十一 肩慣らし

「おっさーん、取りに来たでー」

翌朝、成涸が呼びかけながら工房の扉を叩くと微かに軋む音と共に扉が開く。

「おう早いな、てっきりもっと日が高くなってから来るもんだと思ってたんだが」

「実はこれでも遅い方なんだよね」

「夜が明ける前にはもうナガレは起きていて、酷く落ち着かない様子で宿屋の周辺を歩き回っていました」

「み、見とったのかいな!?」

驚愕の声を上げる成涸の様子にディグラッドは失笑する。

「だったら早いとこお待ちかねのものを渡してやらないとな」

「何笑うてるんやおっさん!」

「おー悪い悪い」

怒鳴り散らす成涸から逃れるようにディグラッドは工房の奥へと引っ込んだ。


「……なぁおっさん。ほんまにこれ、一晩で仕上げたん?」

MAに生まれ変わった愛刀の姿に成涸は驚愕する。

「何だよ苦情か?」

「ちゃうわボケェ!」

あまりにも大きい成涸の叫び声にディグラッドとセナは反射的に耳を塞ぐ。

「ああもうええ!これ代金な!」

「っとと……おいおい、さすがにこれは出しすぎじゃないか?」

「何を言うてるんや!おっさんの腕を鑑みたらこれでも安いくらいなんやぞ!」

「そ、そうかい……なら大人しく受け取るか……」

気圧された様子のディグラッドに対し、成涸は満面の笑みを浮かべる。

「いやー、何度見てもええ出来やなぁ……」

「ご満悦だね、成涸」

「そうなのでしょうか、私にはよく分かりません」

舞い上がる成涸を一歩下がったところで眺めていたセナとD2にディグラッドがふと声をかける。

「そういやそのMAから出てる声、噂に聞くエーテルって奴か?」

「正確にはその試作機です」

「試作機、ねぇ。それにしては随分と明確な自我を持っているようだが……」

「エーテルの自我確立は数年前に完了し、現在はエーテルを活用する場面の増加を目指す段階にあります」

「もうそんなところまで進んでいたのか、早いもんだな」

「……さっきから何の話をしてるんや?」

「あー……お前にはあんまり関係ない話だな」

「確かにそうかも」

「何やその扱い……」

「まぁ気にすんなって」

拗ねる成涸をディグラッドは雑に宥める。

「ところでそいつの試し斬り、したくはないか?」

「そらまぁしたいけど……」

「だったらワシの用事に付き合ってくれ」

「用事?」

「イルジオス火山で採取したいものがあってな……まぁ要するにその付き添いだ、付き添い」

「そう言うことなら俺は構わへんぞ。セナはんはどないすん?」

「うーん……折角だしついていこうかな。耐熱性のデータは集めておきたいしね」

「じゃあ決まりだな」


「ん?あれは──」

町の外に向かう後ろ姿を見知った顔に目撃されているとも露知らず、ディグラッドに連れられてイルジオス火山の麓まで来た辺りでセナが訊ねる。

「ところで何を採取しに行くんで……えっと、行くの?ディグラッド」

火炎花かえんばな。この火山の山頂付近にしか咲かない花だ」

「何か物騒な名前の花やなぁ……採っても平気なん?」

「そいつは見てのお楽しみだ。ま、道案内は任せな」

「今回は出番が無さそうだね」

「ナビゲートシステムを用いた道案内だけが私の仕事ではありませんので」

D2の冷淡な反応にセナは苦笑いを浮かべた。


「──警告、複数の敵性反応が接近」

「お、早速試し斬りの──」

意気揚々と刀型MAを構える成涸の表情は夥しい数のボルケーノバットが目の前に現れた瞬間、凍りついたものへと変化する。

「……これはまた、中々の団体さんだね」

「おーいどうした?試し斬りするんじゃなかったのか?」

「い、いけずなこと言わんといてやおっさん!」

「おー悪い悪い、一緒に戦ってやるからそう怒るなって」

くつくつと笑いながらディグラッドは銃型MAを懐から取り出して構える。

「僕たちも行こうか、D2」

「システムを戦闘モードに移行。エネミーアナライズシステム起動。対象の戦闘能力を解析開始」

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