変化
愛衣子さんとのお付き合いは順調だった。
下の名前で呼び合えるようになってからは更に仲が進展していったと思う。
会えばカフェで休憩したり、映画を観に行ったり、何をする訳でも無いけどブラブラとしたり、愛衣子さんと一緒だと何をやっても楽しく思えた。
今時の学生にしては物足りない付き合いじゃないかと凛には言われたけど、それでも俺も愛衣子さんもそれで楽しかった。
・・・ただ、最近ちょっと気になっていることがあった。
気になっていると言うか、悩んでいると言うか・・・。
凛の俺に対する距離感が近くなった気がする事だ。
誰に言われたわけでもないが、明らかにあの日・・・俺達は友達だと言ったあの日以降から、凛の接し方が変わった。
ボディタッチが多くなったり、かと思えば急に抱き着いてきたり・・・、今までは愛衣子さんの隣に座っていたのがいつの間にか俺の隣に座るようになったり・・・。
会う度に常に俺の近くに居るようになった。
友達として慕ってくれるのは俺だって嬉しい。
愛衣子さんとの仲を進展させてくれた時もあった。
けれど、やはり凛は女で俺は男だ。
不意に抱き着かれた時に感じる柔らかさや匂いは、完全に女子のそれだ。
意識しない様に頑張ってみても、ほぼ毎日そんな事をされては嫌でも意識してしまう。
それに、愛衣子さんだって、普段は気にしていないように見えても目の前で付き合っている人が自分の友達とはいえ他の女子と過度なスキンシップを取っているのを見るのは嫌だと思う。
俺だったら嫌だ。
凛が友達として接してくれているのなら言いにくい事だが、今度会った時にもう少し距離間を大事にするように話してみよう・・・。
流石に愛衣子さんから凛に言ってもらう訳にもいかないから・・・俺が言うしかないか・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
休日のある日、俺は愛衣子さんと二人でいつものカフェで談笑しながら軽食を取っていた。
「昨日学校でね、同じクラスの子が・・・」
「へぇ~!すごい・・・」
最近あったおもしろい事や驚いた事を話している愛衣子さんを見るのが好きだった。
何より話している時の愛衣子さんの笑顔が見たくて、俺は愛衣子さんの話に耳を傾けていた。
「あっ、ごめんね!私いつも自分の事ばっかり話して!」
「ううん、そんな事ないよ。俺、愛衣子さんの話聞くの好きだよ。」
「ほ、本当?なら良かった!」
あぁ、俺は本当に幸せ者だな。
そう思って食べかけのサンドイッチを口の運ぼうとした時、横から手が伸びてきて俺の腕を掴んだ。
そしてそのまま、その人物は俺の食べかけのサンドイッチを口に頬張った。
「んんっ!やっぱりここのサンドイッチは美味しいね!」
「凛!どうしてここに?」
凛だった。
サンドイッチを飲み込んだ凛に、愛衣子さんが尋ねる。
「いやぁ~、外から二人が見えたからさぁ~!邪魔しちゃ悪いと思ったんだけど、あんまりにもサンドイッチが美味しそうだったからつい・・・ごめんね!」
「そっか、じゃあせっかくだから一緒に食べようよ。」
「ホント!?ごめんね愛衣子。・・・じゃあ結、ちょっと横にズレてくれる?」
そう言って俺の横に座ってくる凛。
今更気づいたが、今日の凛はいつもと身なりが違う。
いつもは学校が終わってからしか会わないから制服しか見たことがなかった。
だが今日は休日・・・、凛はボアジャケットを羽織り、下は黒のショートパンツといういつもの凛からは想像できない着こなしだった。
(凛も女子だからな、普段はこういう恰好ぐらいするだろ。)
今の凛なら少なくとも男子に間違われることは無いだろう。
気にしていないと言いつつも、やはり引っかかるものがあったのだろうか?
そう思っていたら・・・。
「そう言えば凛、今日は何だかオシャレだね?いつも休みの日に会うときはジーパンとか無地のシャツとかなのに・・・。」
「えっ!?そ、そうかなぁ~・・・、私だってオシャレくらいするよ!」
「ふふふ!そうだね、凛も女の子だもんね!ごめんね!」
「も~う愛衣子~。」
珍しく愛衣子さんが凛を弄って、凛が弄られている。
見慣れない光景だ・・・。
と言うか、凛は普段からこういう恰好をしていたんじゃなかったのか・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あの後、カフェを出てすぐに凛は帰って行った。
残った俺達はいつものように楽しい時間を過ごして、
「じゃあまたね!結君!」
「うん!また!」
そう言ってそれぞれの帰路に就いた。
一人帰り道を歩いていく俺。
考えているのは愛衣子さんの事ばかり。
次はいつ会おうか、どこに行こうか、そんな事を考えていた。
「たまには違った所で遊ぶのもいいかなぁ?」
「結!」
考えながら歩いていたら、後ろからいきなり抱き着かれた。
少しよろけるがなんとか態勢を立て直す。
「うわっと!?・・・えっ、凛!?」
「やっほ~!」
先ほど帰っていったはず凛が、俺の背中越しに顔を覗かせていた。
相変わらず距離が近い。
「凛、なんでここに・・・。」
「ちょっと寄り道してて、私も今から帰るところなんだぁ!」
そんな凛を見て、思い出した。
話さないといけない事を・・・。
「凛、ちょっ、ちょっと離れて!話があるんだ!」
「話?何~?」
凛を離して向き直ると、思っていた事を話した。
「あのさ、凛。最近何だか、凛との距離が近い気がしてさ・・・」
「え?私と、結の?」
「うん。その、友達としてそうしてくれるのは嬉しいんだけど・・・あんまり近すぎるのも、マズいって言うか・・・愛衣子さんにも悪いしさ。だから、もう少し距離感を保ってくれると助かるんだけど・・・。」
長々と俺の話を聞いていた凛。
話が終わっても黙っていた凛が、口を開く。
「・・・そっか、私また調子に乗って愛衣子と結に迷惑かけてたんだね。・・・ごめんね結、私そんなつもりじゃなくて・・・。分かった、私しばらく距離置くね?ごめんね・・・。」
「えっ、いやなにもそこまでしなくても・・・」
俺が言うのも聞かず、トボトボと俯きがちに歩いていく凛。
なんだかすごく悪い事をしてしまったように思えて・・・、
「凛!待って!」
気づいたら俺は凛の腕を掴んで引き止めていた。
「何?ダメだよ結、愛衣子に悪いよ・・・。」
「ごめん凛!俺、無神経で・・・、そんなつもりで言ったんじゃないんだ!」
もしもこれで、愛衣子さんと凛の仲が悪くなってしまったら・・・俺が悪い。
ずっと見ていたいと思った愛衣子さんのあの笑顔も見れなくなってしまうかもしれない・・・。
それは・・・嫌だ。
それに、凛とも友達になれたのにそれも・・・。
「結が謝る事じゃないよ。私が悪いんだから・・・。」
「違う凛!ごめん、俺が悪かったよ!だから許してくれ・・・俺に出来る事なら何でもするから!」
「・・・・・・何でも?」
凛がその言葉に反応する。
俺は唯々許してもらおうと必死だった。
「うん!出来る事ならするよ!」
「じゃあ・・・」
あまり高い物じゃなかったら奢るし、遊びに行こうと言うのなら愛衣子さんも一緒に誘えば大丈夫・・・なんて、思いつく限りの事を考えていたら・・・、
「今から私の家に遊びに来てよ。」
「・・・・・・えっ?」
凛は、俺が考えもつかないような事を言ってきた・・・。
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