七 報告

「んん?」

MGC本社の入り口に設けられた休憩スペースに通りかかった人物がセナだと分かった瞬間、ソファーでだらけていたユリウスは飛び跳ねる勢いで立ち上がってセナの傍へと駆け寄る。

「セナちゃんおかえりー!調子はどう?」

「ええと、悪くはない……ですかね」

「そっかそっか。D2の方は?」

「これと言った不具合は発生していません」

「うーむ、相変わらずのドライな反応……っといけね、そろそろ戻らないとノインくんにまた毒を吐かれそうだな……」

「ノインさんは厳しいですからね」

困ったように笑いながらセナは肩を竦める。

「ところでアヤネさんたちは今どちらに?」

「第三会議室だよ。ちょうど良いからこのまま一緒に行こっか?」

「別々に行く必要もありませんしね」

「そうそう、セナちゃん分かってるー」

やけに上機嫌な様子のユリウスに首を傾げつつもセナは第三会議室に向かって歩き出す。


「失礼します」

「ただいま戻りましたー」

自動で開くスライド式のドアを潜ってきたセナとユリウスの姿を見るや否や、藍髪の青年が呆れ顔で溜め息を吐く。

「早かったですねユリウスさん、あと十五分は戻ってこないと思っていたのですが」

「毎度のことながらノインくん俺の扱いが酷すぎない!?」

「今に始まったことではないでしょうに」

「フィゼッタちゃんまで冷たい!」

ノインとフィゼッタの毒舌にユリウスが喚き、その様子をアヤネが苦笑いを浮かべつつ静観する。

MGC製品検査部では日常茶飯事に等しい光景を久しぶりに見たセナは表情を緩める。

「セナ、帰ってきてもらって早々で悪いのだけど報告をしてもらえるかしら」

「分かりました。D2」

「解析データフォルダからのストーンイーターとキラーホーネットの生態解析データのロードを開始」

ハルバード型MAが規則的な点滅を数度繰り返し、微かな稼働音を静かな会議室に響かせる。

「ロード完了。モニターに表示します」

壁に埋め込まれたモニターに映し出された情報を目にした瞬間ある者は息を飲み、またある者は目を見開いた。

「……いやいやいや、通常の個体と魔力係数の差が有りすぎだろこれ。何をどうしたらこうなるんだよ」

「具体的な原因はまだ解明出来ていません。しかし魔力係数以外の共通項として

身体の一部が結晶化していることとその結晶化した部分から異常な係数の魔力が計測されたことが上げられます」

「その結晶化した部分は採取してありますか?」

「少量ですが、ここに」

セナが机に置いた二本のガラス瓶に納められた黄昏色の結晶体をじっくり眺めた後、アヤネは顔をしかめる。

「これはちょっと、うちじゃどうしようもなさそうな案件ね……」

「だったら専門家に相談してみたらどうですか?門外漢の僕たちがここでうだうだ喋ってるよりは何かしらの進展を見込めると思いますけど」

「……それもそうね」

「この手の案件に適任の専門家っていうと……やっぱメルガ博士か」

「メルガ博士って確か……モンスターの生態について研究されている方ですよね?」

「私に搭載されているエネミーアナライズシステムの製作に携わった人物でもあります」

D2の補足にセナはそういえばそうだった、という顔をする。

「ノインの言うとおりこの案件はメルガ博士に相談した方が良さそうね……セナ、解析データとこの結晶体をメルガ博士のところへ届けてもらえるかしら」

「僕で良いんですか?」

「直接戦ったからこそ分かることもあるでしょう?」

「それは……確かに」

「上への報告と博士への連絡はこっちでやっておくから、あなたは機焔街きえんがいゼトフにあるメルガ博士の研究所に向かってちょうだい」

「分かりました」

アヤネとセナの話が一区切りついたところでユリウスはふと思い出したことを呟く。

「そういやゼトフってサウスイルヒュードの南端にある街じゃなかったっけ?」

「そういえばそうですね」

「……セナちゃん大丈夫?一人で行ける?」

「私が安全なルートを検索してセナをナビゲートするので心配は無用です」

「あ、そう……なら良いんだけどさ……」

D2の発言にユリウスはがっくりと肩を落とす。

「何露骨に落ち込んでるんですかユリウスさん。カッコ悪さが倍増してますよ」

「ノインくん追い討ち止めて!」

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