Chapter2:剣士と商人

四 次の依頼

「さてと、アヤネさんに連絡しなくちゃね」

ポーチからマギフォンを取り出し、画面を操作して通信機能を起動させる。

「はいはいこちらMGC製品検査部、ユリウス・クロナリアがお受けしますよっと」

「ユリウスさんお疲れ様です。セナ・アンリです」

「おーセナちゃんお疲れー、もしかして部長への連絡かな?」

「はい、アヤネさんはいらっしゃいますか?」

「いるよー、すぐに代わるからからちょっと待っててねー」

少しの間を置いてマギフォンから響く声がユリウスのものからアヤネのものに切り替わる。

「お疲れ様セナ。最初の依頼は無事に片付いた?」

「はい、少し苦戦しましたけど何とか」

「結構結構、最初はそれくらいがちょうど良いのよ」

「そういうものなんでしょうか……」

「そういうものなのよ。それじゃ早速次の依頼先へ──なんて意地の悪いことは言わないわよ。一仕事終わって疲れてるでしょうから今日はもう休みなさいな」

「そう言ってもらえて助かりました」

「正直でよろしい。あ、でも次の行き先だけは伝えておくわね」

「はい、次はどちらへ向かえば良いのでしょうか」

「港町フィズルに行ってちょうだい。連絡はそこでの仕事が片付いた後で良いわ」

「フィズルですね、分かりました」

「それじゃあまたね」

その一言を最後に通信機能が切られる。

「さてと、宿屋を探そうか」


翌朝、怪我の治療も充分な休養も消耗品の補充も済ませたセナはゾヘナを発った。

その道中は時折襲ってくるモンスターを蹴散らしたこと以外に語ることが無い程度には平和だった。

「……さすがは港町、グノス程じゃないにしても栄えてるね」

賑わう市場を横目に見ながらセナは目的地であるChasseurの中へと入る。

「あらいらっしゃい。あなたがMGCの方かしら?」

「はい。セナ・アンリと言います」

「うふふ、思ったよりかわいい子でびっくりしたわ」

「えっ?」

「独り言よ、気にしないで?」

不思議そうに首を傾げるセナの様子に店主の女は笑みを深くする。

「それじゃ仕事の内容について説明させてもらうわね。あなたにやってもらう仕事は護衛よ、グノスまでのね」

「ここからグノスまで……D2、ルートの検索を頼めるかな」

「ナビゲートシステム起動、港町フィズルから魔機都まきとグノスへのルートを検索開始」

ハルバード型MAが規則的な点滅を繰り返すこと数度。

「検索完了。移動時間を計算します」

稼働音と共に再び点滅すること数度。

「計算完了。ギナル渓谷けいこくを経由するルートが最適という結果が算出されました」

「ギナル渓谷……確かにあそこを通るなら護衛は必須だね」

「まぁそういうことよ。依頼人は隣の酒場にいるから話していらっしゃい。目立つ格好をしているからすぐに見つけられるはずよ」

「分かりました、早速行ってきますね」

ひらひらと手を振る店主の女に見送られながらセナは店を後にした。


「いらっしゃい。誰かお探しかな?」

スイングドアを開けて入ってきた客──セナに酒場のマスターを務める壮年の男が声をかける。

「えーと、Chasseurに依頼を出した人がここにいると聞いて来たのですが……」

「ああ、それなら向こうのテーブルにいる兄ちゃんだな。おーい兄ちゃん、依頼を受けてくれる子が来たぞー」

マスターが呼びかけた人物──独特なデザインの装束を纏った青年は長く伸ばした薄紫色の髪の隙間から覗く青い目でセナを睨む。

「お前が、か?」

「はい、セナ・アンリと言います。あなたが依頼人ですか?」

「……ああ、狗戸頼納くどらいなだ」

「良かったやん頼納、かわええ子に護衛就いてもろうて」

「お前は黙っていろ」

軽口を叩く隣席の男を頼納と呼ばれた人物はぎろりと睨む。

「そちらの方は?」

「……こいつも護衛だ」

水比良成涸みひらながれや。よろしゅうなぁ」

「はい、よろしくお願いします」

差し出された手を握り返した後、セナはふと気になったことを口にする。

「……それにしても変わった言葉遣いですね」

「そう聞こえる理由は私に搭載されている言語翻訳プログラムが邦語ほうごの訛りにも適応しているからかと」

大酉おおとり訛り言うんやでこれ。ところで今の声はあんさんの武器から?何か憑いているん?」

「私の識別名称はD型エーテル試作2号機。旅鷲向けに作られたD型エーテルの試作機であって憑いている、という表現は適切ではありません」

「えぇてる……?なんかよう分からんけどおもろいなぁ」

けらけらと笑う成涸の様子に頼納は頭を抱える。

「ったく、面倒ごとを増やしやがって……」

「ええやんこれぐらい。相変わらず頼納は口うるさいなぁ」

「お前が軽率すぎるんだ!大体昔からお前は……」

口論──正確には頼納の文句を成涸が聞き流す様子を眺めながらD2はセナに疑問を投げかける。

「セナ、彼らはどういう間柄なのでしょうか」

「うーん、友達……かな?ああいうやり取りが出来るぐらいには仲が良いと思うよ」

「理解しかねます」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る