? ハジメちゃんは私の事何とも思ってないんだって、高校生になったのに、女として成長したと思ったのに、腕を組んでもちっとも何も感じたりしないんだって……女としての自信、無くしかけたよ?」
凛の目にどんどん涙が溜まっていく。しかし俺はそんな凛の事を、静かに見つめ話を聞くしかできない。
「だ、だから、私、死んじゃって……ハジメちゃんに、ちゃんと告白もできなくて……悲しくて悔しくて……で、でも、ドルガ様が、女神様がいつか必ず会えますから、それまで願っていて下さいって……そして生まれ変わって一年経って、ハジメちゃんを、ううん、ヴァンの事を初めて見た時、私の奥底までピリッて電気が始まったの。ああ、これって運命? なんて、馬鹿みたいだけど……私、4年間ヴァンと一緒にいて確信した。ヴァンは、ハジメちゃんだって、雰囲気に私への接し方、ハジメちゃんとそっくりだって思ったの。だから、この家で暮らすってわかって、お父様とお母様には申し訳ないけれど、とても嬉しかったの!! だから、ハジメちゃん、本当の事を言ってね? 私の事、八重樫凛の事、好きですか?」
凛はいつの間にか笑顔を浮かべていた。これは、答えるしかない、いや、答えないと本当に一生後悔するだろう。
「凛……いえ、八重樫凛さん……九重ハジメは、貴方のことが好きです!」
「……は、ハジメちゃん!」
凛はそのまま俺に乗っかってきて、唇と唇を合わせてきた。
「ん!」
「ん……」
そしてそのまま舌を入れてきた。熱くもありまた優しくもあるキスだ。俺は凛にされるがままに受け入れた。
「んあ……」
「はっ……」
凛はどれくらい経った頃か、唇を離した。糸が俺たちをつなぐ。
「凛……」
「あの、良かったら、私とお付き合い、して下さい。もう、私は八重樫凛じゃなくて、ベル=エイティアだけれど……」
「凛……嫌、ベル。こちらこそ、お願いします。九重ハジメとしてではなく、生まれ変わったヴァン=ナイティスとして」
「ふふっ、喜んで!」
凛は花咲くような笑顔で返事をした。そして俺の上から退き、俺の右横に腰掛けた。
「よかった〜……色々気持ちの整理がつかないけれど、恋愛に関しては一先ず片付いたかな? ハジメちゃんだった時に言えていれば……もう、凛のばかっ!」
「凛はお前だろ?」
「私はもうベルとして生まれ変わったの! ハジメちゃんもこれからはヴァン何でしょ?」
「はっ、そうだな。そうしよう。日本での事は日本での事、この世界での事はこの世界での事だ! それに、ベルも十分可愛いしな?」
「うっ」
ベルは顔を真っ赤にさせてそっぽを向いてしまった。
「ベル?」
俺は起き上がり、ベルの顔を覗き込もうとする。しかし凛は手で俺を制した。
「い、いまは見ないで!」
「え? 何で?」
「……私、凄い顔してるから」
ふーん。
「えいっ」
「えっ!?」
俺はベルの顔を掴みこちらを向かせた。
「ふ、ふにゃあ?」
「ふ、ふふふっ、凄い顔だね。アイスよりも蕩けている」
「み、みないれぇ……」
そう、凛の顔はぐちゃぐちゃにとろけ切っていた。や、やばいなこの顔は……
「ベル、好きだ」
「むぐっ! ……はゃっ」
今度は俺の方からキスをした。ヴァンとベルとしての恋人としてはファーストキスだ。
「はっ、ふうっ」
「やあっ、めぇっ」
俺はさっきのお返しとばかりにベルの口内を蹂躙する。何だか甘い味がして無性に吸いたくなった。
「じゅるっ」
「ひゃっ!」
俺は舌を使いベルの唾液を吸い上げる。ベルはもう顔だけでなく口の中まで蕩けてしまいそうだ。
「むちゅ……あむっ」
「ふやああっ!」
「ん……べ、ベル、大丈夫か?」
「あ……ご、ごめん、気持ち良すぎて……それに恋人ができるって、こんなにも心が暖かくなるんだなって。それも、ずっと好きだった人と」
ベルは涙を浮かべ深く息を吐く。
「ああ、そうだな。俺も同じだよ、ベル」
「はあ、ねえ、もういっかい--」
ベルは再び俺のことを押し倒し、お返しとばかりに俺の口内を蹂躙するのであった。
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