六 到着と離別
「っはぁー……ようやっと抜けられそうやなぁー……」
長いようで短い行路の終わりが近づいてきたことに安堵しながら成涸は大きく伸びをし、肩を回す。
「まだ気を抜くなよ。この渓谷に住むモンスターはしつこいからな」
「ちょっ頼納、そういうことは迂闊に──」
「警告、強力な敵性反応が急速接近中」
D2が読み上げたメッセージに成涸はげんなりした顔をする。
「なんぼ何でも早すぎやろう……もうちびっと間を空けてくれへん?」
「もうひと踏ん張りと思って頑張りましょう」
「システムを戦闘モードに移行。エネミーアナライズシステム起動」
ハルバード型MAから響く稼働音を掻き消す羽音の主が現れた瞬間、成涸はぎょっとした顔をする。
「な、何やアレ……」
「再度警告、対象から異常な係数の魔力を計測」
「ストーンイーターの親玉と同じ状態、ってとこかな」
軽く思案した後、セナはハルバード型MAを構え直す。
「D2、攻撃推奨箇所の解析を頼むよ」
「了解。生体解析プログラム起動。解析を開始」
ハルバード型MAが規則的な点滅を繰り返す中、セナと成涸は禍々しい姿のキラーホーネットが頼納の方へ行かないように注意を引きつつ攻撃を躱していく。
「解析完了。対象の触角を覆う結晶体の破壊を推奨します」
「……普通に倒した方が早そうだね」
「せやったらセナはん、あいつが俺の方にへ突っ込んで来るよう誘導してくれへん?」
「構いませんけど……何をする気ですか?」
「んー、強いて言うなら一撃必殺?」
「はぁ」
首を傾げつつもセナは成涸の指示通り禍々しい姿のキラーホーネットを成涸の方へと誘導する。
「よーしよし、素直でええ子やな」
にっこり笑いながら成涸は刀の柄に手を添える。
「──これで終いや、
その表情を一瞬で冷ややかなものに変え、成涸は抜刀する。
禍々しい姿のキラーホーネットの身体はその一閃を真正面から受け、身体を両断された。
「エネミーの撃破を確認。システムをニュートラルモードに移行します」
「……っかぁー、やっぱ疲れるわぁー……」
臨戦態勢を崩すや否や、成涸は気の抜けた声を発する。
「相変わらず抜刀術の腕だけは信頼が置けるな」
「いやいやいや、他にも信頼を置けるとこがあるやろ?」
頼納と成涸がじゃれ合いじみた口論をする中、セナはとキラーホーネットの死骸から黄昏色の結晶体を回収する。
「お二人とも、新手が来ない内に峡谷を抜けましょう」
「……そうだな」
「またけったいな奴が飛んできたらかなわへんしなぁ」
「──魔機都グノスへの到着を確認、ナビゲートシステムを終了します」
「さすがはミッドクライスの首都やなぁ、どこもかしこも賑わっとるわぁ」
「ここ西区には様々な企業が運営する商店が密集しています」
「ああ、それでなんやな」
D2の解説に成涸が感心している横で頼納は依頼の報酬であるをセナに手渡す。
「護衛はここまでで充分だ」
「ん、やったら俺もここまでやな」
「ああ、俺が面倒を見てやれるのはここまでだ」
「おっと」
頼納が放り投げた小包を頼納は片手で掴み取る。
「それは餞別だ、持っていけ」
「おおきにな、頼納」
「報酬のついでだ」
別にええやんか、そないな言い方しいひんでも」
「えっと……そろそろ」
「おおそうやったそうやった、セナはんも達者でなぁ」
セナが言い切るよりも先に成涸が別れを告げて足早に去って行き、頼納も荷蟲を連れてさっさとその場を後にする。
「…………」
取り残されたセナは暫く固まった後、ポーチからマギフォンを取り出す。
「……アヤネさんに連絡しよう」
「──こちらMGC製品検査部。フィゼッタ・アイグレースがお受けします」
「フィゼッタさんお疲れ様です。セナ・アンリです」
「お疲れ様ですセナさん。部長への連絡でしたら少々お待ちを」
数秒の間を置き、マギフォンから響く声がフィゼッタのものからアヤネのものへと切り替わる。
「お疲れ様セナ、今回の依頼も無事に片付いたかしら?」
「同伴してくれた方のお陰で何とか」
「そう、それは良かったわね」
「……アヤネさん、直接お伝えしたいことがあるので今から本社に戻っても良いですか?」
「ちょっと待ってもらえるかしら……セナ、あなたは今どこにいるの?」
「グノス西区の繁華街です」
「あら、結構近場なのね……まぁ良いわ。準備して待ってるわね」
「ありがとうございます。では失礼します」
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