十 職人と信仰
「……誰も出てきいひんなぁ」
目星をつけた工房の扉を何度ノックしても応答が無いことに成涸は首を傾げる。
「もしかして留守なのかな」
「そうかもしれへんな。でもまぁとりあえずもう一回──」
「おいお前たち」
「うん?ってデカっ!」
振り返った先に立っていた人物が自分よりも上背のある大男だったことに驚く成涸に対し、驚かれた大男の方は呆れた顔で肩を竦める。
「大袈裟な奴だな、ワフカ族は皆これくらいあるぞ?」
「いやいや、何をどれだけ食べたらそないに──」
「とりあえず落ち着きなよ成涸。それともう少し言葉遣いを……」
「別に構わねぇよ、下手に畏まった態度を取られるより気が楽で良い」
大男の言い分にセナは口を噤む。
「それはそうとお前たち、ワシの工房に何か用か?」
「ワシの、ちゅうことはここはおっさんの工房なんやな。せやったら一仕事、頼まれてくれへん?」
「……ああなるほど、そういうことか」
成涸の思惑を察した大男は工房の扉を指差す。
「話を聞いてやるから中に入りな」
「そういやまだ名乗っていなかったな」
工房の一角──小さなテーブルと数脚の椅子を雑に並べた即席の休憩スペースにセナたちを案内し終えたところで大男はふと呟く。
「ワシはディグラッド・ガドラス。お前たちの名は?」
「セナ・アンリです」
「水比良成涸や。んでディグラッドのおっさん、話は戻るんやけど──」
「MAへのカスタマイズだろ?まずはその武器を見せな」
「はいよ」
成涸に手渡された刀をじっくり眺め、ディグラッドは呟く。
「一晩待ちな」
「いやいやいや、なんぼ何でも早すぎへんか!?」
「柄にマギナを埋め込んで軽い調整をするだけならその程度で充分だ」
「え、ええー……」
「何だよその顔は……しかしまぁ、お前も随分な物好きだな。こんなところまでわざわざ足を運ばなくてもこいつと同じ型のMAなんざグノスで簡単に見つかっただろうに」
「そらそうかもしれへんけど、俺はそいつを手放しとうなかってん」
きっぱりと言い切った成涸の真剣な顔にディグラッドは一瞬目を丸くする。
「……そうか、ならしょうがねぇな」
「ディグラッド、さん?」
「──今日はもう宿に行って休みな。明日の朝には立派なMAに仕上がったこいつを渡す」
「期待してるさかいな、おっさん」
「ワフカ族の職人を甘く見るんじゃねぇよ。そら、仕事の邪魔だ出てけ出てけ」
「追い出されてしまいましたね」
ディグラッドの工房を出た──正確には半ば強引に追い出された直後、それまで沈黙を守っていたD2がぽつりと呟く。
「そうだね。でもこれでこの町に来た目的は達成出来たようなものだよ」
「ほなおっさんの言うとおり宿に……行くにはちょい早い時間やなぁ」
まだ高いところにある太陽を一瞥し、成涸は溜め息を吐く。
「どこか時間を潰せそうなところは──」
「前方の建物は如何でしょうか」
「ん、あれか?」
遠目でも大きいと分かる建造物の影を成涸は指差す。
「時間はあるし、とりあえず行ってみようか」
「そうやなぁ」
「近くで見ると圧巻だね……」
目的の建造物──立派な神殿を見上げながらセナは感嘆の声を上げる。
「当たり前かもしれへんけど、ミカガミさんを祀ってるお社とは造りが全然ちゃうんやなぁ」
「ミカガミさん?」
「俺の地元……邦で信奉されてる水の神様や。そういえばこっちではどないな神様を信奉してるん?」
「ええっと、ミッドクライスで信奉されているのは確か……火の神ヴァディム、だったかな……?」
「何で疑問形なん?自分の地元で信奉されてる神様の名前ぐらいは知ってるのが当たり前ちゃうんか?」
「ミッドクライスで生まれ育ったギノム族は神の恩恵を賜れない身であるためか他の種族に比べて信心深くない人が多い、という統計データが複数存在します」
「神について教わる機会は一応あるんだけど、興味が無かったせいか内容を殆ど覚えてないんだよね……」
「え、ええー……信じられへんわぁー……」
困惑を隠しきれない様子で成涸は数歩後退りした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます