十二 火炎花

「そうら落ちろ、レッドバレット!」

γガンマスラッシュ、適用アプリケーション

「成涸、合わせて!」

「ほな行くで、波走なみばしり!」

ディグラッドが撃ち落としたボルケーノバットの群れをセナと成涸が同時に薙ぎ払う。

「エネミーの撃破を確認、システムをニュートラルモードに移行します」

「やっと終わった……成涸、MAを使ってみた感想は?」

「申し分なし、やな。こないに便利なら普及するのも納得やわ」

「気に入ってもらえたようで何よりだ」

「ほんまおおきにな、おっさん」

成涸が満面の笑みを浮かべる一方、ディグラッドは呆れた顔で溜め息を吐く。

「それはそれとしてお前、魔法が下手だな」

「んなっ!?」

突然の駄目出しに成涸は間の抜けた声を上げる。

「そういえばディグラッドは何回も魔法を使ってるのに全然疲れてないよね」

「こいつみたいに自前の魔力だけで魔法を使ってないからな」

「自前以外の魔力、というのはMAやGDに充填されているもののことですか?」

「それもあるにはあるが、魔力なら周りにいくらでもあるだろ?それを使うんだよ」

「……いや、それどないして集めるのかって話ちゃうん?」

「は?そんなの呼吸と同じ感覚で出来るだろ」

「呼吸と同じ……」

大袈裟な深呼吸を数度繰り返した後、成涸は指先に意識を集中させる。

「………………うーん、すぐには無理そうやな……おっさーん」

「ん?」

「後でええさかい、やり方を教えてくれへんか?」

「わざわざ人に教わるようなことでもないと思うんだがな……」

ぶつくさ文句を言いながらディグラッドは頭を掻いた。


「──そうら着いたぞ」

「わぁ……」

「おおー……」

眼前に広がる光景──鮮やかな橙色の花畑にセナと成涸は感嘆の声を上げる。

「これが、火炎花……」

「中々の絶景だろう?」

得意気に言いながらディグラッドは火炎花を一輪摘み、愛おしそうに目を細める。

「ところでディグラッド、その花を採取して何に使うのですか?」

「ん?あー……その、何だ。大したことじゃないから気にすんな」

「んー……?」

歯切れが悪いディグラッドの返答に成涸は首を傾げる。

「何やあの反応、あからさまに怪しすぎるやろ」

「詮索したくなる気持ちは分からなくもないけど、止めておいた方が良いと思うよ?」

「……それもそうやな、野暮なことはしいひんでおこ」

「何コソコソ話してるんだ、置いてくぞ」


「っあー、しんど……山歩きは当分したないわ……」

イルジオス火山を下りてパスパに到着するや否や、げんなりした顔で成涸が呟く。

「でも今回は平和な方だよ」

「私の性能テストを目的とした旅に出て間もない頃は頻繁に異常な係数の魔力を有するモンスターと遭遇していましたからね」

「そりゃまた災難な話だな……」

「ディグ!戻ってきていたのか!」

セナたちとの雑談に花を咲かせるディグラッドに灰髪の大男が声をかける。

「もう少し帰りが遅くなると思っていたんだが、どうやら余計な心配だったみたいだな」

「何やおっさんら、知り合いか?」

「知り合いというか、義理の兄弟だな。俺の妹がこいつの嫁だったのさ」

「嫁、だった?」

「……さすがに話してねぇか。ちょうど良い、ついてきな」

「ま、待ってくれカキル義兄にいさん。わざわざ連れて行かなくても──」

「たまには大人数で行った方があいつも喜ぶだろうさ」

取り付く島もなく先行するカキルにディグラッドは大きな溜め息を吐く。

「振り回される方の身にもなってくれよ、義兄さん……」

「何て言うか……マイペースな人だね」

「そうやなぁ」

呆気に取られつつもセナたちはカキルの後を追って歩き出す。


「ここってもしかしいひんでも、あれやろ?」

「ということはやっぱり、ディグラッドの奥さんは──」

「……ああ、そうだ。ジーナはこの墓の下で眠っている」

比較的新しい墓標の傍にディグラッドは火炎花を添える。

「元々病弱な奴だったんだが、少し前に容態が悪化してな……」

「……ディグラッド、先程私は配慮に欠けた質問をあなたにしてしまいました。どうか謝罪をさせてください」

「謝罪だなんて大袈裟な奴だな」

「昨日会うたばっかりの俺らなんかには話せへんことを不躾に聞こうとした俺も同罪やな……」

ばつが悪そうに成涸は手を合わせ、頭を下げた。

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